SNSが動かした? 停電解消へ【災害時の停電に備える #2】

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保育園の災害対策記事まとめ

鶴見大学短期大学部保育科教授

天野珠路

2019年の台風15号による千葉県内の停電は、完全な復旧までほぼ1か月かかり、「電気は一番早く復旧する」という認識が覆されました。

「災害時の停電に備える」連載第2回は「SNSが動かした? 停電解消へ」。
停電の中、6日間保育を行った保育園を天野珠路先生が訪問し、お話を聞きました。

(この記事は、『新 幼児と保育』2020年2/3月号に掲載されたものを元に再構成しました)

レポートする人

天野珠路(あまの たまじ)先生
鶴見大学短期大学部教授。元厚生労働省保育指導専門官。映画『3.11その時、保育園は』(2011年岩波映像)監修。著書に『写真で紹介 園の避難訓練ガイド』(2017年かもがわ出版)、『3・4・5歳児の指導計画保育園編【改訂版】』(小学館)などがある。『新 幼児と保育』誌上で「災害への備え2020」連載中。

取材協力
飯田栄子先生
社会福祉法人関東福祉会 日向保育園(千葉・山武市)園長

台風通過9日目

2019年9月9日、超大型の台風15号が千葉県に上陸し、広範囲で長期間にわたる停電が発生しました。日向保育園は停電の解消を待たずに、カセットコンロ用のガス缶で動かす自家発電機などを駆使して、9月13日に保育を再開していました(連載第1回)。

9月18日、各地の被災状況を取材しているカメラマンが園を訪れます。

夕方の保育室の中、ランプの明かりひとつで保育している様子がSNSにアップされ、テレビや新聞の取材も入りました。すると翌朝、それを見た東京電力から連絡がありました。

「折れた電柱の復旧作業が始まり、電源車が手配され、一時的な電源として電気自動車も用意されることになりました」
と飯田栄子園長。停電は市内でも迷路のように入り組んで発生しており、正確な把握には時間がかかっていたと思われます。

「あのSNSの写真がなかったら、電柱の倒壊は気づいてもらえなかったかもしれません。今後はこちらから発信できるように、園のSNSも立ち上げたんですよ」
自治体を通じて訴えるだけでは、十分に伝わらない場合も多いといえそうです。

台風通過9日目~ライフライン復旧まで 日向保育園の動き(2019年9月18日~10月1日)

日付情報園の状況
9月18日(水)停電継続・通常保育に戻る(7:00~19:00)
・登園園児数48人(全園児97人中)
・時間外保育を、停電が解消していた姉妹園の若杉保育園で行う
・ランプひとつで保育する様子がSNSで発信される
19日(木)停電継続・東京電力より電話(8:00)
・登園園児数67人
・テレビ、新聞の取材を受ける
・電源となる電気自動車到着(20:00)
20日(金)停電解消・登園園児数73人
21日(土)・登園園児数13人
・給食提供なし(弁当)
22日(日)休日休園
23日(月)祝日休園
10月1日(火)・電話(光回線)復旧
・登園園児数91人

3.11後、強化した備えが生きた

日向保育園では、2011年の東日本大震災をきっかけに備えを強化していました。まず、連絡機能を保持するために緊急時の連絡にも使える園専用の携帯電話を3台用意、そのうちのひとつを園長が持つようにしています。また、停電時もつながるアナログ回線を残しました。これは今回の停電時におおいに役立ちました。 

災害時の連絡について毎年4月に保護者に案内を渡し、徹底して協力を求めるようにしています。東日本大震災のときはまったく電話がつながらなかったことをふまえ、園の携帯サイトや災害伝言ダイヤル経由で確認するよう伝えています。そのため、今回も大きな混乱もなく園の状況を伝えられました。

日向保育園の停電対策グッズ 

今回の停電で活躍した備品です。

充電式のライト(左)と持ち運べる乾電池式のライト(右)。
上の写真の充電式のライトを裏から見たところ。ふたつのバッテリーは取り外せる。

写真には写っていませんが、長い延長コードも必要になります。発電機は排気の問題があり室内で使用できないためです。

ガス式の発電機。カセットコンロ用のガス缶2本で約2時間発電できる。扇風機2台と、携帯電話の充電に使った。
ガス式の発電機のふたを開けたところ。
今回の停電後に新たに購入したガソリン式の発電機。約4リットルのガソリンで最長10時間ほど使うことができる。

文/清水洋美 

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