オームラ トモコさん「カエルの記憶」【表紙絵本館】

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『新 幼児と保育』は、毎号絵本作家さんの描きおろしの絵が表紙となっています。表紙を飾った絵本作家さんの幼年期のエッセイを紹介していきます。今回は、オームラ トモコさんです。

カエ ル の記憶

幼稚園へは、いつも母と歩いて通園していました。東京でもまだ畑があちこちにあるのどかなコースでした。ある日の帰り道、母と畑のわき道を歩いていると、変わった形のゴツゴツした石を発見。なぜか気になり近づいて見てみると、それはとても大きなカエルでした。一瞬にして血の気が引き、悲鳴をあげながら母と猛ダッシュで逃げました。親子でカエルが大の苦手だったからです。この出来事を父に話すと、「そういえばこの間、うちの洗濯機の下にも大きなカエルがいたよ」と、想定外なお知らせが。当時は洗濯機が家の外にあり、ホースから水が滴るため土の地面がいつもジメジメしていました。いかにもカエルが好きそうな環境です。とはいえ、エサになるようなものもないし、もういないでしょと思っていました。

それから月日は流れ、カエルのことなどすっかり忘れていたある日、母が久しぶりに私の髪を散髪するというので、勝手口の小さなスペースに椅子を置きプチ美容室を始めました。散髪中ふと、カエルの記憶が蘇りました。なぜならすぐ横には洗濯機があったからです。まさか、まだカエルがいるなんてこと…あるかもしれない! 私は急に怖くなり「ねぇお母さん、洗濯機の下のカエル、もういないよね?」と聞くと、「あぁ、カエルさんならとっくにどこかへ行ったみたいよ」という母の声は明らかに動揺しています。私と母の頭の中はカエルのことでいっぱいに。早くその場から離れたいのに今は散髪作業中。通常より倍速でカットした髪型は残念な仕上がりとなりました。その後、父に洗濯機の下を確認してもらったところ、もうカエルはいませんでした。

オームラ トモコ

東京都生まれ。パレットクラブスクール卒業後、イラストレーターとして活躍。第3 回ピンポイント絵本コンペ最優秀賞受賞作『こんなおつかいはじめてさ』(講談社)で絵本作家デビュー。『なんのぎょうれつ?』(ポプラ社)で2011-2012 フランス・ノールイゼールこどもが選ぶ文学賞(幼児の部)、2014 スウェーデンピーターパン賞受賞。絵本作品に『おばけのパンこうじょう』(理論社)、『でんしゃが とおりまーす!』(世界文化社)、『アニマルランド』(金の星社)などがある。

『新 幼児と保育』2023年秋号より

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