子育て支援とはなんでしょう【今井和子先生に聞く 子どもの成長とともに育む支援 ♯1】
いま、保護者支援が大切な理由とは?
2001年に児童福祉法が改正され、“保護者に対して保育に関する指導を行うこと”が、新たに保育者の業務に加わりました。子どもを一緒に育てる、すなわち保護者支援をすることが保育者の仕事の一部になったのです。核家族化が進み、子育ての基盤となる家庭の機能が低下している中で、子どもの健全な成長を図るためには、どうしたらいいのか。乳幼児保育に精通する今井和子先生に、子育て支援について学ぶ第1回目です。
監修
今井和子 先生
「子どもとことば研究会」代表。23年間公立保育園で保育者として勤務。その後、東京成徳大学教授、立教女学院短期大学教授などを歴任。現役保育者であったころからの経験をもとに、全国の保育研修などに力を注いでいる。
目次
保育者には保護者を支援する責務があります
子育て支援とは、子どもが道筋をたどって成長していくのを、保護者と一緒に保育者がパートナーとして、保護者の子育てを支援していくことです。保育者は決して育児の代行ではなく、あくまで援助者であって、子育てをする主人公は保護者です。それを援助していく者として、仕事の責務があるのです。では、どんな援助をすればよいのでしょうか。援助とは、保護者の不安や悩みを受けとめ、和らげていくことです。少しでも子育てが楽しくなるように働きかけていくことでもあります。保育者の役割は、著しく成長していく子どもという存在に感動しながら、保護者と一緒に子育てを進めていけるように、温かく支えていくことなのです。
子ども一人ひとりに個性があるように、保護者一人ひとりにも個性があります。保育者はそれを理解し、しっかり見つけていきながらサポートしていく。それが役割であり、責務がある、と位置づけられています。まずは、子育てがしにくい社会であるという現状を理解することから始めましょう。
出生数の推移
子育てを取り巻く社会全体の変化とは
いま、子育てを取り巻く社会全体が変化してきています。人間関係が希薄になってきていて、身近に支えてくれる人がいない、保護者が孤立の”孤育て“を強いられているのです。これが、子育て支援が大事な理由です。以前は祖父母がいて、みんなで子どもを見ていました。いまは、日中お母さんがひとりで面倒を見なければならず、日々、孤立した”孤育て“が続きます。さらに、いまのお母さんたちは出産以前に赤ちゃんや小さい子と接する機会がない人が多く、接し方がわからない、という人も珍しくありません。厚生労働省が1歳半健診で行った調査で、出産して初めておむつを替える経験をした、という人が67.7%。これでは子どもの育ちや接し方がわからないというのは当たり前で、保育園が支援していくのが必須です。
少子化で核家族になってきているのも原因のひとつです。2022年1〜10月に生まれた赤ちゃんの数が、速報値で前年同期比4.8%減となり、年間出生数の概数が初めて80万人を割り込む見通しであることが、12月の厚生労働省の人口動態統計でわかりました。これは統計開始以来最少となる数字で、もっと先の数字としていわれてきたものです。そのくらい子どもが少なくなってきています。未婚化や晩婚・晩産化の影響が大きいほか、経済状況の懸念や子育て・生活への不安も関係しているのではないでしょうか。特に共働きしないと生活できない、そういう状態が多く、出生数が下がっている中、3歳未満児の入園はとても多くなっています。以前、乳児は少なかったのが、いまは幼児と変わらないぐらい、入園希望が増えてきています。
共働きで育児、家事、仕事に追われて保護者はゆとりのない生活を送っています。家、保育園、職場を行き来する大変な生活。本来はゆとりこそが生活に一番大事であり、ゆとりが欠如すると、人への共感性が乏しくなってしまいます。子どもが転んで「痛い!」と泣いたとき、「そんなの大丈夫、大丈夫」ですませる親が増え、「痛かったね」と子どもの心に共感する心が弱くなっています。そんな保護者を理解せず、子どもを大事に育ててない、子どもを優先していないなどと、非難する保育者もいます。でも、どんなに大変か、生活の大変さを理解しないと共育てはできません。長時間労働が親の育児力の低下を進めてしまっています。親が親として育つ機会が与えられなくなっているのです。
