水が引いた直後に動き出した公私の協力体制【公私連携で乗り切る! 西日本豪雨の体験から #1】
平成30年7月の西日本豪雨で大きな被害を受けた広島県において、公立、私立の枠を超えた素早い連携と判断で保育を再開した関係者のみなさんに、当時の行動と今後についてうかがいました。
第1回は「水が引いた直後に動き出した公私の協力体制」。
広島県三原市立本郷ひまわり保育所所長妙見伸子先生に、被災当日の様子や、保護者も巻き込んだ新たな防災対策についてお話をうかがいました。
(この記事は、『新 幼児と保育』2019年10/11月号に掲載されたものを元に再構成しました)
レポートする人
天野珠路(あまのたまじ)先生
鶴見大学短期大学部教授。元厚生労働省保育指導専門官。映画『3.11その時、保育園は』(2011年岩波映像)監修。著書に『写真で紹介 園の避難訓練ガイド』(2017年かもがわ出版)、『3・4・5歳児の指導計画保育園編【改訂版】』(小学館)などがある。『新 幼児と保育』誌上で「災害への備え2020」連載中。
取材協力
妙見伸子先生(広島県三原市立本郷ひまわり保育所所長)
目次
平成最悪の水害から学ぶ
平成30年7月5日から8日にかけて、梅雨前線が西日本付近に停滞し、広範囲にわたり記録的な大雨となりました。計11府県に警報が発令され、土砂災害や川の氾濫が相次ぎました。全国で245人の死者・行方不明者が出たほか、全半壊した住宅は約2万戸に及んでいます。
堤防の決壊を引き起こした原因として、「バックウォーター現象」という聞きなれない言葉が報じられました。これは豪雨などで川の本流の水位が上がることで、本流に流れ込むべき支流の水が、壁にぶつかるように流れを阻害され、行き場を失ってあふれ出す現象のことをいいます。
広島県においても多くの河川が氾濫し、初めて経験する広域災害に「想定外」が続出、県内の犠牲者は100名を超え、いまだ行方不明の方もいます。
保育現場でも浸水や土砂の流入により全壊または半壊の被害を受けた園があります。
また、保育が不可能となった園や、復旧までに時間を要する園もありました。ライフラインが閉ざされ、道路や交通網の遮断で物資の流通がかなわず、保育継続にたいへん苦労された園もあり、その体験談は身につまされるものがあります。
さらに、厳しい状況の中で保育現場のネットワークが生かされ協力体制がとられたことも特筆に値します。
狭い国土にたくさんの河川が流れる日本において、全国どこでも水害対策はたいへん重要であり、広島のみなさんの声に耳を傾けていただきたいと思います。
2メートル浸水で全壊、5か所での代替保育へ 三原市立本郷ひまわり保育所
2018年7月5日、雨は大雨警報が出るほどの降り方で、三原市では6日に小学校が休校になったため、6日に登園した子どもの数はやや少なめでした。雨が一層強まる予想となり、市役所からの指示で保護者に早めのお迎えを電話で依頼、午後6時には降園が終了しました。
日付が変わった7日午前2時前に沼田川が氾濫、園舎は朝を待たずに2メートルの浸水被害を受けました。
「浸水で全壊など、考えたこともありませんでした。7日、8日は道路冠水のために保育所へ行くこともできず、保護者への安否確認と休園の連絡は市役所で職員が交替で電話をかけつづけ、とても長い時間がかかりました」
と、妙見伸子先生は語ります。
水の引いた9日、一面の泥に覆われ、鼻をつく臭いがする園舎の様子に、職員たちは声も出ませんでした。
一方で行政の動きは早く、この日のうちに被害把握と代替保育の仕組みを整えるために公立私立所長・園長会議が行われ、107人の子どもたちの保育と、園の再開へ向けた協力体制が動き始めました。
三原市の 7/6 〜 7/18 の情報と対応
日付 | 時刻 | 情報 | 対応 |
---|---|---|---|
7月6日(金) | 10:06 | 洪水警報、大雨警報(土砂災害・浸水害) | 小中学校は休校。 |
15:00ごろ | 市役所から指示 | 保護者に早めに迎えに来てもらうよう連絡。 早めに降園終了。 明朝6:00に「避難準備・高齢者等避難開始」が解除されていない場合は休園とする。 | |
17:10 | 沼田川洪水予報・氾濫警戒情報(以降3回更新される) | ||
19:40 | 大雨特別警報(浸水害) | ||
7月7日(土) | 1:50 | 沼田川で氾濫発生 | 本郷ひまわり保育所浸水。 |
朝 | 各所で冠水のため道路寸断 | 本郷ひまわり保育所休園決定。 | |
10:50 | 大雨特別警報解除 市内全域で断水 市内9700戸余りで停電 | ||
7月8日(日) | 14:45 | 洪水警報解除 | 浸水地域では職員が保育園まで行けず、可能な場所から保護者へ連絡。 |
7月9日(月) | 三原市公立・私立 所長・園長会議 | 市立は1週間休所決定。 代替保育所について動き出す。 | |
7月14日(土) | 市内水道復旧率64.8% | ||
7月17日(火) | 被災していない園で保育再開。 | ||
7月18日(水) | 市内水道復旧率84.9% | 代替保育所での保育開始。 |
保護者と共有する新たな防災マニュアル作成へ
1回目の保護者説明会では、再開の見通し、代替保育先での延長保育、担任について、質問が相次ぎました。布団や着替え、道具箱一式の個人の持ち物はすべて使えなくなりましたが、父母会への寄付があり、そこから一部を購入できることになりました。
「もし昼間に氾濫していたらどうするのか?」
という質問もあり、吹き抜けのキャットウォークに上がること、今後は「避難準備・高齢者等避難開始」が発令されたらお迎えを依頼することを説明しました。
保育所は2019年10月に保育を再開する予定ですが、その前に保護者総会で新たな防災マニュアルを発表します。
「子どもを守るための責任の一端を保護者の方々にも負ってもらうよう、理解を求めていきます」。
具体的には市から配信する一斉メールへの登録を依頼、朝6時の時点で「警戒レベル3」が発令されたら休園、警報解除の際の対応については、時間軸に沿ったものを検討中です。また、隣接する施設の2階を緊急の避難場所とできるよう、連携を依頼しています。
構成/清水 洋美
【関連記事】
保育園の災害対策記事まとめシリーズはこちら!
・代替保育で公私が助け合う【公私連携で乗り切る! 西日本豪雨の体験から #2】
・次の豪雨に備える【公私連携で乗り切る! 西日本豪雨の体験から #3】
・3.11を経た、新しい園舎での備え【災害時の停電に備える #3】
・ガス缶と乾電池でしのいだ保育【災害時の停電に備える #1】
・SNSが動かした? 停電解消へ【災害時の停電に備える #2】
・水が引いた直後に動き出した公私の協力体制【公私連携で乗り切る! 西日本豪雨の体験から #1】
・わずかな高低差が浸水のリスクに【豪雨が起こした「まさか」の災害 #1】
・現場に求められる緊急の判断【豪雨が起こした「まさか」の災害 #2】
・避難時の心得と事前のリスク共有【豪雨が起こした「まさか」の災害 #3】
・新しい避難マニュアル【3.11東日本大震災から学んだ避難ルート #3】
>>もっと見る