大豆生田啓友先生✕つるの剛士さん|注目校訪問レポート「育ちと学びをつなぐ幼保小連携・接続型教育」
大豆生田啓友先生と幼稚園教論二種免許と保育士資格を取得したタレントのつるの剛士さんが、今回おじゃましたのは、幼保小の連携教育を充実させている横浜市立恩田小学校(神奈川・横浜市)。園と小学校が共有・協働する仕組みに触れながら、保育の未来を考えます。
玉川大学教授・大豆生田啓友先生
1965年、栃木県生まれ。玉川大学教育学部教授。保育の質の向上、子育て支援などの研究を中心に行う。NHK Eテレ『すくすく子育て』をはじめテレビ出演や講演など幅広く活動。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』(共著・小学館刊)など多数。
タレント・つるの剛士さん
1975年、福岡県生まれ。『ウルトラマンダイナ』で俳優デビュー。音楽でも才能を発揮し人気に。現在、2男3女の父親。2022年に幼稚園教論免許、保育士資格を取得した。CD・歌手デビュー10周年『つるの剛士ベスト』発売中。
横浜市立恩田小学校校長・寳來生志子先生
横浜市立大岡小学校に勤務後、平成24年から平成28年には、横浜市こども青少年局担当課長として、幼保小連携、スタートカリキュラム推進、文部科学省の学習指導要領の改善などにも尽力。横浜市立池上小学校校長を経て、現在に至る。
目次
横浜市立恩田小学校
訪問ドキュメンテーション
今までさまざまな園を巡ってきた大豆生田先生とつるのさん。今回訪れたのは幼保小の連携・接続の先進地、横浜市にある横浜市立恩田小学校。園で培った子どもたちの学びが、小学校でどう生かされているのか、1年生のカリキュラムを見学させていただきました。
多様な園や学校が協働し、子どもの探究心を育てる
つるのさんは以前、こんな疑問を持っていました。「保育園で学んだことが、小学校でどう生かされているんだろう」。
その疑問に答えるべく、今回は横浜市にある恩田小学校を訪れました。恩田小学校は積極的に小学校改革に取り組んできた学校です。特に力を入れてきたのが、幼保小の連携。その成果は、1年生の教室に入ったときにすぐにわかりました。
教室では子どもたちが工夫を凝らしながらおもちゃ作りを楽しんでいました。ある子は木の実飛ばしゲームを、ある子は楽器を、自由な発想で夢中になって製作しています。姿勢を正して黒板に向かっている子はひとりもいません。みんな熱中し集中し、時間を惜しむように行動していました。
「みんな楽しそう! きちっとすわって黒板を向いていた僕たちの小学校のときとぜんぜん違う。やってることが保育園と同じですね」と、驚くつるのさん。大豆生田先生が言います。
「保育の”子ども主体の遊び“を小学校も継続しようと、今は小学1年生のスタートカリキュラムに幼児教育の『遊びの学び』を取り入れるようになりました。多様な園と学校が協働して子どもたちの探究心を育てる動きが、教育全体の中に浸透し始めています」
自分らしさを表現し、新しい人間関係を築く
恩田小学校では、横浜市が策定した「横浜版接続期カリキュラム」に基づき小学1年生のスタートカリキュラムを編成。個々の発想・表現を育てる「あそびタイム」、歌やダンス、自己紹介ゲームなどで新しい人間関係を構築する「なかよしタイム」、さまざまな疑問を友達と解決し探究心を高める「わくわくタイム」などを取り入れています。
「『わくわくタイム』で作っていた木の実をスプーンで飛ばすゲームは”算数“だし、『なかよしタイム』の歌やダンスは”音楽“。遊びの中に算数、国語、理科、社会、音楽、すべて含まれている気がします。保育園でやってきたことをさらにレベルアップさせたような教育ですね」と、つるのさんは興味津々に子どもたちの遊びを見学しています。
「今までの幼児教育って小学校の準備みたいに思われてきたじゃないですか。45分すわれるようにしないと小学校に入ってから困るよ…とかね。だけど最近は教育の流れも変わって、小学1年生はゼロからのスタートじゃなく保育の延長線上にあるので、園側も安心して子どもを小学校に送り届けることができると思いますよ」(大豆生田先生)
この幼保小連携で重要なのが「親御さんのマインドセット」と、おふたりは言います。
「保護者の方の中にはただ遊んでいる授業にしか見えなくて不安に思う人もいると思うので、親御さんのマインドセットも重要になりますね」(つるのさん)
「遊びの中にたくさんの『学び』があることを保護者の方に理解していただくために、先生たちは今まで以上に発信力を鍛えていかなければなりません。幼保小が共通の認識を持ち、ドキュメンテーションなどわかりやすい方法で伝えていくことも大切です」(大豆生田先生)
幼児期の体験をベースに「自ら育つ」学校へ
「1年生はゼロからのスタートじゃない」をスローガンに始まった小学校のスタートカリキュラム。幼児期に園で培った子どもの個性を大事にし、小学校でさらに子どもの能力を引き出していきます。恩田小学校校長の寳來生志子先生を交えて、幼保小連携の子どもの未来についてをお話しいただきました。
大豆生田/つるのさんは以前、「保育の『子ども主体の遊びの学び』が、小学校でどう生かされているのかを知りたい」とおっしゃっていましたね。実際に小学校を見学されてどのように感じましたか?
