現場に求められる緊急の判断【豪雨が起こした「まさか」の災害 #2】
近年、地球温暖化の影響もあり、ゲリラ豪雨や台風などにより日本全国で水害が多発しています。2015年の鬼怒川決壊では、水害には縁遠いと思われていた地域にも浸水被害が及びました。
鶴見大学短期大学部の天野珠路先生が、茨城県常総市の保育所・こども園と、防災の専門家にお話を聞きます。
第2回は「現場に求められる緊急の判断」。
常総市内の保育所、こども園と市のこども課に、緊急の判断が求められた豪雨の日の様子や、その経験を元に検討した対応をうかがいました。
(この記事は、『新 幼児と保育』2019年8/9月号に掲載されたものを元に再構成しました)
レポートする人
天野珠路(あまのたまじ)先生
鶴見大学短期大学部教授。元厚生労働省保育指導専門官。映画『3.11その時、保育園は』(2011年岩波映像)監修。著書に『写真で紹介 園の避難訓練ガイド』(2017年かもがわ出版)、『3・4・5歳児の指導計画保育園編【改訂版】』(小学館)などがある。『新 幼児と保育』誌上で「災害への備え2020」連載中。
取材協力
公立水海道第六保育所(茨城・常総市)
二葉こども園(茨城・常総市)
茨城県常総市役所保健福祉部こども課保育係
目次
避難先は休校、どこへ逃げる?〜公立水海道第六保育所〜
公立水海道第六保育所は鬼怒川の土手のすぐ脇にあります。2015年9月10日、9時45分に市役所こども課から一斉降所が決まったと連絡があり、52人の園児の保護者が次々に迎えに来ました。10時半の時点で5人が残っていました。
川は刻々と増水していましたが、一時避難場所になっている中学校は大雨のため休校しています。こども課と相談のうえ、5人の園児は大雨の中、職員の車に分乗し3キロほど離れた高台にある県立水海道第一高等学校へ避難しました。
緊急の判断は現場で〜常総市役所 保健福祉部こども課〜
9月10日の朝、こども課保育係の栗原秀太主事は保育所の状況把握に追われていました。
「はじめに被害が出た東さくら保育園には、30分おきに電話連絡していました。『水は全然見えていない』と確認したあと、30分後に連絡がとれなくなりました」
30分の間に園は床上70センチまで浸水し、隣の民家へ緊急避難していたのです。
常総市には鬼怒川と小貝川があり、災害対策本部も情報の把握とその対策に追われ、浸水や溢水(いっすい)の具体的な範囲などについて、情報は保育係へはほとんどおりてきませんでした。
「災害時は避難所対応に人員がとられます。このような状況では、タイミングを逃さず避難指示を出すのは困難な場合もあり、緊急避難の判断は基本的に現場ということになります」
と、こども課の飯野あや子課長。
今後の課題として、避難勧告や避難指示が出たら「即、休所する」などの明確な基準を設けることを検討しています。
常総市の 9/9 〜 9/11 の情報と対応
9月 9日
時刻 | 情報 | 対応 |
---|---|---|
23:00 | 氾濫警戒情報 |
9月10日
時刻 | 情報 | 対応 |
---|---|---|
0:15 | 氾濫危険情報 常総市の一部に避難指示 | |
6:30 | 常総市の一部で溢水発生 | |
7:00 | 全保育所で保育開始 | |
7:45 | 県内全域に大雨特別警報 | 市立の小中学校・幼稚園の休校・休園決定 |
9:00ごろ | 東さくら保育園で浸水 | 隣の民家に緊急避難、自衛隊のヘリコプターで救出される |
9:45 | 市は保育中止を決定 | |
9:50 | 水海道南部に避難指示 | |
10:30 | 水海道第六保育所、残った園児とともに水海道第一高校へ避難 | |
11:30 | 水海道第六保育所引き渡し終了 | |
12:30 | 水海道第三保育所引き渡し終了 | |
12:50 | 鬼怒川堤防決壊 | |
13:08 | 水海道本町などに避難指示 | |
15:00ごろ | 市内一部停電 | |
18:00ごろ | 市内一部断水 |
9月11日
時刻 | 情報 | 対応 |
---|---|---|
2:00ごろ~未明 | 市役所本庁舎浸水 水海道第三保育所浸水 | すべての保育所を休所決定 |
園バスを出さず、大雨に備える〜二葉こども園〜
二葉こども園は水海道地区の町中にあります。9月10日の朝は大雨のリスクを考え、加藤久幸園長は「どうしても必要なご家庭だけ」として、園バスを出しませんでした。そのため、登園したのは少数でした。
「鬼怒川から距離もあり、大きな浸水のリスクは考えませんでした。雨の音で防災無線もよく聞こえなかったせいか、昼過ぎにいきなり避難指示が出たのも予想外でした」
保護者が来るまでの間に簡単な昼食を出し、引き渡しは順調に行われました。園が浸水したのは11日の未明。園の敷地にはわずかな高低差があり、最大で床上130センチまで水をかぶりました。牧師として長年多くの被災地支援を行ってきた園長は、園の復興作業と並行して、園に大きなタンクを設置、教会組織の助けを借りて生活用水を集め、近隣住民も利用できるようにしました。
水害後の避難訓練では、高台にある小学校での引き渡し訓練を実施。浸水しない避難ルートについて、今後も検討を重ねていくそうです。
「まさか」の水害に備える
常総市の取材を通して、水害はどこでも起こりうることを痛感しました。平均気温が地球規模で上昇し、高温となる日が多くなるとともに時間当たりの降水量が増加しているといわれている現代、水害はかなりの割合で発生すると思われます。
保育現場においても地域の地理や地形を熟知し、いざというときに備えて避難計画を立てるとともに地域や保護者との連携を強めていくことが求められます。
構成/清水洋美
写真提供/水海道第六保育所、常総市役所
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