わずかな高低差が浸水のリスクに【豪雨が起こした「まさか」の災害 #1】
近年、地球温暖化の影響もあり、ゲリラ豪雨や台風などにより日本全国で水害が多発しています。2015年の鬼怒川決壊では、水害には縁遠いと思われていた地域にも浸水被害が及びました。そんな地域のひとつ、茨城県常総市を鶴見大学短期大学部の天野珠路先生が訪問し、お話を聞きます。
第1回は「わずかな高低差が浸水のリスクに」。
常総市公立水海道第三保育所の稲見好枝所長に、「まさか」の園舎浸水についてうかがいました。
(この記事は、『新幼児と保育』2019年8/9月号に掲載されたものです)
レポートする人
天野珠路(あまのたまじ)先生
鶴見大学短期大学部教授。元厚生労働省保育指導専門官。映画『3.11その時、保育園は』(2011年岩波映像)監修。著書に『写真で紹介 園の避難訓練ガイド』(2017年かもがわ出版)、『3・4・5歳児の指導計画保育園編【改訂版】』(小学館)などがある。『新 幼児と保育』誌上で「災害への備え2020」連載中。
取材協力 稲見好枝先生
茨城県常総市公立水海道第三保育所所長。
目次
豪雨多発の日本で子どもを守る
わが国には大小たくさんの河川があり、日本国中網の目のように流れ、河口には大きな町が広がっています。人々は昔から川の水を利用し、水の恵みを生かしてきました。
しかし、一方で、川の氾濫や土砂災害などの災害も起こりやすく、水害対策がさまざまに講じられてきたといえます。日本はその地形により、川の長さは短いが流れが速い、降った雨が一気に流れ出るといった特徴があり、「治水」は重要な公共事業でもありました。
近年、地球温暖化の影響もあり、ゲリラ豪雨や台風などにより日本全国で水害が多発しています。堤防の決壊により町や家々が浸水し、豪雨による土石流なども起こっています。2018年の西日本豪雨では多くの方が亡くなられ、その後の台風や大雨の被害も大きいものがあります。
今回、取材にうかがった茨城県常総市では、2015年9月に水害(関東・東北豪雨)に見舞われました。常総市は鬼怒川と小貝川の間に挟まり発展した町で、町の中心は水海道地区です。川の町、水海道は鬼怒川の堤防決壊により道路は水路に変わり、川から遠いところまで広範囲にわたり浸水しました。わずかな傾斜であっても水は低いほう低いほうへと流れたのです。市役所や保育所なども水につかり復旧まで時間を要しました。
引き渡し直後に堤防決壊
公立水海道第三保育所は水海道地区の町中にあり、鬼怒川からは距離があります。
大雨が続く中、9月10日は通常どおり7時に保育を開始、71人が登所しました。当時主任だった稲見好枝所長は
「大雨特別警報が出たことは、市からの連絡で知りました。9時45分に市からの連絡で一斉降所が決まり、保護者への連絡に追われました」
と語ります。
市外で働く家庭が多く、すべての児童の引き渡しが終わったのは12時30分でした。
「避難所運営に提供するために、粉ミルクなどの物資を準備して市役所へ向かったのが15時前後です」
じつはその間に十数キロ先では鬼怒川の堤防が決壊していました。
想定外の浸水
その日は、避難所の運営で保育所の職員は市役所の本庁舎に泊まりました。翌11日2時ごろに水は本庁舎まで到達、1階は水びたしになりました。
「決壊は十数キロ先ですし、まさかここまで水が来るとは思ってもみませんでしたが、市役所から動けずにいるときに市の地形図のようなものを見る機会があり、わずかな高低差で浸水のリスクがあることを知りました」
水が引き始めて休所中の保育所へ行ってみると、床上30センチほどまで浸水し、園庭のプラスチック製ユニットプールは90度も向きが変わっていました。
園舎と園庭の消毒・乾燥・修理に半年かかり、その間はほかの保育所での合同保育が行われました。
被災体験を踏まえ、保育所では避難カートを増やしました。また、一時避難場所に指定されている場所まで2キロほどと遠いので、近場で避難できる場所を検討中です。
構成/清水洋美
写真提供/常総市水海道第三保育所
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