自己肯定感って何だろう【今井和子先生に聞く 自己肯定感を育む保育 ♯1】

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「子どもとことば研究会」代表

今井和子

いま、自己肯定感が重要視される理由とは?

日本の子どもたちのいじめやひきこもりの問題、コミュニケーション力の弱さはすべて“自己肯定感”の育ちの弱さに起因しているのではないでしょうか。昨今、保育所保育指針にも重視される、“自己肯定感”とは何か。乳幼児保育歴の長い今井和子先生に、 0・1・2歳児の保育での重要性や、その育み方などを学ぶシリーズ1回目です。

監修

今井和子 先生

「子どもとことば研究会」代表。23年間公立保育園で保育者として勤務。その後、東京成徳大学教授、立教女学院短期大学教授などを歴任。現役保育者であったころからの経験をもとに、全国の保育研修などに力を注いでいる。

まわりの人との関係の中で培われる自己肯定感

一人ひとりの子どもたちが、自分ならではの道筋を精いっぱい自己主張しながら、ときにはだだをこねたり、怒ったり、でもその後は気持ちを取り直し、笑顔に戻っていく。ごく普通の日常生活の中で、自己の存在、感情のすべてを一つひとつの行為に注ぎ込んでありのままの自分を表しながら、いまの自分の行為に力を尽くす。それが幼い子どもたちの著しい育ちの秘訣ではないでしょうか。

最近、よく見かける光景が、スマートフォンを片手に赤ちゃんを抱えているお母さん。赤ちゃんが泣いて何かを訴えようとしています。それなのに、あやすのではなく、携帯の動画を見せて泣きやませようとします。これでは赤ちゃんの気持ちに気づいてあげることはできません。泣いているときに、「なぜ泣いているの?もしかしておなかがすいているのかな」「電車に揺られて眠くなっちゃったのかな」。子どもの身になって言葉にしてあげ、やりとりをすることが、コミュニケーションの原点であるはずなのに、それが崩れてしまっている家庭がなんと多いことでしょう。

今回取りあげる、”自己肯定感“は、本来、人に備わっているものではなく、そうした大人とのかかわりの中で育つもの、育てられるものです。自己肯定感を育むのは、人としての土台が築かれること。0・1・2歳児の保育こそが、そのカギを握っています。

4か国の高校生に聞いた自己評価の調査結果です。自己を肯定的に評価する自己肯定志向が日本はどの国よりも低いのが特徴的です。

自己肯定感を育てられないでいる現実

「高校生の心と体の健康に関する意識調査―日本・米国・中国・韓国の比較―」(国立青少年教育振興機構2018年3月出所)によると、「自分自身をどう思うか」について「私は価値のある人間だと思う」と回答したのは、日本の44.9%に対し、米国83.8%、中国80.2%、韓国83.7%で、「自己肯定感は7年前に比べると少しは上向きかけているが、『まだまだの感』がある。自己肯定感を高めるためには、親や教師、それから友だちとの関係の濃密さが大きく影響している」と書かれていました。

幼児期の子育ての結果は思春期にならないと見えてきません。前述したとおり、自己肯定感は、まわりの大人とのかかわりをとおして育ちます。すなわち、日本の子どもたちの自己肯定感の低さは、幼児期にどれだけ大人たちと信頼関係を築いてこれたかに起因するのではないでしょうか。

2018年に、保育所保育指針と幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領の3指針・要領が同時に施行されました。今回の保育指針の改訂で、改めて強調されたことが3歳未満児保育の重要性です。

「社会の中で生きていく人間として、子どもの発達において特に大切なのは、人との関わりである。乳児期において、子どもは身近にいる特定の保育士等による愛情豊かで受容的・応答的な関わりを通して、相手との間に愛着関係を形成し、これを拠りどころとして、人に対する基本的信頼感を培っていく。また自分が、かけがえのない存在であり、周囲の大人から愛され、受け入られ、認められていることを実感し、自己肯定感を育んでいく」と述べられています(厚生労働省編『保育所保育指針解説』101ページ)。それだけ、自己肯定感を育むということが、重要になっていることが表されているのです。

ふたつある自己肯定感

自己肯定感には、「自己信頼」と「他者信頼」のふたつがあります。「自己信頼」とは、いつも自分を「これでいいんだ」と肯定できる。そして、自分は自分が好き、自分は大事、自分は成長していくんだ、自分には何かやれることがある。これまでの経験や積み重ねの中で、充実感や達成感を実感し、こういう思いが膨らんでいくこと。自信を養っていく、自分の価値を感じる力のことです。

対して、「他者信頼」とは、周囲の人との信頼関係の中で培われます。自分を支えてくれる人がいる、自分は守られている、自分の存在を認めてくれる人がいる。特に3歳未満児は、人は言葉にならない思いをわかってくれる、自分はひとりじゃない、人といっしょに生活することは楽しい、と、まわりの人といっしょに生きることに充実感を持ちます。幼いときから、人と人が心の深いところで感情交流を豊かに交わしあう。そんな生活の積み重ねで、人を好きになっていきます。

養護を通して育まれる自己肯定感

3歳未満児は自己肯定感の土台が育まれる、大事なときです。この自己肯定感をいかにして育むかということが、保育の現場で最も重要視されなければなりません。

それでは、自己肯定感はどのように育まれるのでしょう。まず、養護を通して自己肯定感が育まれます。養護というのは、子どもの生命の保持と情緒の安定をはかるために大人がおこなう世話を意味します。すなわち、授乳をしたり、おむつを替える、ぐずったときには抱っこしてあやしてあげるなど、1対1の大切なコミュニケーションの時間です。このときに、大人が心のこもった心地よい世話をすることで、この人が自分の世話をしてくれる大事な人なんだということを子どもが感じとり、信頼感が芽生えます。また、子どもは、機嫌のいい大人関係の中で情緒が安定します。保育者同士の関係性や両親など、複数同士の関係性が良好だと、安心することはいうまでもありません。

