大豆生田啓友先生✕つるの剛士さん|注目園訪問レポート「鳩の森愛の詩瀬谷保育園」
大豆生田啓友先生と幼稚園教論二種免許を取得したタレントのつるの剛士さんが、注目園を訪問するレポート。今回は地域連携で日々DIYに励む、鳩の森愛の詩瀬谷保育園(神奈川・横浜市)におじゃましました。趣向を凝らした庭園づくりや食育など保育の根幹に触れながら、おふたりは子どもと一緒に裸足になって、園の遊びを大いに堪能しました。
写真中央)タレント・つるの剛士さん
1975年、福岡県生まれ。『ウルトラマンダイナ』で俳優デビュー。音楽でも才能を発揮し人気に。現在、2男3女の父親。2020年4月から保育士資格、幼稚園教論免許取得に向け短大に入学した。CD・歌手デビュー10周年『つるの剛士ベスト』発売中。
写真左)鳩の森愛の詩瀬谷保育園園長・瀬沼幹太先生
5つの保育園とふたつのキッズクラブを運営している社会福祉法人はとの会理事長。2005年開園の鳩の森愛の詩瀬谷保育園は、1985年に園長の瀬沼静子さんが自宅を開放して無認可の保育園としてスタートした鳩の森愛の詩保育園がルーツ。
写真右)玉川大学教授・大豆生田啓友先生
1965年、栃木県生まれ。玉川大学教育学部教授。保育の質の向上、子育て支援などの研究を中心に行う。NHK Eテレ『すくすく子育て』をはじめテレビ出演や講演など幅広く活動。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』(共著・小学館刊)など多数。
目次
保育者と保護者が一緒に作り上げた「地域連携型保育」
たくましく、しなやかな体を作る庭園
鳩の森愛の詩瀬谷保育園は手作り感満載の園です。庭も室内も子どもたちの年齢や趣味に合わせてDIYで日々改良。温かみのある空間が各所に見られます。
園の門をくぐると、最初に目に飛び込んでくるのが機知に富んだ園庭です。庭中心の築山には2mもの高さがある手すりなしの滑り台や、最大斜度40度もある丸太階段を設置。そのまわりには園舎2階に届くほど高いアスレチックタワーや、手作りブランコなどの遊具が配され、子どもたちが生き生きと遊んでいました。
「なんかうらやましくなりました。自分が子どものときにこんなところがあったら、家に帰らなくなるかも(笑)」とつるのさん。大豆生田先生とつるのさんは、子どもと一緒に裸足になって園庭で遊びました。園庭の遊具や保育室の内装は、設計から製作まで1級建築士の指導のもと、職員と保護者が一緒にDIYで仕上げたものです。
一見危険ではないかと思えるような遊具も子どもの能力に合わせて設計され、1級建築士とともに定期的に整備。「安全」「安心」を関係者全員が共有し信頼関係を築くことで、子どもたちの遊びが守られ、今まで維持され続けてきました。
「人との関係性が希薄な時代に、職員や保護者、地域の人たちみんなで話し合いながら、一つひとつゼロから作り上げていくことって、とても希少で大切なこと。この地域連携が子どもの遊びを豊かにし、見守る大人を笑顔にさせ、昔ながらの温かい保育を根づかせているような気がします」(大豆生田先生)
「親御さんも先生たちもみんなが作り手になるから、インテリアや遊具が温かくて、お互いの信頼関係が伝わってきました。この園で育った子どもたちは、大人になったとき、ここがひとつの故郷みたいに感じるようになるんじゃないかな」(つるのさん)
心身ともに健康になる「食」の保育
鳩の森愛の詩瀬谷保育園の保育の柱のひとつに「食」があります。「食べることは生きること」と考え、ここから多くのものを学んでいきます。
食卓を囲んで友達との交流を深め、食材を通して自然の環境問題や日本の文化も知ることができます。この保育理念が詰まった給食を、大豆生田先生とつるのさんも体験しました。
まず給食を見て、おふたりが最初に驚いたのが器です。
「うわっ、器がすべて木製! しかも一つひとつ職人さん手作りって素敵すぎますよ。子どものころから毎日、こういう本物に触れていれば、感性も豊かになりますよね」(つるのさん)
園で使われる木の器は岩手県九戸郡洋野町の工芸品。子どもたちが食べやすいように給食用に開発され、保育園設立時から使われてきました。使い古しても上塗りしたり削って直しながら大切に使い続けているそうです。
園では給食の食材選びにも力を入れています。職員みんなで有機農法の農作業を体験したり、栄養学の講習を受けるなどして食品を学習。栄養士、調理師、保育者、職員が一丸となって「安心」「安全」の給食作りに取り組んでいます。
「普通、給食は調理室の論理で動くケースが多いのですが、これだと当然『保育』は遠ざかってしまいます。でもこの園のように調理をする人や農家、保育者がひとつのチームになって『食』を学ぶことができれば、保育も地域全体で共有しあえます。子どもを中心に置いた地域連携型保育の一例といえるでしょう」(大豆生田先生)
【三者対談】子どもと大人が成長し合う「共育て共育ち」
時代のニーズや子どもの将来を見据えて、制度的にも見直されつつある「保育」。そんな社会を背景に、古き良き習慣と新しい保育をバランスよく取り入れているのが鳩の森愛の詩瀬谷保育園です。実現の鍵は「共育て共育ち」。一体どんな保育なのか、園長の瀬沼先生を交えて語っていただきました。
つるの/園を訪れて感じたのは、ぬくもりです。子どもも保育者も保護者も地域の人も、みんな楽しそうに園にかかわっていて、遊びに終わりがない。成長していく子どもたちを頭に浮かべながら、大人たちが協力しあって遊具や料理を作っていくのって素敵ですよね。こういう保育の基本的なことがすごく大切なんだなって、改めて感じました。
大豆生田/安心・安全が当たり前の今の時代だと、遊具をひとつ手作りするのも容易ではないはず。ここに至るまで、園も大変なご苦労をされてきたのではないでしょうか。保護者の方などに、どう対応されてきたのですか?
