大豆生田啓友先生✕つるの剛士さん|注目園訪問レポート「地域が支え、だれもが幸せになれる“こどもまんなかの暮らし”」

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大豆生田啓友先生×つるの剛士さん注目園訪問レポート
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タレント

つるの剛士

玉川大学教授

大豆生田啓友

大豆生田先生と幼稚園教論二種免許・保育士資格を取得したタレントのつるの剛士さんが、今回訪問したのは、宮崎県都城市にある「乙房こども園」です。南国宮崎の雄大な自然の中で、子どもも大人も生き生きと暮らしていました。

※取材時に撮影した動画(約2分40秒)が見られます。(←タップ or クリック)

イチョウの巨木に作られたツリーデッキにすわり笑顔の大豆生田先生、刀坂園長、つるのさん。

玉川大学教授・大豆生田啓友先生
1965年、栃木県生まれ。玉川大学教育学部教授。保育の質の向上、子育て支援などの研究を中心に行う。NHK Eテレ『すくすく子育て』をはじめテレビ出演や講演など幅広く活動。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』(共著・小学館刊)など多数。

タレント・つるの剛士さん
1975年、福岡県生まれ。『ウルトラマンダイナ』で俳優デビュー。音楽でも才能を発揮し人気に。現在、2男3女の父親。2022年に幼稚園教論二種免許、保育士資格を取得した。CD・歌手デビュー10周年『つるの剛士ベスト』発売中。

乙房こども園園長・刀坂弘毅先生

幼保連携型認定こども園乙房こども園園長。イベント会社に勤務していたが、2005年に前園長である父が他界し、事業を承継するために入職。「保育を変えよう」と職員・保護者とともに改革を行いながら現在に至る。NPO法人 園庭・園外での野育を推進する会副理事長。

乙房こども園(宮崎・都城市)
訪問ドキュメンテーション

乙房こども園は、九州の自然豊かな南国ムード漂う宮崎県都城市にある幼保連携型認定こども園です。「遊ぶこと」「自然の暮らし」「食べること」を大切にし、子どもたちの個性や意欲、自分で考えて行動する自主性を育む保育を目指しています。

地域が一丸となって創り上げた
地産地消のこども園

乙房こども園の庭。遊具は保護者や先生、地域の人たちで製作。「温かみがあって、ドラマのセットみたいでワクワクする」とつるのさん。

「うらやましい! この景色と環境!」と、乙房こども園を訪れたつるのさんが言いました。標高1500m以上の山々が連なる霧島連山を望む高台の園庭。そこには菜園やビオトープ、手作り遊具や巨木のツリーハウスなどが自然に溶け込むように設けられていました。

「この自然を丸々生かした園庭の作りがいいですね」と大豆生田先生。広い園庭では泥だらけになって池で遊ぶ子、昆虫採集をする子、自転車で遊ぶ子、木登りをする子と、おのおのが個性を存分に発揮して遊んでいます。自然の中に子どもたちの笑い声だけが響き渡っていました。


乙房こども園は約50年前に、現在の園長である刀坂先生の祖父が始めました。元は地元の小学校で校長をしていたこともあり、そのつながりで地域の人たちから保育園を開園してほしいとの要望があって始めたそうです。

園舎は建て替えで壊す予定だった小学校を移築して利用。地域の人たちが給食のために野菜を持ち寄るなどして、保護者だけでなく地域一丸となって保育園の建設を応援したといいます。まさに地産地消の保育園です。

その地域の連携は今も健在。外の炊事場では地域の婦人部の方たちが郷土料理を一緒に作ったり、遊具や家具作りを一緒に楽しんだりと交流を重ねているそうです。大豆生田先生は言います。

「直接子どもにかかわらなくても陰で地域が支えていく『こどもまんなか社会』のお手本のような園。このように子どもも大人も幸せになれる園が増えていくと、保育の未来も明るいはずです」

5月初旬ころ。地域の方が畑を耕してくれている様子を見に来たついでに、トマトの観察をしているところ。風で倒れないように茎を紐で固定したり、主な茎に栄養が行くように脇芽を摘んだりしています。(写真提供/乙房こども園)
急勾配の滑り台で遊ぶ子どもとつるのさん。一見、リスクがありそうな遊具でも、保護者の方たちと一緒に製作しているので保護者からも理解を得ています。

子どもも大人もお互いを尊重し
信頼しあえる関係性を築く

乙房こども園には0〜6歳115名、学童80名、保育士約40名が在籍(2024年2月現在)しています。広い園庭を自由奔放に走り回る子どもたちを、保育者たちは常にトランシーバーで連絡を取り合いながら見守っていました。

「先生たちがよく連携していて、すごく仲がよいことがわかりました。この園のように人数が多く広い環境で保育をする場合、安全面でも保育者たちの連携が重要となります。『〇〇ちゃん、そっち行ったからよろしくね』と、関係がよくないとできません。それに保育者同士が仲が悪いと子どもたちにも伝染します。先生たちがお互いを尊重し信頼しあうことが、とても大事なことだと思います」(大豆生田先生)

園内では年長の子どもたちが幼い子どもたちの面倒を見ている姿もよく見かけました。夕方になると学童の小学生も遊びに加わり、幼い子どもたちは、お兄ちゃんたちの遊びをまねて、難しい急勾配の坂上りなどを何度もチャレンジしていました。「お兄ちゃんたちに憧れて、それまでできなかった難易度の高い遊びをまねっこするのって、僕も幼いころによくやりましたよ。異年齢の子どもたちが助け合っている姿って、見ていてうれしくなりますよね」(つるのさん)

