こわい絵本【児玉ひろ美のこだま文庫】
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- 児玉ひろ美の絵本ガイド
ここは、みなさんの記憶の隅にある懐かしい1冊や気になりながらも読まないままの1冊、そんな本に再び出会うためのオンライン図書館です。節分が近づく今回は「鬼」が登場する作品をご紹介。どうぞ安心できる環境の中で「怖い!」けどワクワクする鬼の世界を楽しんでください。
児玉ひろ美さん
公立図書館司書とJPIC(ジェイピック:一般社団法人出版文化産業振興財団)読書アドバイザーのふたつの立場から子どもの読書推進活動を展開。お話会の実践のほか、近年は大学にて「児童文化」「絵本論」の講義を担当。「2021・2022・2023年度ブックスタート赤ちゃん絵本選考委員」。著作に『0~5歳子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』(小学館)などがあり、雑誌やWEBでも活躍中。
目次
こわい絵本
子どもたちは「こわい」が大好きです。「こわい! こわい!」といいながらうれしそうに、友達と目を見合わせたり、体を寄せたり、ときには手を振り回したり(戦っているのでしょうか?)、もう大騒ぎ。そんな様子を見ていると、語り手で幼児教育者の藤田浩子さんが「語り(おはなし)」の講習会で、よく口になさる言葉が思い浮かびます。
「子どもは怖さを楽しみたいのであって、怖い経験をしたいわけじゃないのよ」
『おにはそと』を子どもたちに読んでいると、本当にそのとおりとつくづく思います。夜の街に鬼のシルエットが浮かぶページで息をのんだ子どもたちが、ページをめくった先の展開に弾けるような笑顔で「おにはそと!」。その後も驚いて隣の子と手を取り合ったり、笑ったりをくり返しながら、怖さを十分に楽しんでいました。
子どもには怖いものとの出会いも含め、未知の世界へ踏み出したい欲求があります。それが絵本や物語の中ならなおさら。でも、安心して踏み出すためには、いつでも逃げ込める安全地帯が必要です。それは一緒に怖がり、手を取り合える友達であったり、抱きつける家族や保育者であったり、柔らかなぬいぐるみや毛布であったりもすることでしょう。
「意地悪するんじねーよ! 鬼だって痛いよ」
と、語気は強いものの、5歳のTくんが恐る恐る覗いていたのは『鬼が出た』。Tくんのお姉ちゃんが宿題の調べもので図書館を利用していたときのことです。資料を探してページをめくるお姉ちゃんの手元を覗いて目に映った赤鬼、青鬼の姿に思わず声を出したようですが…。Tくんの体はお父さんのコートの中で、その手はお父さんのセーターの裾から進入し、しっかり体にしがみついていました。よかったねTくん、お父さんと一緒で(笑)。
その後、絵本は小学3年生のお姉ちゃんが借りて帰りました。後日お伺いすると、Tくんはお父さんの背中に張りついたまま、お姉ちゃんに読み聞かせてもらったそうです。「最初は文句ばかりいっていましたが、最後まで聞いていましたね。怖いもの見たさかなぁ? そのあとも3人でいろいろ鬼の話をしておもしろかったです」とのこと。小学校中級向けの絵本ですが、「鬼」というテーマがTくんを惹きつけたのでしょう。こんなふうに安全地帯がしっかりあれば、未知の世界の絵本も年齢に関係なく楽しめるのです。
「おには、「きいたなっ!」と くやしそうに いうなり、
ぽかっと きえて なくなってしまった」
ご記憶にある方も多いことでしょう。そう、『だいくとおにろく』の最後のシーンです。子どもたちはこの部分が好きで、読み聞かせの際にはここで拍手が起こります。日本の昔話の中で、最後に鬼が消えてなくなる展開は珍しいそうなのですが、ヨーロッパの昔話『トム・ティット・トット』や『ルンペルシュティルツヒェン』にとてもよく似ています。やはり、災害や疫病など、死と隣り合わせの生活の中で、禍(わざわい)をもたらす「怖いもの」が消え去ることは、人々の切なる願いであったのでしょう。コロナ禍を経験した今ならそれがよくわかります。
子どもたちが安心できる環境で、怖い思いを楽しめる絵本を、たくさん読んであげたいものです。
2月と3月のおすすめ絵本|テーマ「鬼・節分」
0歳から2歳向け
『おには うち!』
園庭にいた見知らぬ子「におくん」。一緒に野球で遊んでみたら、とっても上手! 「におくん」って…!?
『まめの かぞえうた』
「ひとーつ、まめ ひとつ あったとさ」。数えながら豆の成長をたどる、かぞえ歌絵本。裏表紙の鬼をしっかり見せて。
『まめまき できるかな』
今夜は節分。まこちゃんは、まりやお手玉を使って豆をまく練習をしました。すると、庭から鬼たちがやってきましたはたして、まこちゃんは鬼を追い払えるでしょうか? 巻末には節分の由来や豆の食べ方のアドバイスも。
2歳から4歳向け
『ふくはうち』
「ふくは うち! おには そと!」。豆まきをしてふと見ると、部屋には知らないおばさんが次々4人もやってきて…。
『おにはうち ふくはそと』
子どもたちはタイトルに「あれ?」と思いつつ、ユニークな展開に聞き入ります。読後、満足感のある作品。
『まゆとおに―やまんばのむすめ まゆのおはなし―』
まゆが雑木林の奥で出会ったのは、とんでもなく大きな人。鬼を知らないまゆは「かわってる」としか思いません。おなかがすいた鬼は、まゆを食べようと…。大人気の『やまばのむすめ まゆのおはなし』シリーズの1冊。
『おにはそと! ふくはうち!』
鬼のお嫁さんにされたおふく。春になって、村へ逃げ帰ると、鬼が追いかけてきました。そこで母親は…。
4歳から6歳向け
『ふくはうち おにもうち』
雪が降る夜、外から聞こえた「さむいよう さびしいよう」の声に戸を開けると、そこには鬼たちがいました。
『こぶじいさま』
おなじみの「こぶとり」の昔話は、卒園までに1回は読みたい絵本のひとつ。鬼の歌の部分は歯切れよく楽しげに。
『こんにちは おにさん』
節分とは時期違いですが、タヌキとイタチが友達で、毛虫に震えてしまう繊細な「おにさん」の物語です。
『おなかのなかに おにがいる』
おなかの中にいる鬼。それはおなかの持ち主と同じ性格をしているんですって! みんなのおなかの中にはどんな鬼?
『新 幼児と保育』2022年2/3月号より
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