森あさ子さん「絵本への落書き」【表紙絵本館】
『新 幼児と保育』は、毎号絵本作家さんの描きおろしの絵が表紙となっています。表紙を飾った絵本作家さんの幼年期のエッセイを紹介していきます。今回は、森あさ子さんです。
目次
笑顔とこだわり
はじめて思い描いた将来の夢は動物園の飼育員だった。常に動物と一緒にいられるからだろう。人前で感情を表に出すのが苦手で、カメラを向けられ「はい笑って!」といわれても「なんで?」とばかりにどんどん顔が硬くなっていく。それが、動物と一緒だとなぜか自然と笑顔がこぼれていた。金魚・メダカにはじまり、鳥・ハムスター・ウサギなどいろいろ飼っていたなあ。
絵を描くことが大好きで、基本的には穏やかで静かなタイプだったが、こだわりは強かったようだ。園服のスカートがどうしても気に入らず、必ずズボンにはきかえて帰ったり…。ランドセルの色は絶対に紺!と決めていて、赤黒が主流の中ひたすらに理想の紺色を探しまわったり…などなど。
一連の面倒くささにつきあってくれた両親には感謝しかない。はじめて富士山を見た帰り際、美しく悠然とした姿に心打たれ「ふじさーーん!また来るからねー!!」とまわりの親戚たちが引くほど大号泣したことも今となってはよい思い出だ(この年になっても富士山への思い入れは強い気がする)。思い返してみると、笑ってしまうエピソードばかりだが当時は自分なりにいろいろと思うところがあったのだろう。
あれから何十年もたち、相変わらず頑固な面はあるけれど、考え方がどんどんシンプルに楽観的になっていっていると改めて思う。
さて、我が家の5歳児の話になるが彼女は常に全力で話し、笑い、食べ、歌い、走る。カメラを向けるといかなるときでも満面の笑みでポーズをとる。どうやらあのころの私とはまったく違うタイプのようだ。日々やかましいほどに自身の感情、存在を主張している。その姿に少々あきれつつも心のどこかでは羨ましく、そしてほっとしている今日このごろなのである。
森あさ子
もり あさこ1975年生まれ。女子美術大学卒業。映画・ミュージックビデオなどの映像美術にたずさわったのち、イラストレーター・絵本作家として活動。おもな作品に『あなのなか』(岩崎書店)、『ぱかっ』『くるっ』(ポプラ社)、『さかながはねて』(文 / 中川ひろたか世界文化社)、『ぎゅぎゅぎゅのぎゅー』(ひかりのくに)などがある。
『新 幼児と保育』2021年2/3月号より
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