大豆生田啓友先生✕つるの剛士さん|注目園訪問レポート「子どもの主体性を育む“森の保育”」

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大豆生田啓友先生×つるの剛士さん注目園訪問レポート
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タレント

つるの剛士

玉川大学教授

大豆生田啓友

清里聖ヨハネ保育園(山梨・北杜市)を大豆生田先生と幼稚園教論二種免許・保育士資格を取得したタレントのつるの剛士さんが訪問。パンを作ったり焚き火をしたり、小川で水遊びをしたりと、森の保育を思う存分体験してきました。

森のスペシャリスト小西貴士先生(右下)、園長の三澤裕美先生(左下)、保育士の残間時忠さんと記念撮影。

玉川大学教授・大豆生田啓友先生

1965年、栃木県生まれ。玉川大学教育学部教授。保育の質の向上、子育て支援などの研究を中心に行う。NHK Eテレ『すくすく子育て』をはじめテレビ出演や講演など幅広く活動。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』(共著・小学館刊)など多数。

タレント・つるの剛士さん

1975年、福岡県生まれ。『ウルトラマンダイナ』で俳優デビュー。音楽でも才能を発揮し人気に。現在、2男3女の父親。2022年に幼稚園教諭二種免許、保育士資格を取得した。CD・歌手デビュー10周年『つるの剛士ベスト』発売中。

清里聖ヨハネ保育園園長・三澤裕美先生

30年前に清里聖ヨハネ保育園に就職し、2015年より園長に就任。それまであった滑り台などの遊具を取り払い、森の案内人・小西貴士さんの協力のもと、自然環境を生かした「森の保育」をスタートさせた。

森の案内人・小西貴士先生

森の案内人・写真家。2000年より八ヶ岳南麓の自然学校で環境教育およびESDの実践に取り組む。保育者のためのエコカレッジ「ぐうたら村」(山梨・北杜市)共同代表。著書に『子どもは子どもを生きています』(フレーベル館)など多数。

清里聖ヨハネ保育園(山梨・北杜市)
訪問ドキュメンテーション

今回、大豆生田先生とつるのさんが訪れたのは、山梨県北杜市にある清里聖ヨハネ保育園。1958年より米国デトロイト市の聖ヨハネ教会の支援を得て保育事業をスタートさせた森の中の保育園です。自然の中でゆったりとした時間を過ごしました。

木登り、探検、小川での水遊び…
自然の中で培うぜいたくな学び

森で自由奔放に遊ぶ子どもたち。スルスルと木に登り、凸凹道を駆け回れるのも、自然の中でたくさん遊んで学んだ技術。

「いやあ、ぜいたくですよね〜この環境は。大人もワクワクしてきて遊びたくなりますよ」と、清里聖ヨハネ保育園の広大な園庭を見回しながら、つるのさんが言いました。八ヶ岳南麓標高約1300mの森と牧草地、渓谷などの豊かな自然環境に恵まれた園で、子どもたちは自由奔放に遊んでいます。

木登りをする子、小川で水遊びをする子、園庭に設けられた焚き火スペースでおやつ作りをする子もいます。探検、草花遊び、パン作り…、自然の中での遊びは多岐にわたっていました。大豆生田先生が言います。

「この園では森の保育をすごく大事にしているんです。子どもたちはなんとなく森に来ているわけじゃなくて、一人ひとりが自分のやりたいことを自分でちゃんと決めて実践している。今日はあの木に登ろう、ドラム缶でパンを焼いて作りたい、などさまざまな思いを持って森に来ているんです。ゆったりとした時間の中に、いろいろな思いがあふれているところが素晴らしいですね」

保育者や保護者、地域の人々が協力し建てた大屋根広場。中で焚き火もでき、地域の人も使用できる交流スペースになっています。

パン作り、火おこし、焚き火ランチ…
子どもたち自ら作る体験型食育

清里聖ヨハネ保育園の遊びのカリキュラムは、時間の流れの中で子どもたちの声を聞きながら考えていくスタイル。「子どもたち一人ひとりの声を拾っていくことって、とても重要だと思うんです。例えばおやつの時間を1時間設けているんですが、そこでも子どもたちが好きな場所で、自分のタイミングで食べても大丈夫。子どもの主体性をできるだけ大事にしていこうと思っているんです」と園長の三澤裕美先生は言います。

この日のおやつの時間はパン作り。ひとりの子どもの「メロンパンを作りたい」という思いを拾って実現したそうです。子どもたち自らパン生地をこねて丸め、拾ってきた薪を窯に入れて火をつけます。なかなか薪に火がつかなくても大人はひたすら見守るのみ。忍耐強く待つことも、森の保育の大切な時間です。

「やった! 火がついた!」と、達成感たっぷりの子どもの声が聞こえてきました。すると次から次へとパン生地を抱えた子どもたちが窯のまわりに集まります。窯に生地を入れると、あっという間にこんがりとした立派なパンが完成。大豆生田先生とつるのさんは、出来たてのパンを子どもからひと口もらうと、「うまいっ!」と驚きの表情。

焚き火のまわりには、子どもと大人の弾けるような笑顔があふれていました。

「メロンパンの甘さを出すためにマシュマロを入れたそうですが、これも子どものアイデア。子どもたちの思いがいろいろな形で反映されているっておもしろいですね」(大豆生田先生)

「焚き火をしたりパンを焼いたり、ゆっくりと流れる時間も大事な食育のひとつなんですね」(つ
るのさん)

