連絡帳&おたより 保護者に伝える書き方のコツ
毎日の連絡帳や月に一度のおたよりを保護者はこちらが思う以上にくり返し、大切に読んでいるもの。どんな思いで受け取っているのか読み手に思いをはせることでどう書くか、何を書くかが見えてきます。保護者に伝えるための「書く」コツを工藤佳代子先生にうかがいました。
お話
工藤佳代子 先生
東京家政大学ナースリールーム施設長。 「連絡帳は毎日のやりとりであり、保護者との関係を築く大切なツールです。 ほかの保育者の連絡帳を見ることはとても勉強になります。自己研鑽、身近でできる研修、学びのツールだと思って読ませてもらうといいでしょう」
目次
連絡帳もおたよりも保育のプロの目で書いて伝えることに意味があります
園での子どもの姿をつづり、保護者に向けて情報を発信・共有する連絡帳とおたより。それぞれに役割はありますが、どちらも家庭と園とをつなぎ、また保護者支援にもつながる大切なツールです。
いまは写真で園の様子を保護者のスマートフォンにダイレクトに届けられるアプリも多くあり、その日にあったことを知らせる手段としてはひとつの方法です。ただ、それが連絡帳やおたよりの代わりになるかというと、それはまったく役割が違うと考えています。
連絡帳もおたよりも、保育の専門家である保育者の目を通して子どものありのままの姿を伝え、また同時に保育の読み取りを伝えることに大きな意味があります。文章にして「書く」ということは難しい面もある一方で、保護者にとっては何度もくり返し読むことができて、ずっと残っていくもの。特に時間のない中で書く毎日の連絡帳は、「仕事だから書く」となりがちなのですが、「こんな姿を書きたい」「この様子を伝えたい」というふうに、書くことを楽しみながら取り組めたらいいなと思います。
連絡帳
「保護者がどんな思いで受け取るのか」そこに思いをはせて書くことが大切。
連絡帳といっても連絡だけにとどまるものではなく、子どものことを伝え合うというのが役割として大きいところです。毎日積み重ねていくものですから、子どもの成長の記録にもなり、また、そのときどきの思いもつづられていきますから、保護者にとっても子どもにとっても、一生の宝物にもなりえます。それほど大事なものを毎日書いているという気持ちで取り組みたいもの。
保育者が子どもにどんな思いで向き合っているかというのは、連絡帳の書き方にも表れてきます。保育の仕事のひとつとして「書かなくてはいけないから書いている」ということもあるかもしれません。ですが、読む保護者は、とても楽しみにしています。「保護者が喜ぶから」というのではなくて、「保護者がどんな思いで受け取るのか」というところに思いをはせていくと、連絡帳との向き合い方が変わってくるのではないでしょうか。目の前の子どもと向き合うのと同じぐらいに、連絡帳に対しても誠実に向き合いたいものです。
連絡やエピソードだけではなく、面と向かってはいえないこと、不安や悩みごとなど、連絡帳には保護者の心の声が書き込まれることもあります。その思いに寄り添っていくこともまた、子育て支援につながります。
コツ 入園間もない時期には生活のあらゆる場面を中心に
入園間もない子どもの保護者が何より知りたいと思うことは「園での子どもの様子」です。保護者は朝と夕方しか園での子どもの様子を見ていません。そのうえ、別れ際に泣かれようものなら、保育園での様子を想像するときに、ものすごくネガティブに想像が広がってしまうことがあります。保育者はつい、遊んでいる場面、楽しい場面などを取り上げがちなのですが、特に入園間もない時期には生活の場面を丁寧に伝えることを心がけます。
保育者としては「ありのままの姿と生活の一場面」をとったことになりますが、保護者が「家で見せる姿と同じだ」と感じてくれたら、「保育園でも自分の気持ちを表現できているんだな」と安心し、「子どもの気持ちに合わせてかかわってもらっているんだな」と感じてもらえるのではないでしょうか。読み手の側に立って、いま知りたいことはなんだろうと考え、食事、午睡、友達との様子、ときには発達のことなどを含めて、あらゆる場面を書いていくことが大切。保護者は1日の様子を立体的に想像できるようになっていきます。
コツ 「みんな」ではなく、「この子」の様子を具体的に伝える
保護者は「わが子」だけを見ています。ほかの園に勤めていたとき、ある先生が「きょうはみんなで楽しく砂場で遊びました」と連絡帳に書いたところ、その子の保護者は「うちの子は砂をさわるのが嫌いだから砂場で楽しく遊ぶわけがない」とがっかりされてしまったことがありました。保護者が「みんなに同じようなことを書いているんだな」と感じてしまったら、連絡帳すべてに対する信用がなくなります。遊んだことが事実であっても、違う見方があり、伝え方があるはずです。