つるの/今回、1年生の生活科の授業を見学させていただきましたが、保育園でやっていることとほぼ変わらない授業でびっくりしました。見学する前は正直、小学校に上がったら保育で学んだことがゼロになっちゃうんじゃないかと思っていました。
なぜなら僕が小学生だったのころは、「きちっと姿勢を正してすわって、前を向いて先生の言うことを聞く」みたいな教育だったから。せっかく園で身につけた学びが断ち切れちゃうんじゃないかって心配していたんです。だけど、ぜんぜん違いました。
恩田小学校のように幼保小が連携して教育に取り組めれば、園の先生たちも安心して子どもたちを小学校の世界に送り届けることができますね。
大豆生田/幼児教育の延長線上にあるのが小学校の生活科です。生活科の「遊び」が中核となって小学校がスタートするというのは、幼保小が連携・接続していく意味でもとても大事なことです。
寳來/私が恩田小で一番大切にしているのは、「考えないスイッチが入らないようにする」です。手はおひざ、指示されたことに従うという教育だと、「小学校って先生に従えばいいんだ」といった間違った認識で「考えないスイッチ」がピッと入ってしまう。そうするとせっかく園の遊びから学んだ考える能力が衰えてしまうと思うんです。
ですから、うちの学校では「子どもを育てる学校から、子どもが育つ学校づくり」を目標に、子ども自らが考え行動できる学校作りに力を注いでいるんです。
大豆生田/すべてお膳立てされて先生の指示だけに従っていると、思考が停止して探究心も薄れてしまいます。それに比べ恩田小学校の子どもたちはみんな意欲的で、集中し熱中して学んでいました。しかも仲間と協力しあいながら。
本来、子どもは自ら学ぶ能力を持っています。その能力を最大限に発揮できるよう誘導してあげるのが、保育者や教師の役割ではないでしょうか。
寳來/子どもが「どうしたらいいんだろう」って困っているときに、「こうしなさい、ああしなさい」って教えるのではなく、「それはいいハテナだね。みんなで解決してみる?」って投げかけています。そうすると子どもたちはみんなで協力しあい、楽しみながら疑問を解決していきます。こうやってみんなで解決するのも勉強のひとつなんだということを、多くの方に知ってもらいたいですね。
つるの/「なぜ?」「どうして?」って疑問が増えれば増えるほど、子どもたちの学ぶ窓口も広がりますよね。算数や国語や理科は教科書の中だけではなくて、遊びの中にもたくさん存在しているわけですから。
寳來/そのとおりだと思います。生活科は園の幼児教育と関連する「発達の特性」を生かした教科なので、そこに国語的要素を入れたり、算数的要素を入れたりしながら、つないでいきたいなと考えています。
大豆生田/今までの小学校では教えてもらう受動的な学びが主流でしたが、これからは探究型の学びがより重要視されてくると思います。考えずにできることはAIがすべてやってくれる時代だから。人間本来が持つ探究心を鍛えてワクワクしながら学んでいく教育。それを実現させるためには、やはり幼保小の連携・接続がすごく大事になってきます。
寳來/園と学校がともに、「子どもは自分より小さいけど、ひとりの人間として尊重しよう」という気持ちになれれば、連携も難しいことではないと思っています。まずは子どもの声をちゃんと聞く。そこからスタートすることじゃないでしょうか。
つるの/子どもたちの声が生かされて遊びながら学べて、園から小学校へ自然体のままゆっくりフェードインできる。これって理想的だなぁ。僕も今の時代の教育を受けていれば、もうちょっと世の中に貢献できたかも(笑)。子どもにとって「遊び」が一番の土台になるんだって、改めて感じました。
『新 幼児と保育』2023年春号より
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