抱かれることで体も心も育まれる

抱っこをとおして、その人の子どもへの思いが伝わってくるような気がします。幼い子どもをまるで荷物を抱えるように無造作に抱きかかえる人(子どもはきっと「自分は荷物のように扱われている」と感じてしまうんだろうなと思う)、さり気ない抱き方であっても、子どもと目を合わせ一体感を楽しんでいるようなお母さん(「この人はいつも私の体も心も包み込んでくれる」と感じているんだろうな)など、抱かれている子どもの気持ちまで伝わってきます。

抱っこは子どもの気持ちを安定させ、幸せ感を満たす最も効果的な養護のひとつです。大人と子どもが見つめ合い、表情や言葉のやり取りを成立させる、心と心の交わし合いの場であり、相互信頼を育むものです。せっかく抱っこするのであれば、抱かれている子どもに「自分はこの人に大事にされている」と感じさせるような心地よい抱っこをしてあげたいものです。

子どもの自己決定を促す養護

それから特に、食事や排泄、着脱など、普段の生活の中で、子どもに聞いてみる、子どもの自己決定を促す養護が大切です。たとえば、「おしっこいきましょうね」と大人が一方的に連れていくのではなく、一人ひとりに「おしっこ出る?」「出るようならトイレにいこうね」と聞きます。食事の際も、どの子も皆、同じ量を配膳していくのではなく、「どう?みんな食べられそう?」と子どもに聞いて、判断させます。もちろんそれで残したり、お漏らしをしたり、失敗をすることもありますが、そうやって聞くことで、子どもは自分の意志を、さらに自分が1人の人間として尊重されていることを実感し、自己肯定感が育まれていきます。

日常の養護で育まれる自己肯定感

0歳児(6~7か月)


窓際で、ベランダにいるハトをジッと見ている0歳児。おやつの時間にしたい保育者は……。

何を見ているか気づかず、「何してるの、おやつだから早く行きましょうね」と呼びかけ、後ろから抱きかかえて、みんなのところに連れていきます。

「ハトポッポいたね」とまずは同じものを見て、言葉にしてあげます。それから、「そろそろおやつに行こうね」と促します。

まだ言葉を発せられない0歳児ですが、自分が見ているものを一緒に見てくれる大人がいることに安心し、その人を信頼するようになります。

1歳児


友達のオモチャを取ってしまったA 子ちゃん。それを見ていた保育者がかけた言葉は……。

「お友達の使ってるものを取っちゃダメ!」「乱暴ばっかりね」とまず叱ります。

「Mちゃんのオモチャが欲しかったの? こっちにもあるから取らないでね」と、子どもの行為の意味を考えていってあげます。

子どもは自分の気持ちをわかってくれたことに、喜び、信頼を寄せるようになります。そうすることで人の気持ち聞けるようにもなります。

2歳児

積木で遊んでいた R くん。そろそろお片づけの時間よ、と保育者にいわれ、「片づけたくない!」と泣き出してしまい、なかなか泣きやみません……。

「どうしていうことを聞けないの!」「そんなにいつまでも泣いていちゃダメよ」とお説教します。

「そうか、もっと遊びたかったんだね」「片づけるのがイヤだったんだね」「そんなときはいっぱい泣いていいよ」と、子どもの気持ちに共感します。

2歳にもなると自分の思いがなかなかわかってもらえないと、悔しい、悲しいとなが泣きやだだこねをするようになります。それを、わがままな子、と見るのではなく、「いま一生懸命つらい状態と闘っているのね、泣くことできっと気持ちがおさまって、どうすればいいか自分が決められるようになるから…」と葛藤を肯定的に見てあげましょう。自分の思いを理解してもらうことで、すんなり泣きやんだりするものです。

×な養護と○な養護で自己肯定感は変わってくる

自分の思いが伝わらない、本当の気持ちがわかってもらえないと感じて育った子どもたちは、訴えようとしなくなったり、あえて人の困るようなこと(わざと乱暴をしたり、お漏らしをするなど)をして、人を自分にひきつけようとするようになります。自分の訴えや言い分を聞いてもらえなかった子が、どうして人の思いを聞けるようになるでしょうか。

たとえば、”おやつを食べ終わったらさっきの積み木の続きがしたいな“と、思っていたKくん。でも、先生に「おやつが終わったらみんなで粘土しましょうね」といわれます。自己主張できるようになってきているので、「いやだいやだ」と主張します。そんなときに「わがままいわないの、みんなと一緒にやらなきゃダメよ」。といわれると、自分の主張を押しとおすのでなく人に合わせなければならなくなります。でも、自分の主張をわかってもらえ、「さっきの続きがやりたかったのね。じゃあ、それが終わったら粘土しようね」と、自分の本当の思いを聞いてもらう体験を重ねていくと、自分の思いや求めを大切にできるようになります。

どの園にも、育児に不慣れで、不安をいっぱい抱えている保護者がいるかもしれません。職場や家庭の人間関係がうまくいかずイライラし、ちょっとしたことで子どもを怒ってばかりの保護者がいるかもしれません。ゆとりがなくなると、人への共感が乏しくなっていきます。でも、どんな保護者とも、保育者は子どもを思う気持ちでつながり合い、子どもたちの24時間の生活が少しでもスムーズに営まれるように進めていきましょう。”孤育て“になりがちな現代。保育の大切さを保護者に伝え、一緒に自己肯定感を育んでいくことが重要です。

文/大石裕美
イラスト/奥まほみ

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『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2019秋冬より

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