種村有希子さん「ふたり分の思い出」【表紙絵本館】
『新 幼児と保育』は、毎号絵本作家さんの描きおろしの絵が表紙となっています。表紙を飾った絵本作家さんの幼年期のエッセイを紹介していきます。今回は、種村有希子さんです。
目次
「ふたり分の思い出」
私は、一卵性の双子です。双子の姉が、子どものころ家出をしようとした思い出を描いて、絵本作家になりました。今回お話しするのも、私たちが4歳ころの思い出です。
ある日、母がウサギ柄の靴下を私たち姉妹に買ってきました。靴下は、赤とピンクが一揃いずつでした。母が包みから出すなり、私たちは同時に「ピンクがいい!」と叫んだのです。
お互いに赤はいやだったのです。そこから、ピンクの靴下をつかみあい喧嘩が始まりました。兄弟姉妹のいる方には、この状況がよくわかるかと思います。見かねた母が、「じゃんけんで決めなさい!」とひと言。この提案ほどいやなものはありません……願いを運にたくすなんて。私のいやな予感は的中で、じゃんけんの勝者は姉。ピンクの靴下を手に、ぴょんぴょん跳ねて、「やったやった!」と喜ぶ姿が憎らしくてたまりません。私は声のかぎり泣きました。すると、「有希子もほしかったんだから喜ぶんじゃない!」。今度は、姉が母に叱られて、わんわんと泣きだしました。それを見て、「ざまあみろ」。私は、気持ちがすっとしました。涙も引っ込みました。でも、どこかすっきりしない気持ちが残ったのです。
この「どこかすっきりしない気持ち」は、そのままの感触でいまも心に残り続けています。私は、なぜだか子どものころのそういう小さな(当時は大きな)出来事を、忘れないようにしてきました。数々の小さくて大きな出来事を忘れずにいられたのは、いつでも隣に思い出を共有しあえる双子の姉がいたことが大きいのかもしれません。
種村有希子
たねむら ゆきこ。1983年北海道釧路市生まれ。多摩美術大学美術学部絵画学科卒業。2012年34回講談社絵本新人賞を『きいのいえで』で受賞、2013年同作品(講談社)で絵本作家デビュー。絵本作品に『ようちえんのおひめさま』(講談社)、『だれのおとしもの?』(PHP 研究所)、『うれしいぼんおどり』(文/すとうあさえ ほるぷ出版)、『まなちゃんはおおかみ』(偕成社)など多数。
『新 幼児と保育』2020年10/11号より
【関連記事】
表紙をかざった絵本作家が語る幼年時代 表紙絵本館 シリーズはこちら!
・中川貴雄さん「今でもハッキリ覚えている絵」【表紙絵本館】
・齋藤 槙さん「ミシンの音を聞きながら」【表紙絵本館】
・ささきみおさん「小さな庭のついたアパートでの思い出」【表紙絵本館】
・佐々木一澄さん「自転車に乗れるようになった瞬間」【表紙絵本館】
・高林麻里さん「私の子ども時代」【表紙絵本館】
・きもと ももこさん「自由に落書き」【表紙絵本館】
・森あさ子さん「絵本への落書き」【表紙絵本館】
・かとーゆーこさん「絵本への落書き」【表紙絵本館】
・庄野ナホコさん「れんげ草とドリトル先生」【表紙絵本館】
・新井洋行さん「毎日ワクワクしていた子どものころ」【表紙絵本館】
>>もっと見る