「子どもの手形に大人が描き足す作品に違和感があります」【保育マメマメQ&Hints! with 大豆生田啓友先生】
大豆生田 今回の質問は、「子どもの手形に大人が描き足した作品に違和感があるのですが、どうしたらいいですか?」です。答えはひとつじゃありません。ぼくの考えるいくつかの対応例をあげます。みんなで対話して、考えていきたいですね。
※公式Instagramで今回のテーマの動画(約90秒)が見られます。(←文字をタップorクリックしてください)。左下は、リール動画撮影中の様子(写真左は小学館編集スタッフ)
大豆生田啓友先生
玉川大学教授。保育・子育て支援などが専門。特に保育の質の向上が研究のメインテーマ。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』(ともに共著・小学館)、『子どもが中心の「共主体」の保育へ』(監修・小学館)など多数。2024年9月28日に柴田愛子先生との対談を保育セミナーで行います。←この部分をタップorクリックして詳細と申し込みサイトへ
保育は、子どもの生活に丸ごとかかわるお仕事。
そして、同僚や保護者との関係も複雑に交ざり合って、
なかなか個人の思ったとおりにはいきません。
「こんな場合、どうしたら?」
そんな現場の保育者が抱える悩みや疑問に対して、
大豆生田啓友先生から、考え方のヒントをいただきました。
これをもとに、仲間とぜひ話し合ってみてください。
Q花 0歳児クラスの保育士です。
うちの園では、子どもの手形をとって、それに大人が目とか口を描き足して、動物などにしたうえで、子どもの作品として壁に飾っています
手形をとるとき、ときどき嫌がって泣く子もいます。
この活動の意味は、一体何なのでしょうか。私には違和感しかないのですが。
マメ先生 そのとおりですね。
多分、かわいらしい作品にすることで、保護者を喜ばせたいのでしょうね。
それも大事かもしれませんが、子どもの意図とは無関係に加工することや、一律に子どもの手を押さえて形をとることは、子どもの思いや願いとは関係がありません。
園の活動は、極力「子どもの主体性」を尊重するかたちで、計画したいものです。
目次
させるのではなく、したくなる環境を
マメ先生 基本的にどんな活動も、無理に子どもを参加させるのではなく、参加したくなるような環境を設定するのが、保育では肝心要です。
感触遊びが好きな子なら、大きな紙と安全な絵の具を用意すれば、自然に手形をつけて遊び始めますよ。
マメ先生 逆に、絵の具が手につくのが嫌な子もいますから、そういう子は、別のかたちで参加できるようにしたいですね。
作品主義に陥らない
マメ先生 上のようなやり方で、保護者には遊んでできたその「痕跡」を見せて、乳幼児期には小学校以上の「作品主義」とは違う文化があることを説明できたらと思います。
Q花 「作品主義」って何ですか?
マメ先生 ここでいう「作品主義」は、何かの作品を完成させることを目的とする立場のことです。
「作品主義」の造形・描画活動では、大人がテーマや画材を与えて、たいていは「大人がよいと思える完成品」を作り上げることがゴールになります。
本来、それは小学校以上でも望ましいとは思えないけれど、園であればなおさら、「作品よりそのプロセス」にこそ、その子の育ちを発見しないとね。
痕跡の中にその子の育ちを見つける
Q花 ああ、紙の上を歩いた「痕跡」は、まさにその子の動きのプロセスになりますね。
マメ先生 はい。
乳幼児だと特に、その子の中に、こんなものを作りたいという「作品としてのゴール」があるわけじゃないでしょう?
あるのは、指で絵の具をのばして満足して、「ここで終わりでいい」っていう「気持ちのゴール」だけ。
先生は活動の痕跡を見て、「絵の具の特性を知ったり、味わったりしていたんだ」などと振り返れればよくて、見栄えのいいものにする必要はないわけですよ。
そんな意図を保護者に伝えるとき、製作過程の子どもの写真や動画を同時にシェアできれば、説得力がアップするはずです。
家庭で行う手形・足形の活動は?
Q花 「生後半年の記念」として、家庭で手形をとっているケースがありますが、これもやめるよう進言したほうがいいですか?
マメ先生 家族が手形・足形をとることに対しては、否定できないですね。
親子の関係性の中で行う遊びは、やはり個々の家庭の文化を尊重したほうがいいと思います。「園では行いませんが、ご家庭で行われる分には問題はありません」と伝えると、余計な介入をされたと、思われずにすみそうです。
かわいい作品を「おみやげ」にしない
マメ先生 こんなふうに、保護者に持ち帰ってもらうための作品にすることを、「おみやげ保育」なんて言ったりすることがあるんです。そろそろ、そういうのを卒業したいですよね。
Q花 「おみやげ保育」。うまい表現ですね。その作品を完成させるために、保育者も「おみやげ保育」になったりするんですよ~。
マメ先生 ああ、「持ち帰り残業」のことね。それも卒業したいよね。
今回のマメマメヒント
★この記事は、小学館『新 幼児と保育』公式Instagram(←こちらをタップorクリック!)でリール動画を配信した内容にweb版として加筆・再構成したものです。また、小学館の雑誌『新 幼児と保育』では、ほかのリール動画で配信した内容に加筆・再構成し掲載していますので、どうぞご覧ください。また、このコーナーへの質問、疑問も募集中です。下から投稿できます。
お話/大豆生田啓友(おおまめうだ ひろとも)先生
玉川大学教授。保育・子育て支援などが専門。特に保育の質の向上が研究のメインテーマ。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』『子どもが対話する保育「サークルタイム」のすすめ』(ともに共著・小学館)、『子どもが中心の「共主体」の保育へ』(監修・小学館)など多数。
構成・イラスト/おおえだ けいこ
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