「書くことで気づけた“これがわたしたちの保育”」【プレイバック「わたしの保育記録」過去の受賞者インタビュー第2弾】

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小学館が後援する保育記録の公募「わたしの保育記録」
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小学館が後援する保育記録公募「わたしの保育記録」。今回お話をうかがったのは、2014年度大賞受賞者の石田幸美さん。応募の動機や、その後の心境の変化などを語っていただきました。受賞作品も全文掲載します。

お話

石田幸美(いしだゆきみ)

山梨県甲府市にて志を同じくする保育者と2006年4月に社会福祉法人なのはな菜の花保育園を設立。現在、主幹教諭を務める。同園はソニー幼児教育支援プログラム2016年度優秀園に選ばれた。第50回「わたしの保育記録」で大賞受賞。共著に『0・1・2歳児 保育のキホンまるわかりブック』(2018年 学研プラス)など。

一斉保育が主流となっていた時代に

ーー最初に、応募のきっかけを教えてください。

当時、山梨大学で教えていた加藤繁美先生(現在は東京家政大学、「わたしの保育記録」審査員)にご挨拶する機会があって、エピソード記録に取り組んでいるとお話ししたところ、「このようなのがあるから、応募してみたらいいよ」と、募集要項をくださったのです。加藤先生にいわれたのだから応募しないわけにはいきません! 山梨の保育者にとって、憧れの存在ですから。

「子どもの湧き出る思いを大切に」を合言葉に、同じ志の仲間たちと2006年にこの保育園を設立しました。「わたしの保育記録」に応募した2014年ごろは、一斉活動を売りにした園が主流となっていた時期でした。子どもたちがたっぷり遊び込める環境を大切にする、この園のやり方はどうなんだろうと、世に問うてみたい気持ちがありました。

職員室だよりや、子どものつぶやき集のネタ収集の意味もあって、心が動いた出来事を日記のように書きためていたので、その中からトピックを選びました。書くのにはそんなに時間はかかっていません。受賞の連絡に驚くと同時に、「自分たちのこの保育でやっぱりよかったんだ」と自信につながりました。

作品への講評の中に「ゆったりと流れる『子ども時間』」という表現があったのですが、「そうだ、わたしたちは『子ども時間』を大切にしていたんだ!」と、言葉にしていただいたことで、改めて気づかされました。

ーー石田先生は、保育雑誌や書籍の執筆で活躍されていますね。いつごろからそのような活動を始めたのですか。

きっかけは大賞の受賞なんです。受賞の翌年に、甲府市の保育士会で、今井和子先生(「わたしの保育記録」審査員)に講演をお願いしたことがありまして、その縁で自園の研修にもお招きしました。そこで「実は『わたしの保育記録』の大賞を受賞した者で……」とお伝えすると、「まあ、あなただったの!」と(笑)。そのあと先生から誘っていただいて、『新 幼児と保育』やほかの保育雑誌で書き始めました。

ーーそれは私たちにとってもうれしいですね。何かほかにも変化はありましたか。

受賞作品を読んで、わたしたちの園の保育を見てみたいという方が見学にいらっしゃるようになったんですよ。甲府市内だけでなく、県外からもみえました。見学者がある日は、園の出入り口の掲示板にその旨を掲示しているので地域の方の目にも入ります。それで入園希望者の見学も増えました。特にうれしいのは、同業の保育士が、自分の子どもをこの園に入れたいと訪れるようになったことです。

あと、「わたしの保育記録」を書いたことで、職員間でなんとなく共有していた考えが、形になって、わたしたちが目指す保育がどういうものなのか共通認識が固まったと感じます。大賞を受賞したことで、園にも変化がありました。

―今年の「わたしの保育記録」募集では、久々に乳児部門を設けました。テーマは「乳児保育のやりがい」です。石田先生にとっての乳児保育のやりがいを教えてください。

まずは、自分に全身でもたれかかってくれるかわいさ、そして「あ、この子が何をいいたいのかわかる」という瞬間の喜び……言葉を介さないゆえの楽しいかかわりがありますよね。

乳児のいたずらに手を焼くこともあるかもしれませんが、いたずら=好奇心や探究心の芽生えと考えて、ケガの心配がない限りは思う存分探検をさせればいい。探検し尽くして、自然に次に興味がうつります。そんなふうに乳児を見ることができると乳児保育は楽しくなるし、記録に残して保護者に伝えたり、保育者同士で共有したりできるといいですね。