「最近は学童を別棟に区別してお勉強させる園も結構あります。ですが、こんなに素晴らしい遊び場があるのだから一緒に遊べばいい。子どもたちがお互いを魅力的だと感じ尊敬しあいながら遊ぶことって、人間が成長するうえで、お勉強以上に大切なことだと思います」(大豆生田先生)

園庭に設けられた池は、ゲンゴロウやアメンボなどたくさんの水生昆虫の生態系を観察できる貴重なビオトープ。子どもたちの人気スポットのひとつです。
園長が川和保育園(神奈川・横浜市)の保育園に視察に行ったときに影響を受けて造った石垣。子どもがよじ上って遊ぶための石垣で、幼い子どもたちが何度もチャレンジしていました。

【鼎談】園は子どもと大人が共に育ち、
次世代につなぐ場所

大自然に恵まれた乙房こども園は、大人も笑顔になれる場所。地域の人たちが子どもとかかわることで幸せを感じ、さらに子どものファンになる。今、保育が必要としている「こどもまんなか社会」が、ここ南の地でしっかりと根づいていました。

後ろには霧島山も見える自然に恵まれた環境
(左)タレント・つるの剛士さん (中央)乙房こども園園長・刀坂弘毅先生 (右)玉川大学教授・大豆生田啓友先生

大豆生田/今回、乙房こども園を訪れて、子どもたちの生活の場に昔ながらの暮らしがあるということがどれだけ大切か、改めて感じました。例えば暮らしの中の食。子どもたちが野原で菜の花やたんぽぽを摘んできて、それを材料にしておやつを作ったり。園庭で白菜を干したり、焚き火をするのが当たり前の光景だったり。こういう暮らしがどれだけ豊かかっていうのを、みんなの笑顔を見てわかりました。

つるの/最初から決められた枠組みの中で何かをするのではなくて、子どもたちが自由に自然体で遊んでいて、それを大人も見守りながら一緒に楽しんでいる。なんか計算されていないというか、まさに暮らしの延長線上に保育がある。親御さんたちも巻き込んで子どもと一緒に遊具や家具を作っているから、一見、危ないと思えるような場所もちゃんと暮らしの一部になっていて、うらやましい環境でした。

大豆生田/子どもたちが木に登ったり崖を這い上ったりするような少しリスクがある環境って、大人の日常の中にはほぼないですからね。そういう場所で親も一緒に遊んで当事者になれば、「そういえば子どものころってこういう環境で遊んで楽しかったな」って話になってくる。園って子どもだけでなくて、大人も育つ場所なんですよ。

刀坂/“親御さん巻き込んで当事者にする”というのはまさにそのとおりだと思います。例えば遊具を一緒に作っていると、「この高さ危なくない?」って言葉が必ず出てきます。そうすると「この高さにすると子どもにこんな力が身につくし、リスクはこうすると回避できます」ってその場で説明ができる。保護者の方の理解が深まると、自然とお互いに信頼関係が築かれていくので、保育自体もやりやすくなりますね。

つるの/今、親が子どもにかえれる環境って少なくなってきているじゃないですか。だからこの園のような、だれもが自然体になれる場所って希少だと思います。

刀坂/今は言われなくなりましたが、昔は、うちの保育は変わっている保育だって言われていたんです。例えば、ごはんも並んですわって「いただきます」ではなくてあちこちで食べるし、みんな裸になって泥だらけになってるし。他園の先生に「乙房さんって、朝来たら必ず脱ぐんですか?」って質問されたり(笑)。子どもたちが暑かったら脱ぐし、寒かったら着るし、子どもたちが自然体でいるというのが僕の理想で、それを保障できる園を作りたいと今でも思っているんです。

大豆生田/大人が「裸足になりなさい」と指示する裸足保育や裸保育を推奨するのではなく、子どもたちが自由に裸足になれる環境を作ることのほうが大事ですよね。子どもの自主性を保障できる園にするには、やはり親御さんや地域の人たちの理解が必要になるでしょう。

刀坂/ここも地域の方たちの助けがあってこそ成り立っている園だと思います。卒園した保護者の大工
さんが廃材を持ってきてくれて遊具や家具を作ってくださったり、毎年畑を耕してくれる方、野菜を持ってきてくれる方など。こうやって僕らが今、地域の方々に助けられているのは、園の先輩たちがいい関係性を築いてくださったおかげだと思っています。ですから僕らがやれることは、その関係性を後輩たちに引き継げるよう、地域との交流を絶やさないことだと考えています。

大豆生田/今、世の中は「子どもの声がうるさい」「保育園が自分の家の近くにあるのは嫌だ」と、子どもから離れていく傾向にあります。ですので、この園のように子どもを中心にいろいろな人たちが幸せの輪に巻き込まれて「子どもがいるって大事だね」って思える未来にしたいですよね。それにはやはり、もっと大人たちが子どものように遊ばないといけないかもしれません。

つるの/今までいろいろな園を訪問させていただいて共通していえるのは、「いいなあ」って思える園って大前提として大人がワクワクする場所。本来、保育園や幼稚園ってこういう場所で育った大切さを、次世代の子どもたちに伝承する場であるべきだと、つくづく思いました。

ブナ科シイの木の仲間の広葉樹「スダジイ」。果実のドングリは食用でき、お菓子の材料にもなります。甘みの少ない栗のような味とのこと。
園庭には地元の人からいただいた給食用の白菜が干されていました。「こういった昔ながらの暮らしがこの園の最大の特徴でしょう」と大豆生田先生。
保護者から譲り受けたヤギ。子どもたちは一緒に散歩をしたり、エサをあげたりしています。「命とは何かを実感するいい機会だと思います」と刀坂園長は言います。

※取材時に撮影した動画(約2分40秒)が見られます(←タップ or クリック)

文/松浦裕子 撮影/茶山 浩

『新 幼児と保育』2024年夏号より

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