瀬沼/おっしゃるとおり、スタート時は簡単ではありませんでした。安全と安心の両方が担保されないと、なかなか保護者の方に一歩を踏み出してもらえず、決裂した時期もありました。そこで「子どもたちのために豊かな環境を作りたい」という思いから、園庭、室内整備に至るまで、リスクマネジメント
についてとことん話し合いました。
話し合いを重ねて一緒に遊具や内装を作っていくうちに、擦り傷や切り傷よりも、「子どもたちの大きな育ち」を信じる親御さんたちが増えていきました。何よりも子どもがたくましく遊ぶ姿が、保護者の方を安心させてくれたような気がします。
つるの/園庭で子どもたちが木登りする様子を見て思ったんですけど、あんな高いところまで登っていったら、普通「ケガをするんじゃないか」って心配しますよね。だけどこの園では親御さんたちも職員の方もみんなで一緒に遊具などを作られているから、お互いに信頼関係が成り立っている。
だから見守られている子どもたちは思う存分遊べて、身体能力もついて大きなケガもない。そんなたくましくなった子どもたちを見て、親御さんも安心できるというわけですね。
瀬沼/私たちは、子どもとともに大人も一緒に育っていく育ち合いを「共育て共育ち」と呼んでいます。最初は自分の子どもが木に登って擦り傷をつけてくると眉間に皺を寄せていた親御さんも、いつしか「一生懸命、木に登った勇者の証しね」っておっしゃっていただけるようになったり。
そういうふうに気づいてくださることがすごくうれしくて、僕らも安心してここで遊ばせることができるんです。
大豆生田/みんなで話し合い、みんなの手で作っていくからこそ、遊具も内装もよく考え練られていて、工夫も多く感じました。保育室のいすや机、書棚も年齢別に高さを変えて作られていたり、ロフトを押し入れのような設計にしたり、古き良き日本の家屋のような内装が印象的でした。
つるの/押し入れ風の狭いロフト、懐かしかったなぁ。自分も子どものころに社宅暮らしで家族が多かったので、押し入れが僕の部屋だったんです。木材を買ってきて棚を作ったり、知恵を振り絞りながらの押し入れ生活(笑)。そのころ感じた楽しさやワクワク感を、ここの遊具やロフトにも感じました。
例えばロフトも滑り台も、わざと難所を設けるなど工夫がたくさんある。ただ高いところに登るだけじゃなくて、ゲームのように登り方にも滑り方にも子どもだけが知り得るルールがあるんです。これって子どもにとって、すごくクリエイティビティーなこと。発想力が鍛えられて、大人になってからも役立つような気がします。
大豆生田/今の社会の中で、つるのさんのように押し入れ暮らしを楽しむ子どもも少ないと思うので、園の中にそのような環境がたくさんあるというのは貴重ですし、大事なことですね。
瀬沼/クリエイティブな環境づくりは、子どもだけでなく職員にも必要です。職員が幸せでないと子どもも伝染しますので、しっかり休めるときに休みながら、みんなで補い合い話し合って作業を行っています。親御さんや地域の方との交流を大切にし連携することで、さらに工夫も深まると思っています。
大豆生田/今、リスクマネジメントを含め、保育全般のことを地域みんなで考えて工夫し生み出していく社会が求められています。子どもたちが地域の真ん中に位置づいて、そこにいろいろな人が集ってきて、みんなが子どもを大事にする社会。子どもも大人もともに成長し生き生きと暮らせるようになれば、保育の未来ももっと明るくなるでしょう。
文/松浦裕子 撮影/茶山 浩
『新 幼児と保育』2023年冬号より
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