一見、ネガティブに見えるけれど、「うちの子らしい」と思ったときの信ぴょう性はそのまま信用につながりますし、「うちの子が砂をさわりたくないというのをちゃんと見ていてくれているんだ」と感じてくれたら、保育者に対して信頼も生まれます。
信頼関係は、子どもや保護者に誠実に向き合うことで、相手が「信用しても大丈夫かな」「今度話してみようかな」と思うことの積み重ねでできていくものです。連絡帳の文章も、その積み重ねの一つひとつになると思います。
Q.保護者が連絡帳を書いてくれないときは?…
強要せず、できるところから少しずつ
0・1・2歳の連絡帳には、食事・睡眠・排便などの生活面の欄と、エピソードなどを書き込むスペースがあるのが普通です。書いてほしいのは生活面?それとも文章のところですか?
私自身、以前は文章のほうを書いてほしいと思っていたのですが、なぜ書いてほしいかを考えてみると、小さい子であればあるほど生活面のほうが重要だと気づきました。これらは自分では話せない子どもの様子を正確に知る手がかりになります。体調の変化を知っているか知っていないかでは、対応にも大きく違いがあります。何もいわない子どもに負担をかけてしまうことにもなるのです。
「生活面のところだけでも書いていただけると、○○ちゃんの様子がよくわかるのですが…」と伝えてみましょう。
一方、2歳クラスになると、現在、過去、未来というのが子どもたちの中に出てきて、昨日は〇〇に行った、パパの誕生日でハッピーバースデーをやった、などということが話題に上ります。ちゃんとは話すことができない中で、子どもが「ふうーした」といったとき、連絡帳に「昨日はパパの誕生日でした」と書いてあれば、「パパの誕生日で、ろうそく消したんだね」と察し、保育者のサポートを受けて、子ども同士が会話をすることができます。
「子どもたち同士で話をするようになってきたので、土日の様子だけでも書いていただけると、気持ちよく会話ができるお手伝いができるのですが…」と伝えてみてはどうでしょう?
「決まりだから」ではなく、「子どもにとって必要なこと、大事なことだから書いてほしい」ということを伝え、保護者が「できることからやってみよう」と思えるサポートができるといいと思います。
コツ 不安、問いかけに応答的にやりとりする
投げかけたものをスルーされると、保護者は「変なことをいっちゃったのかな」「聞かなければよかったな」と思ってしまいます。ダイレクトに聞かれたものに対しては、口頭でもいいので必ずそれに答えましょう。ただし、なかには質問の形にはなっていないものもあります。
0歳4か月半。ちょっと風が涼しくなってきたかなという9月のある日の連絡帳です。質問の形ではありませんが、その気持ちを受け取って答えたものです。
「そうですね。困ってしまいますよね」と共感すると「こんなことも書いていいんだ」と思えますし、朝の自分の感覚で着せても、それが適切でなくても調節してもらえるんだと安心します。「私たちは〇〇を目安にしていますよ」などと書けば、保護者も今後それを参考にすることができます。
コツ リクエストには向き合う気持ちがあることを伝える
連絡帳には保護者からのリクエストも書き込まれることがあります。できる、できないにかかわらず、それを書かずにはいられない気持ちに寄り添って応えます。
なかには、このように箇条書きで書かれるリクエストもあります。これらは保育では当たり前にすることばかりなのですが、「はいわかりました、〇〇ですね」と確認しながら受けとめることで、保護者はほっとできるだろうと思います。
もちろん、なかには応えられないリクエストもあります。その場合もけっしてスルーをしないこと。まずは「承知しました」と書いて、直接、話をするのがいいでしょう。「細かいことになるので、ご都合のいい時間にお電話ください」とか「お昼寝中の2時ぐらいからなら大丈夫です」など、「向き合うつもりがあります」ということをきちんと伝えます。
コツ 「困った」に対して、保育の受けとめ方を伝えることも大事
この例は、最初に相談があり、それに応えてやりとりをしたものです。保護者にとって「困ったな」と思うことも、実はとても魅力的なことだったりします。保育者が子どもの受けとめ方を伝え続けていくことで、保護者は「そういう受けとめ方があるんだ!」と気づくことができ、また安心につながります。「わが子がおもしろい」と思うきっかけにもなります。
さらにコツ 保護者の心身にも思いを寄せる
このような記載があったとき、「お母さん、眠れていませんね、大丈夫ですか?」と、最初にひと言を入れるだけで伝わり方が大きく違います。保護者を、子どものお母さん、子どものお父さんとしてみてしまうと、弱音がはけないということがあります。子どもの背後にいる人ではなくて、子どもと同列にいる人と考え、寝不足のお母さんにも思いをはせることができると、保護者の方との関係も自然とよい方向に向いていくのではないかと思います。
