排泄サインを受けとめ気持ちよさを伝える【今井和子先生に聞く 乳幼児の生活習慣#3】

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専門家からのアドバイス 0・1・2歳児保育の大切さ 
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「子どもとことば研究会」代表

今井和子

トイレでおしっこができる、という人間の体の仕組みは、当たり前のようでいて、じつは複雑なもの。そのため、排泄の自立に向けてトレーニングが必要です。ただ単におむつがとれればいい、ではなく、
気持ちのよい排泄の仕方を伝えましょう。

(この記事は、『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2018年冬 に掲載されたものを元に再構成しました)

監修

今井和子先生
「子どもとことば研究会」代表。二十数年間公立保育園で保育者として勤務。その後、東京成徳大学教授、立教女学院短期大学教授などを歴任。現役保育者であったころからの経験をもとに、全国の保育研修なども行っている。著書に『0・1・2歳児の担任になったら読む本 育ちの理解と指導計画【改訂版】』『0歳児から5歳児 行動の意味とその対応』(ともに小学館)など。

不快を快に変えてくれるのが排泄の自立です

いま、おむつ外しが家庭では遅くなっています。ひと昔前は1〜2歳だったのが、3歳になってやっと始める家庭が増えているようです。理由として考えられるのは、まず、排泄のしつけが伝承されていないこと。「孤育てママ」が増え、どうしていいのかわからない、というのが正直なところでしょう。

次に、紙おむつが主流になり、排泄の後始末などが楽になったことも考えられます。布おむつだと洗ったり干したりと大変で、早くおむつ外しをしたかったものですが、紙おむつは手間がかからないので、急がなくなったのではないでしょうか。

排泄の自立を考えるには、おむつ交換から考える必要があります。新生児は泣くことで不快感を訴えます。そんなとき、「おむつを替えようね」と、何をするか伝えます。おむつ交換は、1対1で向き合える、大切なコミュニケーションのときであり、愛着関係が育ちます。

終わったら、「さっぱりしたね」「いい気持ちになったね」と声をかけることで、子どもは不快を快に変えてくれる大人を、大切な人と感じとってくれるようになります。

排泄の仕組みを知ってトイレトレーニングに備えましょう

おしっこが出るまで

生命を維持するためには、不要なものを水分と一緒に、体の外に排泄しなければなりません。その排出物のひとつがおしっこです。おしっこは腎臓で作られ、その後いったん膀胱にたくわえられます。そして、膀胱におしっこがたまってくると、人間の体は信号を発してそのことを大脳皮質まで伝えます。この信号によって、おしっこをしたい、と感じることができるのです。

信号を発するようになるためには、生理的な発達や神経系統の成長が欠かせません。大脳皮質で自覚してトイレに行き、排泄をするという行動を習っていくためには、トレーニングが必要なのです。

生まれたばかりの赤ちゃんは、大脳皮質で自覚しなくても、直腸や膀胱に排泄物がたまると反射的に排泄します。昼夜の区別がないため、昼夜関係なく回数も1日15〜20回と多く、おむつがぬれたことを感じて泣きます。

1歳を過ぎると、膀胱で少しおしっこがためられるようになり、大脳でたまったことを感じてから排出します。ただし、まだ子ども自身がその感覚をおしっこと認識するのは難しいうえ、言葉もしゃべれないため、大人に伝えることはできません。

1〜2歳ごろになると、神経系統の発達が進み、膀胱がいっぱいになると大脳が尿意を感じるようになります。排尿と排尿の間隔も長くなり、おしっこの出たことを自覚するようになります。でも、この段階ではまだ自分の意思ですることができないので、おしっこが出てから教えたりします。

そして、2〜3歳にもなると、膀胱でためられるおしっこの量も増え、出る前に伝えられるようになります。短時間ですが、意識的におしっこをがまんしたり、おしっこを出すこともできるようになります。

ただし、排泄は個人差が大きいため、一人ひとりに対応するのが大切です。排泄を意識して、トイレに行きたいと伝え、トイレに行って排泄するという排泄の自立に向けてのトレーニングを始めるには、それぞれの子どもの体の準備が整っているかどうかを知ることが重要です。