0歳児の受け入れが転機に

でも、初めて乳児を担当したころは楽しさがわからなかったです。「赤ちゃんは泣くか笑うかのどっちかだけなんだ……」というのが最初の印象でした(笑)。保育士になって6年目に園が初めて0歳児を受け入れることになり、私が0歳児を担当することになったのですが、それまではずっと3歳以上児の担当でしたし、まだ子育て経験もなかったときです。それでも保護者の「先生がんばれ」の姿勢に支えられて、なんとか1年が過ぎたとき、子どもたちがものすごく成長していることに気づきました。手を
かけると、その分ちゃんと返ってくるうれしさ! 「ずっと0歳担当でもいいかな」とさえ思いました。

実際にはそのあと毎年持ち上がりで、6歳になるまで同じ子たちを担当することになります。子どもの人生最初の6年間の成長を喜びながら、自分も一緒に成長する、こんないい仕事はない!……そんなふうに思えたのは、乳児を担当することができたからこそです。

記録に綴ることの大切さ

ーー特に担当クラスを持つ先生が、日々の保育をしながら記録を書く時間を捻出するのは大変ですよね。工夫できることはありますか。

担任のかわりに主幹教諭の私が1時間だけクラスに入って、その間にエピソード記録やポートフォリオを書いてもらうことはときどきあります。ただ、「わたしの保育記録」は1時間で書けるものではないから、悩ましいですね。でも、自分が書いた実践記録が世に出たことで、やっぱり外に向かってわたしたちの保育を出していくことは大切なんだと改めて感じました。

わたしたち保育者は、子どもたちのために毎日本当に一生懸命に働いている。でもその専門性はあまり評価されていなくて、給与水準も同じく専門職の看護師と比べて低いままです。「保育士さんって子どもと一緒に遊ぶのが仕事でしょ」というような見方をする人もいることに、くやしい思いもあります。「人にわかってもらえなくたっていい、自分だけわかっていればいい」と思っていた時期もあるけれど……綴るから外の人とつながることができて、伝わります。「伝わる」記録を書ける人が、保育のプロだと私は思うのです。

第50回「わたしの保育記録」大賞受賞作品
「サイフォン遊び―砂場での挑戦」石田幸美(山梨・甲府市 菜の花保育園)

私が菜の花保育園の立ち上げにかかわってから9年が過ぎた。

主任保育士という立場での現在の私は、担任を持てない寂しさに、最初は何度も現場に戻りたいと思った。しかし、最近は主任保育士だからこその喜びを感じられるようになった。というのは、主任になって個々の子どもの興味、関心とじっくりと向き合い、子どもを点としてではなく、線で追いかける時間が増え、それによって、そのとき接する子どもの願いが感じとれるようになったからだ。

砂場にできた大きな水たまり

当園に入園して4年目になる年長児のRくん、少し気弱な面はあるが、体を動かすことが大好きである。しかし、食べ物の好き嫌いが多く、食べる意欲が少ないと担任も悩んでいた。そして一斉で行う制作などの活動にも今ひとつ意欲的でなく、ぼーっとしている姿も多く、職員会議でも時折、「どうしたら意欲を引き出せるか?」と話題に上がる子どもであった。

そんなある5月、前日降った雨で砂場にかぶせたシートの上に大きなプールのような水たまりができた。職員はシートにたまった水を掃き、シートをはずし、いつもの砂場遊びへと環境設定をしようとしていた。私はふと「こんなに大きな水たまり、子どもがどうするか見てみたい」と思いつき、「ちょっとこのまま待ってみない?」と職員に伝えてみた。みんなも賛同してくれ、様子を見ることにした。

さっそく年長児がふたり続けて登園してきた。ひとりはRくんだ。

「わ〜お池みたい!」

「本当だね」と私。

「先生、遊んでいいの?」

「もちろん」

「みんなが来たらプールみたいにして……」

「そしてどうする?」

「う〜ん後から考える」

「まかせるよ」

いつになく輝いているRくんの目に、私は「今日は何か起こりそうですね〜」と園長先生に話した。

その後ひとり、ふたりと登園してきた友達に、Rくんは「この池で遊ぼうよ」と声をかけ、率先して裸足になり遊び始める。それを見た3歳以上の子どもたちも次々に靴下を脱いで池に入り始めた。服はびしょ濡れ、きゃっきゃと少し早いプール遊びとも泥んこ遊びともつかぬ遊びが続いた。