現在の親は、子どもと一緒にいる時間が圧倒的に少ない。せめて子どもが5〜6歳になるまで、親が子どもと一緒にいられる時間を1日に数時間増やすことで、親も成長できます。最初の6年間は両親の仕事より子育てのほうが優先される社会になっていかなければいけません。仕事優先で子育てが後回し、というのが否めないのです。そんな社会が母親を追い込んでしまっているのではないでしょうか。子育ての自己責任が求められ、地域で育てましょう、といわれている割に子どもの育ちは家庭、親の責任になってしまう。子どもの育ちは母親次第、という風潮が広がってしまった。それがひとつ大きな子育てを取り巻く社会全体の変化です。
共育ての積極的な意味を感じとることが大切
コロナ禍以降、特にゆとりのない生活に拍車がかかってしまっています。いまは学歴社会にあって、自然の中での遊び体験を知らない世代が親になってきています。家庭用ゲーム機やいじめ、社会全体が閉塞感を引き出していて、授乳中にメールをしたり、スマートフォンに子守りをさせる親も少なくありません。そういった傾向が非難されていますが、それに頼らずにはいられない、そんな親をただ非難するのではなく、どうしてそうなっているのかを理解しながら、なぜそうせざるを得なかったのかを考え、いまの保護者を受けとめる、という姿勢が保育者には大事です。もっとまわりの人たちが温かく見ていく姿勢が何よりも大切です。
それに拍車をかけるように、入園してくる子どもたちを見ると、以前の姿とは異なっています。乱暴な子、甘えん坊の子、自我の育ちが弱くて自己主張できない子、保育者の顔色をうかがう子など、気になる子どもの姿が増えてきています。保育者が少ないのに、それが是正されない中、保育者も困難を抱え込んでしまいます。それを解決するのが”共育て“です。
現状”共育て“ということを、保護者も保育者も十分理解していません。もっともっと深く理解することによって、自分たちが働きながら子育てすることは大事なことなんだ、と保護者に自信を持ってもらえます。気兼ねしたり、こんな小さい子を保育園に預けて仕事をしていいのかな、と負い目を感じて”共育て“するのではなく、”共育て“のよさ、積極的な意味を感じとって、アピールしていくことが大事です。
”共育て“は、母親だけが必死になって子育てすることではなく、園という保育のプロである保育者がいて、同年代の子どもたちが一緒に生活している場所、そこに加わることで、子どもだけではなく、子どもも親も、そして保育者も一緒に育ち合う、育っていくことが”共育て“だと思います。園と家庭で24時間の生活を理解しあいながら、子どもの育ちを一緒になって喜び合う。家庭ではできないことを支えてくれ、一緒に育つという、素晴らしい人間関係の育ち合いが図れ、人間関係が広がっていく。”共育て“とは、そういう場を意味します。
大人と同じように、子どもも家庭と園で違う顔を見せることがあります。それを相互に知り合い、両方が共有しあうことがとても大切です。園での子どもの姿、育ち、家庭での子どもの姿、育ち。その両方を共有しあってこそ、育てていくことができるのです。特に3歳未満児は、「昨日は遅くまで起きててあんまり眠れなかった」「朝ごはんを今日はたくさん食べてこれなかった」など、自分の生活ぶりを言葉で表現できません。だからこそ、子どもの生活ぶりをよくわかっている大人同士が密に連絡して、伝え合っていかなければ、子どもは安心できる育ちが保障されないのです。一緒に子どもの生活を支え合っていきましょうねと、共有しあってこそ、見通しをもって育てていくことができます。
いまの子どもたちの姿
保護者と保育者のよい関係とは対話ができる関係
保育者は保育のプロであり
子育てのプロではありません
”共育て“をしていかなければ、子どもは育ちが保障されていきません。それには保護者と保育者のよい関係づくりが、どうしても求められます。よい関係づくりが子どもの安心できる居場所づくりにもなっていきます。では、よい関係づくりとは何でしょうか。それは、保護者と保育者が対等な関係をつくること。
よく、保育者の中には、「もう、保護者は苦情ばかり言ってきて困るわ」という不満を口にする人もいます。一方で、お母さんの中には誰にも相談できないで困っている人もいます。そういうコミュニケーションで悩む保護者や保育者がいる中で、本当に保護者と保育者が対等な関係をつくらないと、本音で語り合える関係にならないのです。だから保育者は、それぞれの家庭の主体性を尊重しながら、親の見方のスイッチを変えてみる必要があります。