まずは子どもの体の発達度合いを知ることが大切

トイレトレーニングを始めるための3か条

  1. 歩行ができること
  2. 言葉を理解できるようになること
  3. おしっこの間隔が1時間半〜2時間あくときがあること

*参考図書/帆足栄一著『やさしいおむつはずれーじっくり見極めパッととる』(赤ちゃんとママ社刊)

トイレトレーニングを始めるには、子どもの体の準備が整ってきたかを知るための、3つの条件があります。

1.歩行ができること

歩けるようになることは、脳の発達がそれまで膀胱におしっこがためると反射的に出していた状態から、膀胱におしっこがたまったことを感じるようになることを意味します。歩きながら「おしっこが出ちゃったー」と、子ども自身が感じ取ることができます。

2.言葉を理解できるようになること

「チー出たら教えてね」「トイレに行ってしてみようか?」などの言葉の理解ができるようになり、身ぶりや手ぶりで意思表示ができるようになると、大人にも伝わります。

3.おしっこの間隔が1時間半〜2時間あくときがあること

おしっこの間隔が2時間近くあくということは、それだけたくさん、膀胱にためられるようになってきたことを意味します。子どもによっておしっこの間隔には個人差がありますが、一定の間隔でおしっこするようになることが大事です。なかには頻尿の子もいるので、おむつ交換のたびにチェックし、その子の間隔をつかむことが大切です。

2歳半くらいになれば、言葉の理解力も育ち、保育園ではまわりの友達の姿などを見て、トイレに行こうとするようになります。保育者はゆったりした気持ちで対応し、子どもが神経質になったり、過敏になったりしないように、トイレを飾りつけるなどして、楽しい雰囲気を作り出します。

重要なのは、家庭と協力して、一緒にトイレトレーニングを始めるということ。「おうちではおしっこの間隔はどうですか?」などと保護者に聞いてみるなどし、保護者にもトイレトレーニングを始めたことを自覚してもらうことが大切です。子育て支援は育児の代行ではないので、保育者と保護者が協力して始めるといいでしょう。

子どもの排泄サインをキャッチして一人ひとりに対応

おむつが汚れていたら清潔なものと交換し、赤ちゃんにその心地よさを覚えさせます。やがて、腰がしっかりしておすわりが上手にできるようになる10か月ごろ、おむつを外してぬれていなければ、おまるにすわるように促します。ただし、嫌がるようだったら無理強いをしてはいけません。お友達がすわっているのを見せたりして慣れさせます。

そうしてすわるのに慣れたら、「さあ、シーシー出るかな?」と声をかけましょう。5分以上はすわらせず、出なかったら「またしようね」と切り上げます。タイミングよく出たら、「いっぱい出てよかったね」「気持ちいいね」と言葉をかけましょう。


1歳半ごろになると、排泄回数が減り、1回の量が多くなってきます。おむつ交換するときは、歩ける子には「おむつ替えるところに行こうね」と、替えることをわからせて連れて行きます。そうすることで、意識がわくようになります。

排泄すると動作や表情で訴えるようにもなります。そんなときは無視せず、「おしっこ出ちゃったのね」「教えてくれたのね」と、大人が受けとめ、声をかけることで、知らせることが重要だと子どもにもわかります。


2歳にもなると、おしっこが出る前に、いろいろなサインを出してきます。腰を振る、体をよじる、モジモジする、服を押さえる、すわり込む、ズボンやパンツを脱ごうとする。このようなサインを見逃さないでおまるやトイレに誘うと、成功率が高いようです。その子によっていろいろなサインがあることを認識して、おしっこの間隔を把握します。

その子の様子、その日の気候や天候などをみて柔軟に対応することが大切です。タイミングとしては、食事やおやつの前、散歩や昼寝の前後など、活動を始める前や活動の区切りに誘ってみましょう。おしっこを出すことを自覚させ、おむつの中ではなく、トイレに行ってするものだということを知らせていく働きかけも大切です。

室内に目隠しした排泄ゾーンを作る

いまは排泄時、プライバシーを守るのが鉄則。おむつ替えゾーンもついたてをたてるなど、まわりから目隠しします。トイレ後はすわってパンツをはけるように低めのベンチを用意してあげましょう。

