くわざわゆうこさん「満たされていた時間」【表紙絵本館】
『新 幼児と保育』は、毎号絵本作家さんの描きおろしの絵が表紙となっています。表紙を飾った絵本作家さんの幼年期のエッセイを紹介していきます。今回は、くわざわゆうこさんです。
目次
「満たされていた時間」
山の奥に私の家はありました。田舎の中でも、さらに田舎っ子扱いをされるようなところで育ち、幼いころから兄や近所の男の子たちと、木に登ったり、クワガタやカブトムシを捕まえたりして遊んでいました。
園がある「みんなのいる町」までは片道3キロほどあり、毎日往復6キロの道のりを近所の子と一緒に歩いて通っていました。山から下りて行くので、行きは下りでラクなのですが、帰りはずっと坂道。雨の日も雪の日も、毎日よく歩いたなーと今になって思います。
子どものころは、その長い道のりの中でも、楽しいことを自然と見つけて遊んでいたような気がします。川に入ってサワガニを獲ったり、野いちごを見つけて食べたり、つくしやヨモギを帽子いっぱいに摘んで帰ったり。つくしは母が卵とじにしてくれて、晩ごはんの一品になっていたのですが、幼いながら、自分が役に立ったような、仕事をしたような気分になって、得意げだったことを覚えています。おやつに作ってもらったヨモギの蒸しパンも忘れられない味です。
そんな環境で育ったので、家の中にいるより外で遊ぶ時間が多く、ほとんどお絵描きなどはしていませんでした。どちらかというと絵を描くことは苦手だったし、興味がなかったというか…きっと山の中で遊ぶことで満たされていたのだと思います。私が絵を描くようになったのは、社会人になって6年目のこと。上京したことと、人との出会いによって想像もしていなかったイラストの道へ。まさに「人生何が起こるかわからない!」を実感した出来事でした。
唯一、今につながっていることといえば、小さいころから絵本が好きだったこと。家にはたくさんの絵本があって、その中には母がフェルトで作った絵本もありました。
大人になって絵を描くことが仕事になり思うことは、絵を描くことは「心が癒され、満たされる」ということ。子どもにとってお絵描きの時間は、とても大切なのだなと実感しています。
くわざわ ゆうこ
1975年岐阜県生まれ。神奈川県在住。編集プロダクション、デザイン会社勤務を経てイラストレーターとして独立。子ども向けの絵本や教材のイラストを中心に活動中。主な絵本の作品に『でちゃった ときは』(作/織田道代 フレーベル館)、『に~っこり』(作/いしづちひろ くもん出版)など多数。
『新 幼児と保育』2021年4/5月号より
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