Q. 一番の子育て支援は?
「わが子ってすごい!」と思える視点を育てていくこと
毎日のエピソードを通して、保育者は子どもの解説をしているともいえます。そして、子どものありのままの行為を善意としてとらえ、保育での読み取りを伝えていくことをやっていると、保護者の「子どもの見方」に着々と影響していくと感じます。「〇〇したのを見て、これはすごいなと思いました」「こんなこともできるんですね」と伝えるうちに、保護者の中にも、「わが子を好意的に見る目」が育っていきます。わが子が自分の知らない場所で、ひとりの人間として人とコミュニケーションをとっている、自分とは別の人格を持つひとりの人というふうに思えてくると、わが子に対して尊重の仕方も違ってきます。そういう視点を育てることが、なによりの子育て支援になるのかもしれません。
「うちの子すごい!」などとは、なかなか口に出しにくいものですが、うちの子をすごいと思っている先生には「すごい」ということをいえる。それを保育者と共有することで、安心して子育てができるようになります。身近な人に認めてもらえるというのは、子どもにとっても、とてもうれしいことだと思います。
おたより
クラス全体、園全体で共有する「おたより」には保護者同士をつなぐ役目もあります。
クラスや園のおたよりは、保護者にとっては自分の子ども以外を知る機会にもなり、クラスの様子を知ることもできます。案外、保護者同士というのは、送り迎えの時間が重なる人以外とはほとんど接しておらず、1年に数回しか会わない親と子もいます。そんな人たちを「知らない人」のままにせず、つなげていくという役割も「おたより」にはあります。園の考え、クラス担任の思いを伝えたり、また発達についても伝える機会になります。ナースリールームでは各クラスA4用紙1枚ずつと全体に向けての園だよりをセットにして月1回、届けています。
わが子とともに育っている子どもたちのことも知ってもらう
連絡帳もそうですが、ナースリールームの場合は子どもの名前を積極的に出しています。具体的な名前が出ていたほうが、子どもたちの関係性も伝わりやすいからです。
たとえば、ケンカで傷ができてしまったとき突然名前が出てくると、やってしまったほうもやられてしまったほうも必要以上に心配になったりします。でも、名前を知っていて子どもたちの関係性もわかっていれば、「毎日遊んでいればこういうこともあるよね」と考えられたりします。
「〇〇くん、きょうはまだいますか?」とか「きょうは来ていますか?」など、わが子とともに育っている子どもにも思いを寄せるようになり、会ったときには保護者同士、「いつも遊んでいるようで…」とか、「いたずら仲間のようですね」という会話も生まれやすくなります。このつながりができると、何かがあったときにも子どもを育てている者同士で共感できるようになるようです。
「仲間というのは子どもの育ちに欠かせない存在なので興味を持ってください」といっても持てるものではありませんが、連絡帳やおたよりで様子を垣間見ることで、「知りたいな」「会いたいな」とか、「同じものを取り合っています」と聞けば、「同じものに興味があるのだから、やがては気の合う仲間になるのかな」など、楽しみにするようになるかもしれません。
イラスト/上島愛子
『新 幼児と保育 増刊』2021年春号より
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