家庭との連携が重要!ママが抱える排泄の疑問に答えます

0・1・2歳児の子どもを育てるお母さんは、”悩み“や”疑問“をたくさん抱えています。特に排泄に関しては、SOSが多いようです。そんなとき頼りになるのが保育のプロである保育者たち。どうアドバイスしたらいいか、今井和子先生にQ&A方式で回答していただきました。

Q.そろそろおむつ外しを考えていますが、いつごろ始めたらいいかわかりません

A.おしっこサインはひとりずつ違うので、お子さんのサインを見逃さないように

先に話したとおり、歩けるようになり、「トイレに行ってみようか?」などの言葉が理解できることが大前提です。そのうえで、おしっこの間隔が1時間半〜2時間ほどあくようになったら、膀胱にそれだけたくさんおしっこをためられるようになってきたことを意味するので、トレーニングを始めてみましょう。

失敗しても「なにやってるの!」「早くいいなさい」などと、怒ったり叱ったりするのはNG。うまくできたときには、「よくできたね」「すっきりして気持ちいいね」とほめてあげましょう。

Q.おまるを使わず、最初からトイレでさせたほうがいいですか?

A.子どもが怖がらなければ、どちらでも構いません

トイレに子ども用の小さめの便座をセットし、怖がらないで安心してすわっていられるなら、最初からトイレでも大丈夫です。なかには嫌がる子もいるので、そんなときはおまるを用意してあげましょう。おまるで気軽にできるようになったら、トイレに移行するといいですよ。

Q.おしっこを教えるようになったと思ったら、また失敗。うまくいかなくて困ってます

A.決して叱らず、無理強いしないことが大切です

2歳を過ぎると季節や気候、温度差に敏感になります。大人でも寒くなるとトイレが近くなるように、子どもも寒くなってきたことで、失敗するようになることもあるんです。失敗したときに「あらまた失敗したの、ダメね」「だからトイレに行っておけばよかったのに」などと決して叱らないこと。

叱ったりすると、”おしっこしても知らせたくない“という気持ちになってしまいます。季節が原因と考えられる場合は、「寒いからもうそろそろ出るんじゃない?」と、早めに誘ってみましょう。

また、子どもは緊張すると失敗することがよくあります。トイレトレーニングはあせらず、ゆっくり、気長に楽しく、がモットーです。遊んでいるときにトイレに無理に連れて行こうとすると、逃げたりもらしたりと、失敗の原因になります。決して無理強いせず、「ブロックが終わったら行こうね」と、のんびり子どもの様子を見ていくことが大切です。

Q.おしっこはできるのに、排便の自立ができません。どうして! ?

A.決まった時間にトイレに誘い、出なくても習慣づけを

排尿ができても排便ができない、というのはよく聞かれる質問です。排便の自立は3歳ぐらいまでに身につきます。食事のあと、特に朝食後など、決まった時間に出るようになるので、出ても出なくてもトイレへ連れて行き、習慣づけるようにします。

排便はおしっこよりもサインがわかりやすいので、それをしっかりキャッチし、すぐにトイレへ連れて行くようにするといいでしょう。

リラックスしてすることが大事なので、「早くしなさい」などとせかしてはいけません。萎縮して腸の動きが止まってしまいます。ちょっとの間、歌を歌ってあげたり、楽しい話をして緊張を和らげるのもいいでしょう。たまたま出たら、「よかったね、気持ちいいね」「おしりを拭いてあげるからワンワンになってね」と、四つんばいにさせて、女の子は前から後ろへ拭くことを伝えます。

おむつなし育児って知ってますか?

最近よく耳にするようになった、おむつなし育児をご存じですか? 「え、おむつしないの?」と、思わず誤解してしまいそうですが、おむつをまったくしないわけではなく、おむつの中で排泄することを当たり前にしない育児方法です。

膀胱におしっこがたまるなどは関係なく、なるべく早い時期からおむつに頼らず、おむつの外で自然に排泄させる機会をつくろう、という考え方で、赤ちゃんの膀胱がはったり、泣いたりしたら、おまるや洗面器(なんでもOK)をあてがい、そこにおしっこをするようにサポートします。

最初は排泄のタイミングをつかむのが大変ですが、わかってくると、赤ちゃんのほかの欲求もわかるようになり、コミュニケーションをとるのがもっとラクで、楽しくなっていきます。

文/大石裕美 イラスト/奥まほみ 

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