「動物の死をめぐって」(前編)〜ネコが死んでいた〜

特集
小学館が後援する保育記録の公募「わたしの保育記録」

執筆/森のようちえんピッコロ・中島久美子

ネコが死んでいた

森のようちえんピッコロ。
毎日森へ入り、森で遊び、野外でお弁当を食べ1日が終わる。私はそんなようちえんで働いている。

いつかは来るだろうと思っていたのだ。
こんな保育をしているからには、いずれ遭遇するであろう、動物の死。
今日がその日だった。
園舎の脇の道路にネコが死んでいたのだ。

以前、私は森のようちえん全国フォーラムで長野の「山の遊び舎はらぺこ」さんの話を聞いたことがある。森の中の廃屋に、キツネが死んでいたそうだ。それもすでにウジがわいていた。
それを子どもたちに見せたという。

私はその時、ここぞとばかりに質問した。

「怖い、気持ち悪いと言ったり、騒いだりする子はいませんでしたか」。
いなかったと言う。

森はいくつもの命が重なり合って存在する。
靴底に感じる無数の命。
草、木々、虫、動物、つながり合う生。

命の集合体である森の保育を私は選んだ。

「もし森で動物の死に遭遇したら、子どもたちにありのままを見せよう。そうでないとここで保育をやっている意味がなくなる。」

その時、私はそう心に決めた。

しかし、実際に死んでいるネコを目の前にすると迷いもある。
赤い色をしたお腹の肉、あらわになっているあばら骨。その骨についた赤い血。
大人の私でさえ目を覆いたくなるような光景だ。

本当に見せて大丈夫なのか。
泣いてしまう子がいたらどうしよう。
子どもたちが登園する前に片づけてしまおうか…。

迷った。とても迷った。
結局、私はネコをそのままにしてその場を立ち去った。

その日、森に入る途中、子どもたちはネコを見つけた。

「あっ」と言ったまま動かなくなった。
次々とネコに気づき動かなくなる。
ネコは子どもたちに囲まれ、そしてしばらく時が流れた。

子どもたちは、騒ぐでもなく泣くでもなく、ただただじっとネコを見ていた。

どれくらいの時間がたったのだろう。
静かだった。
私にはとても長く感じられた。
胸がつまりそうだった。
何か言ったほうがいいのかと思った。
しかし言えなかった。
人間が何かをする空気ではないような気がしたからだ。

すると、ふとHちゃんがネコの横にしゃがんだ。
偶然手に持っていた花束を静かに顔の横に置いたのだ。

一瞬、時が止まったようだった。

私は息を飲んだ。
次の瞬間、子どもたちは静かに動き出した。
花を摘みに行く、ネコの周りに置く、また摘みに行く、置く。
ネコはアッという間に紫とピンクに囲まれた。

そこで初めて子どもたちが口を開き、ネコを囲んで話を始めた。

「ひかれたのかな」

「そうかもね」

「お腹がないね」

「ライオンに食べられたんだよ」

「ライオンはここにはいないよ!」

「猿じゃない?」

「猿は肉食じゃない」

「熊かな」

「そうかも」

「カラスじゃない?」

「そうかもね」

なんともよく知っている。

私はそのあと、どうしようかと思っていた。
答えは子どもたちが出した。
寒くてかわいそうだから、葉っぱをかけてあげたいと言い出したのだ。

枯葉をかけるとネコの体が見えなくなりこんもりとした茶色い山ができた。
全員で手を合わせた。

実は今日、私は、ネコを埋めてお墓を作りたかった。
しかし、ここから子どもたちを促して先に進めることはできなかった。
子どもたちの中では、すでに完了していたからだ。

泣く子もいない、叫ぶ子も気持ち悪いという子もいなかった。
子どもたちはネコの死をそのまま受け止めた。

私が思うほど、彼らの魂はもろくはなかった。

▶後編はこちら「動物の死をめぐって」(後編)〜ネコミーティング〜

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