春、パン作りを楽しみました。旬の野草、ヨモギを生地に練り込んで、ヨモギパンを作ります。「粘土遊びみたい」と子どもたち。
パンを焼くための燃料、薪集めも料理の一環。宝探しのように、枯れ枝を夢中で拾い集めます。
ドラム缶で作ったパン焼き窯に薪を入れて、マッチで火をつけます。火がつくまで数時間かかることも。
パンが焼けたら、自分のお気に入りの場所にすわっておやつタイム。
「めちゃくちゃおいしくて、ちょっとびっくりしました」と、つるのさん。

豊かな自然環境を積極的に取り入れる保育

環境教育のスペシャリストで、森の保育のアドバイザーでもある小西貴士先生、清里聖ヨハネ保育園園長の三澤裕美先生を交えて、森の中で語り合いました。自然の中でどうやって子どもとかかわるべきか、考えてみました。

(左から)森の案内人小西貴士先生タレント・つるの剛士さん清里聖ヨハネ保育園園長・三澤裕美先生、玉川大学教授・大豆生田啓友先生

大豆生田/今回の園を見学されて、つるのさんはどのような感想を持たれましたか?

つるの/とにかく時間がゆっくりと流れていて、なんてぜいたくな環境なんだろうって思いました。保育の施設って、一般的に行政の指導のもといろいろな法律をつくって、人工的に積み上げてつくっていくようなところがあると思うんです。

だけどここは「自然」そのものが丸ごと保育施設というか。自然の中で子どもたちが自分のペースで遊び、そこで出会うさまざまな経験からたくさんのことを学んで育っていく。保育の原点を見たような気がしました。

大豆生田/せかす人は誰もいなくて、子どもたちが自分のやりたいことをやりたいままにやっている。このように自分のペースで遊びを実現させていくことって、とても大事なことだと思うんです。ありのままの自分を肯定し個性を発揮する「自己肯定感」にもつながります。

例えば、すわるところでも、普通は「○○ちゃんと一緒にすわりたい」って、”誰とどこにいるか“を優先しがちなんですが、ここの子どもたちは、まず自分がすわりたいお気に入りの場所を見つけることから始める。ひとりだけでも実行し、お気に入りの場所にすわって、友達を招いたりしている。幼児期から「自分が社会の作り手なんだ」ということを実感できる場所があるってことが素晴らしいですよね。

つるの/僕も自然が好きなので、こういう場所に子どもを連れてキャンプなどをするんですけど、そんな遊びと保育との境目が気になりました。先生たちがとかく危険と隣り合わせの自然環境の中で、どういうことを心がけて子どもとかかわっていらっしゃるのか教えていただきたいです。

新緑の森も枯れて朽ちゆく木々の森も、そこにはさまざまな命の営みがあります。
子どもたちは遊びを通して、それらを学んでいきます。

小西/実は僕はいわゆる「危険」に対するガイダンスをほぼやっていないんです。ガイダンスを入れてしまうとここの暮らしが崩れてしまうので、自然の中でさまざまな経験を積むことで学んでいきます。大切なのは、子どもと大人が共同生活者でいること。子どもをただ見守る観察者になるのではなく、暮らしを共有し、お互いを理解し信頼関係が成り立ってこそ、木登りや川遊びなど危ないと思えることもできる。

子どもたちは、僕らが描いた活動のイメージどおりに動く人ではないし、ましてや一人ひとりの個性も遊び方も違う。一緒に暮らしている感覚じゃないと対処しきれないと思います。

つるの/大人ももっと自然の中で遊んで経験を積まないとだめってことですよね。

森の焚き火スペースで子どもたちと遊ぶ、つるのさん。
「 ここで過ごす時間があまりにも心地よくて、寝そうになっちゃいましたよ(笑)」とか。

園長/おっしゃるとおりだと思います。ここでは年間5〜6回ぐらい、保護者の方たちと森に行って子どもたちの遊びを体験する「大人の森の時間」を実施しているんです。そこで保護者の方もいろいろなことを経験し、理解してくださっています。

園側も保護者の方もお互い信頼関係が成り立つと、木登りも川遊びも安心して任せていただける。雨の日など子どもたちが洋服をドロドロにして戻ってきても、「ああ、たくさん楽しんだんですね」って言ってくださる方が多いですね。

大豆生田/保護者が子どもと同じ経験をするってすごく大事ですよね。逆に言うと、大人が子どもがしているような遊びに出会えるチャンスなんですよ。お互いに自然遊びの経験値が上がってくれば、自ずと危険回避能力も鍛えられる。大人が子どもみたいになって遊ぶことって、すごく重要だと思います。

小西/森の中のかかり木ひとつとってみても落ちてくるから危ないってことだけじゃなくて、木が朽ちていくことにも意味もある。川といっても水が流れている溝ではなくて、そこには色々な命が生きている。そういうものに常に触れていられることが、最高の学びだと思うんです。その学びに気づくかどうかは口で言ってもだめで、自然の中での経験しかないような気がします。

つるの/都会みたいに経験したくてもできない環境に住んでいると、それってハードル高いですよね。自然の中での遊び方を知らない大人たちに、どういうふうにそのポテンシャルを広げていけばいいのか、考えてしまいます。

大豆生田/小西さんのように、環境教育のスペシャリストみたいな人が、どこかファシリテート(会議やミーティングを円滑に進める技法)してくれないと、いきなり保育の専門性だけでやろうとしても、もう一歩先に進めませんよね。そういう自然のスペシャリストたちとのコラボというのも、これからもっと必要になってくるような気がします。

園のすべてがビオトープ(動植物が安定して生活できる生物生息空間)。あらゆる場所に命が宿っています。
地域の人も使える大屋根広場のキッチン。
「自由にお茶が飲める場所が欲しい」という保護者たちの要望に応えて作ったそうです。

文/松浦裕子 撮影/茶山 浩

『新 幼児と保育』2023年夏号より

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