ホースからひとりでに水が流れ出す不思議

40分ほど経過したころ、園長先生がホースを持ってやってきた。

「ちょっと見ててごらん」と、水を入れたホースの両端を指でふさぎ、片方の口を水たまりの中に入れた。そしてタイミングよく指をはずすと、低いもうひとつの口から水が流れ始めた。サイフォンの原理だという。

不思議そうに見ている子どもたち。3回、4回とやっているうちに、RくんとAちゃんが「ぼく(わたし)もやりたい」といってきた。

「いいよ、やってごらん、こうやって空気を入れないようにしてさっと手を離す……」と園長先生がコツを教えてくれた。

「わかったRくん、そっちもって」

「よし、わかった」

しかしふたりは何度もやってはみたけれど、成功しない。5回、6回……。

「もっとちゃんともってよ」とAちゃん。

「僕だってちゃんとやってるんだ」と涙ぐむRくん。

「でも、もっとちゃんとやって」

「わっ、わかった……」

主導権はAちゃんが握っている。

それまでじっと見ていた3・4歳児は「お腹すいた〜」とお部屋に入っていってしまう。しかし、年長児は、ふたりを見て無言であった。

挑戦を始めてから1時間以上経過。時計の針はすでに12をまわっていた。見かねた園長先生が「午後にするか」と声をかけた。「やだ」とふたりは険しい顔でいい、ひたすら挑戦を続ける。いつしかまわりの年長児は、挑戦の回数を数え始めていた。

29…、30…、31…、

「できた!!」「できたよ!」

ふたりは同時に声をあげた。

一度成功すると、それからは何度やっても成功する。

「すごい、できてる。その調子、Rくん」「うん」と笑顔を見せ合う。すでにふたりとも汗、泥、水、涙…でぐちゃぐちゃ……、でも、とってもいい笑顔!!

砂場の枠を越えたホースからたくさんの水が園庭に流れ出した。すると、それまでじーっと様子を見ていた年長児の男児が動き出した。

「川を作らなきゃ〜」とスコップを持ち出し、溝を掘り始めたのだ。AちゃんとRくんの息はピッタリ。「離すよ」「せーの」……「出た!」。水は川を伝って流れ出す。

やがて川作りをしていた子どもたちも、「お腹すいたな〜」といって、部屋に入り始めた。ふたりはどうするのかな? と思ったが、担任と相談して、ふたりの意思に任せることにした。「全部水を出したい」というので、その場をふたりにまかせ、私も担任もいったん部屋に入ることにした。

しばらく経ってから、「終わった!」という声が聞こえた。とうとう最後まで、水を出し終えたのだ。時計を見るともう午後1時を過ぎていた。「そろそろご飯食べる?」とAちゃん。「うん、そうしよう!」。ふたりは満足そうに部屋に戻ってきた。

みんなに「ただいま〜」と大きな声でいいながら、清々しい顔つきであった。まわりの子どもたちは給食時間が終わってしまったことなどをとがめる様子はなく、「おかえり」「ごくろうさま」と迎え入れる姿があった。

その後のことは、担任から話を聞いた。担当保育者が「終わったの?」と声をかけると「ばっちり!」と満面の笑み。保育者と3人で給食を食べたそうだが、ふたりとも、驚くほどの食欲であったとのこと。

その日を境に、Rくんは、何事にも意欲的になったようだ。人はやりたいことを存分に納得いくまで、時間を忘れてでも行うことで、自信へとつながっていくのだと感じた。

子どもの育つ瞬間に立ち会えた喜び

私がしたのは、砂場の水たまりをそのままにしておくという、最初のきっかけを同僚の保育士に与えただけ。あとは少し距離をとって、子どもたちの様子を観察していた。何をやったわけではないが、ドキドキハラハラしながら時の経過を共有していた。しかし、なんて素敵な瞬間に出合えたのかと思う。こんな瞬間こそ子どもの育つときなのだと改めて感じた。

これからも、子どもの興味、関心に敏感でありながら、子どもと日々直接かかわる保育士の気づきのきっかけづくりとして、主任の立場でアドバイスを行っていきたい。また自分自身も一保育者として、子どもの一生懸命な姿に、いつまでも感動できる人間でありたいと思っている。


インタビュー構成/佐藤暢子
写真提供/社会福祉法人なのはな 菜の花保育園

『新 幼児と保育』2018年8/9月号より

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