保育者は保育のプロです。でも子育てのプロではありません。○○ちゃんは泣いてばかりで友達とかかわろうとしない。それを家庭のせいにしてしまい、子どものために保護者を注意しなければ、というような子どもという観点だけで保護者を見てしまう、そういう傾向がどうしてもあります。でも、それを家庭のせいにせず、それがどういうところからきているかを一緒に考える姿勢、大人同士として、保護者と対等に、率直に話し合うことができるかどうか、これが大事なことだと思います。これこそ、対話ができる関係だ、と思っています。
対話というのは、お互いに人格を認め合い、対等な立場で話し合うこと。お互いに相手の話を最後まで聞く、そして話す。この聞く、話すという何でもないような双方向のやりとりの中から、何かが生まれたり、新しい視野が開けたりする、それこそが対話です。昨今、保育者が一方的にこうあるべし、という正論を保護者に押しつけてしまって、対等な立場でお互いに理解しあう対話というものが、難しくなってきている気がします。
保育者は子どもからは確かに先生であっても、保護者からは先生ではありません。先生と言われると、どうしても指導しなければと、相手より高い位置で話しがちですが、保護者にとっては、先生ではないのです。一緒に育てていくパートナーなのです。そういう意味で、対話ができるかどうかが何より重要になります。たとえば、のりこちゃんのお母さん、よしおくんのお母さん、と子どもと親を一体でとらえてしまう傾向がありますが、そういう見方ばかりではなく、保護者を子どもから切り離してひとりの人間としてつきあう、話し合う、ということがたまには必要です。子どもの話題を抜きにして保護者と話をする機会がどれだけあるかということが、保育者のコミュニケーション力が養われる機会になります。
慶應大学医学部小児科の渡辺久子先生の講演から学んだことですが、「保育者は親よりいい人になってはいけませんよ」とおっしゃっていました。なんといってもそのことを自覚しているかどうか、ということです。子どもにとっては、常に親が一番です。これだけは確かです。怒られてばかりいても、子どもは親が大好きなのです。だから、どんなことがあっても、「〇〇ちゃんのお父さんお母さんはいい人だね」と言ってあげること。それによって、子どもがいいお父さん像、お母さん像を持てるようになります。どんな親でも、「ときどき怒ることがあるかもしれないけど、〇〇ちゃんが大好きなんだよ、とっても大事にしているんだよ」。そういうふうに、親を尊重する心を子どもに伝えることが大事です。それこそが、保育者の鉄則です。
新入園児受け入れ時の保護者とのかかわり方
入園前面接は家庭での様子を
なるべく細かく聞き取る
入園・進級のシーズンは、子どもとの関係がスタートすると同時に、保護者との関係もスタートします。新入園児の緊張や不安は想像以上のものがあると思いますが、不安を感じているのは子どもを預ける保護者も同じです。そんな新入園児と保護者の不安を和らげ、できるだけ心の負担が軽くなるように、保育者が心がけたいのが、次に挙げた5つの心得です。
新入園児受け入れの5つの心得
- なるべく家庭と同じ対応を心がける
- 安心できる環境づくり
- 泣かない子にも目や手をかける
- 保護者の不安をしっかり受けとめる
- 1・2歳児の場合、新入園児だけでなく進級園児にも目をかけることを忘れない
入園前の面接は、新入園児と保護者を知るよい機会です。同時に、保護者と園のスタッフとの、初めての出会いの場でもあります。面接者の対応が、保護者の園に対する印象や評価にもつながるので、保護者に安心や信頼を感じてもらえるような対応を心がけます。それがよい関係をつくっていくための基礎になります。面接では、これまでの育ちを詳しく聞いて理解し、家庭に近い対応、環境づくりを行えるように準備します。保育者が一人ひとりの生育歴などを把握することがポイントになります。
どの年齢の子にもいえることですが、特に自分の気持ちを言葉で表現できない乳児は、家庭と園での様子が違うことに大きな不安を感じます。そこで、一人ひとりの保護者から、名前の呼び方や抱き方、子どもが家ではどんなときによく泣くのか、泣いたときのあやし方、好きなおもちゃやお気に入りの毛布やタオルがあるかどうかなど、なるべく細かく聞いて、子どもの育ちを理解します。また、事前に面接用紙を作成しておくと、聞き漏らしもありません。入園時は、子どもが安心できる心のよりどころになれるよう、なるべく同じ保育者が受け入れ(抱く、話しかける、世話をする)をすることも大切です。これにより、子どもや保護者との信頼関係も育まれます。保護者に安心感を抱いてもらうことが肝心です。
