かかわり方の提案【ほかの子と遊ぼうとしない新入園児の援助 #3】
「気になる子」への対応において忘れてはいけないのが「行動には理由がある」ということ。
子どもとの関係をよりよいものにするのに役立つ具体的な対応例を、巡回相談支援に携わる臨床心理士の木原望美先生に教えてもらいました。
3回シリーズでお伝えします。
・子どもが困っていることは何か?を見極めよう【ほかの子と遊ぼうとしない新入園児の援助 #1】
・情報を集めて背景を理解しよう【ほかの子と遊ぼうとしない新入園児の援助 #2】
を踏まえて、今回は新入園児Aくんとのかかわり方を提案します。
(この記事は、『新 幼児と保育』2021年4/5月号に掲載されたものを元に再構成しました)
お話
木原望美先生
臨床心理士・公認心理師。愛育相談所、愛育クリニック医療福祉室。千葉県や東京都で巡回相談支援に携わり、困りごとを抱えた子どもや保護者の支援、保育者へのアドバイスなどを行ってきた。
目次
モデルケース(※)
新入園児のAくん(3歳・男の子)
いつも電車のおもちゃでひとり遊びをしており、保育者が誘っても友達と遊ぼうとしない。Aくんが使っていたおもちゃに、横からBくんが手を伸ばしたとき、怒ってBくんをたたいてしまった。
※上記モデルケースは、特定の個人についてのものではありません。
かかわり方の提案
「気になる行動」の理由(詳しくは第2回の記事参照)に応じて、子どもが「今困っていること」をサポートするためのかかわり方を考えます。
Aくんとのかかわり方のポイント
・ひとり遊びを止めたり、無理に友達との遊びに誘ったりするのはやめます。
・「ひとり遊び」から、保育者との「1対1の遊び」へのステップアップを目指します。
・特定の保育者との信頼関係を深めて、「困ったときに助けを求められる」関係性を目指します。
怒ったときは別室でクールダウン
刺激に敏感なため、興奮したとき別室へ移すのはよい方法です。Aくんが落ち着くまで、保育者がつきそって静かな部屋で過ごしましょう。トラブルがあった場合でも、ここでしからないでください。クールダウンするための場所を「嫌なところ」にしないように注意しましょう。
生活面の予定はイラスト入りで「見える化」
行動予定などは、言葉より「見てわかる」形にしたほうが伝わります。イラスト入りのカードなどを利用して、「次はお昼寝だよ」などと予定を説明しましょう。
気持ちを推測した言葉かけ
気持ちを言葉にするのが苦手なので、「どうして?」「どう思う?」という質問は避けます。「これを使いたかったのかな」「くやしかったんだよね」のように、Aくんの気持ちを推測し、代弁する言葉かけを心がけます。
【例】AくんがBくんをたたいてしまったとき
Aくんへの言葉がけ
「おもちゃをとられちゃって嫌だったんだよね」
「でも、たたいちゃダメだよ」
まず、共感してAくんの思いを言葉にします。「たたいてはダメ」と伝えるのはその後です。
Bくんへの言葉がけ
「たたかれて、嫌だったね」
「使っているおもちゃをとられると、Aくんは嫌なんだって」
「Aくんがどう思ったか」をわかりやすく伝え、クラスの中でのAくんへの理解を広げていきます。
「信頼できる人」との1対1の関係づくり
友達とかかわれるようになるのは、保育者との1対1の関係がしっかりできてから。関係づくりには年単位で時間がかかることもあるので、じっくり取り組みましょう。
ひとり遊びをするAくんの近くで、Aくんのまねをしながら同じ遊びをします。「じゃまはしないけれど、自分を見ていてくれる人」「自分にとって無害な人」という存在になれれば成功です。
遊びの中で、Aくんが困って助けを求めてきたときはすぐに応えます。こうした小さな「よい経験」を積み重ねることで、保育者への信頼が深まり、他人への興味にもつながっていきます。
文/野口久美子 イラスト/榎本香子
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