子どもの幸せ【児玉ひろ美のこだま文庫】

連載
児玉ひろ美の絵本ガイド

JPIC読書アドバイザー

児玉ひろ美

ここは、みなさんの記憶の隅にある懐かしい1冊や気になりながらも読まないままの1冊、そんな本に再び出会うためのオンライン図書館です。今回のテーマは「子どもの幸せ」。そのことについて考えるとき、1冊の絵本が、ひとつのヒントを教えてくれるかもしれません。

児玉ひろ美さん

公立図書館司書とJPIC(ジェイピック:一般社団法人出版文化産業振興財団)読書アドバイザーのふたつの立場から子どもの読書推進活動を展開。お話会の実践のほか、近年は大学にて「児童文化」「絵本論」の講義を担当。「2021・2022・2023年度ブックスタート赤ちゃん絵本選考委員」。著作に『0~5歳子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』(小学館)などがあり、雑誌やWEBでも活躍中。

子どもの幸せ

華やかなシーズンの到来です。何かと家族や親戚が集うチャンスが多い年末年始。子どもにとっても、一年で最もにぎやかで、楽しみの多い時期です。その一方、子どもの貧困に関するニュースや報道が目立って見受けられるのも、この時期なのかもしれません。今年は7月に映画『万引き家族』が地上波に初登場し、保育関係者の間でも大いに話題となったようです(※記事初出時、2019年)。子どもの貧困については、平成25年に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が施行され、以降、一般向けの本はもちろん、子ども向けの本でも「貧困」はテーマとして増えつつあります。

「どーしたどーした」

貧困はときとして虐待と対になり、子どもを苦しめます。事件報道のたびにくり返される「なぜ救えなかったのか」を、まるで私たちに問いているような『どーしたどーした』は、直木賞作家の天童荒太さんによる作品。ゼンは元気な小学校3年生の男の子。「どーした」が口癖で、だれにでも「どーした」と声をかけ、積極的にかかわっていきます。周囲の人は迷惑げですがゼンは平気です。ある日ゼンは、登校中の公園で、ハロウィーンのメイクのように赤と青の色の顔をしている少年に出会い、いつものように「どーした?」と声をかけました。ゼンの、人を無関心なまま放ってはおけない「どーした どーした」は、やがて周囲の大人を巻き込み、大きな力となって、少年を救います。アストリッド・リンドグレーン記念児童文学賞受賞の荒井良二さんの自由自在な絵が、ゼンの視線で物語を展開させます。

『どーしたどーした』
天童荒太/文
荒井良二/絵
集英社

まいにち、まいにち、まるはちいさくなっていきます

原作を中学校の国語の教科書でご記憶にある方も多いことでしょう。昭和を代表する脚本家でエッセイストの故・向田邦子さんの「字のない葉書」(『眠る盃』所収/講談社)を、直木賞作家のおふたりが絵本化しました。

太平洋戦争中、一番小さな妹の和子さんが疎開することになりました。お父さんは「元気なときは大きな○を書くように」と、自宅住所だけを書いたたくさんのはがきを、まだ字の書けない和子さんに持たせます。疎開先から届く『字のないはがき』ははじめ、紙いっぱいの大きな○。ところが、〇は次第に小さくなり…ある日とうとう×が届き、やがて×のはがきも届かなくなります。子どもの貧困と虐待の最たる原因となる大人の過ちは、戦争なのです。

『字のないはがき』
向田邦子/原作
角田光代/文 
西 加奈子/絵
小学館

「へいわってぼくがうまれてよかったっていうこと。」

「きみがうまれてよかったっていうこと。」

生まれる場所や環境を選べない子どもたち。世界のどこで生まれようとも、一人ひとりが幸せであるようにと、だれしもが願います。子どもの幸せについて考えることは、そのまま『へいわって どんなこと?』に描かれていることと重なります。「おなかが すいたらだれでも ごはんが たべられる」「いやなことは いやだって、ひとりでも いけんが いえる」「あさまで ぐっすり ねむれる」。日中韓3か国の12人の絵本作家たちが、立ち上がり、手を結び、平和のためのメッセージを発信している平和絵本シリーズの1冊です。

『へいわって どんなこと?』
浜田桂子/作
童心社

12月と1月のおすすめ絵本|テーマ「雪を感じる」

0歳から2歳向け

『ゆき』

はた こうしろう/絵
ひさかたチャイルド

「ゆきやこんこ あられやこんこ」。おなじみの唱歌「ゆき」が楽しい絵本になりました。歌いながらはもちろん、物語として読むのもおすすめ。巻末楽譜つき。

『このゆきだるま だーれ?』

岸田衿子/文
山脇百合子/絵
福音館書店

雪の日、もみちゃんのそりには、りすくんやぶたさん、くまさん、いぬくん、うさぎさんが乗り、そり遊び。小さな絵本は手で絵を隠さぬよう気をつけて。

2歳から4歳向け

『すすめ! ゆきの きゅうじょたい』

竹下文子/文
鈴木まもる/絵
金の星社

「やまでおおゆき こまってるって!」。さあ、救助隊が出動です。子どもたちが大好きな、働く車が活躍するシリーズは、読後に遊びへの発展が楽しめます。

『ぽちっと あかい おともだち』

コーリン・アーヴェリス/文
フィオーナ・ウッドコック/絵
福本友美子/訳
少年写真新聞社

雪遊びが大好きなホッキョクグマのミキ。魚捕りをサボって逃げ出すと、「おや?」雪の中にポチッと赤いもの…。なんだろう? お友達になれるかな?

『ゆき、まだかなあ』

マーシャ・ダイアン・アーノルド/文
レナータ・リウスカ/絵
江國香織/訳
光村教育図書

あなぐまは、雪を待っています。お鍋ややかんをたたいて空を起こそうとしたり、石を投げて雲に穴をあけようとしたり。少人数で静かに読みたい作品。

4歳から6歳向け

『ちいさなゆきかきブルドーザープラウくん』

ローラ・カーラー/文
ジェイク・パーカー/絵
福本友美子/訳
岩崎書店

雪かきブルドーザーのプラウくん、大型トラックたちに「おちびさんにはむり」といわれ、トレーニングを開始します。大判本は傾かないように持つ練習を。

『ゆきおんな』

中脇初枝/文
佐竹美保/絵
小学館

怖いお話ですが、柔らかな口調で読んでください。怖さの中にも、子を思う母親の願いや悲しみを、子どもなりに感じます。表紙も美しい昔話絵本です。

『ゆき』

きくちちき/作
ほるぷ出版

「かぜに まう ふわふわの わたがしみたい」。北海道出身の作者ならではの、軽やかで繊細な、雪と生き物の絵本。パウダースノーをイメージして読んでみて。

異年齢

『おばけのゆきだるま』

ジャック・デュケノワ/作
大澤 晶/訳
ほるぷ出版

雪の日はおばけだって遊びます。雪合戦をしたあとは、さあ、雪だるま作りです。デュケノワのおばけシリーズは全8冊あり、シーズンごとに楽しめます。

『ゆき ゆき ゆき』

たむら しげる/作
福音館書店

どんよりとした冬の空、雪の赤ちゃんが冷たい雲の中で生まれ、やがて結晶に。静かな雪の物語です。子どもが落ち着いているタイミングで読みましょう。

『バスで おでかけ』

間瀬なおかた/作・絵
ひさかたチャイルド

「バスにのっておでかけするよ」と、おとうさんがいいました。バスは動物園やデパートを通っていくのに、おとうさんは降りません。どこに行くのでしょう。

『新 幼児と保育』2019年12/1月号より

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