家庭に伝えておきたいことを
丁寧に伝える
面接の際に、園から保護者へ園生活の内容と持ち物について説明します。保護者は、先生に手をかけないように「泣いちゃダメよ」「先生の言うことを聞くのよ」など、子どもに大人の都合を押しつけることがあるようなので、そのときに保育者は、不安なときは泣きたければ泣いていいんだということを保護者に伝え、子どもがありのままの姿を園で出せるようにお願いします。
また、子どもにとって一番の不安は、”置き去りにされること“です。その心的動揺を拭い去るためにも、登園して別れるときは、心を込めて「必ず迎えにくるからね」と話しかけてもらい、お迎えのときは荷物の確認などの前に、まずは子どもに「会いたかったよ」と、スキンシップをとるように頼みましょう。各年齢での育ちの特徴を保護者に説明しておくことも大切です。対人関係、運動機能、言語の発達など、個々の成長状態を具体的に聞きます。1・2歳児ではかみつきやひっかきというものがあり、極力防ぐように努めますが、この時期の発達の過程で起き得ることでもあるということを伝えておきます。
登園・降園時は
忙しくても笑顔であいさつ
激しく泣いて登園する子、保護者の後ろにくっついて離れようとしない子。この朝の受け入れが1日の保育のキーポイントになります。登園時は人の出入りが多くなるうえに人手も足りない時間帯ですが、登園してくる子に対しては、どんな状況でも子どもの名前を呼び、「〇〇ちゃんおはよう」と、元気に笑顔であいさつしましょう。特に子どもが泣いたりしてあまりいい状態ではないときには、たとえ忙しくても、きちんと抱きとめて迎え入れます。泣きやまない子どもを預けていくことに不安を覚える保護者は多いもの。子どもを抱きとめることで、そんな不安も受けとめましたよ、というメッセージになるのです。
また、降園時は保護者が何を求めているのかをつかんでやりとりします。登園時に子どもが泣いていれば、その後、子どもがどうやって過ごしたのか気になっているはずです。日中の子どもの様子をひと言伝えるだけでも、保護者は子どものことをより多角的に知ることができ、大きな安心につながります。
連絡帳を育児記録にし
赤ちゃんの24時間を把握
保育中に子どもがどんな様子で過ごしているのかを知ることは、保護者にとって安心材料になります。保育時間が多様化し、保育者がシフト制で働いていることがほとんどなため、担当の保育者が保護者から毎日子どもの様子を聞くことは難しく、また、忙しい送迎時では聞き逃し、伝えそびれが出てきます。連絡帳に記入することで、家庭、園の双方でその子の生活、体調、発達について24時間把握することができ、子どもの育ちをしっかり確認する機会になります。
そして、子どもの成長や子育ての中の不安や悩みを連絡帳を通して共有することは、子育て支援につながります。いろいろな情報を保護者に伝えることで、保護者の視野を広げることもできるうえ、連絡帳を通して保護者の心の安定が図れ、子育てについて学ぶことができます。毎日会えなくても、保護者にとっては、必ず保育者が連絡帳に目を通してくれるという安心感、離れているときの子どもの様子に触れられ、子育ての楽しみにつながっていくのではないかと思います。
また、保育者は、連絡帳は単に園の連絡事項を書くものではなく、子育て支援につながる大切なノートである、という発想を持つ必要があります。子ども、保護者、保育者の相互信頼を培う、コミュニケーションの手段なのです。そのため、保育者が一生懸命書いても、一方通行では意味がありません。まずは最初のクラス懇談会などで、連絡帳の必要性を保護者に伝え、理解してもらう働きかけをしましょう。そして、日々のやりとりを通して、連絡帳の大切さを実感してもらうようにしていきます。
そうすると、保護者は忙しい時間をやりくりしてでも、我が子の家庭での様子を伝えたいと思ってくれるはずです。また、連絡帳のやりとりで子育てに役立つ情報、参考になるような意見などは、書いた保護者の了解を得て、クラスの保護者全員に伝えるようにするといいでしょう。ひとりの保護者と保育者間のやりとりをクラス全体に広げていくことで、連絡帳が保護者同士の横のつながりにも役立つのです。
文/大石裕美
イラスト/奥まほみ
『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2023春より
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