Aちゃんの紙パンツ卒業宣言【井桁容子先生の共育ち支援ルーム】

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非営利団体コドモノミカタ代表理事

井桁容子

Aちゃんがナースリールームを卒園した2年後、お母さんから、うれしいたよりがありました。

イラストAC

井桁容子 (いげた・ようこ)

保育の根っこを考える会主宰。福島県いわき市生まれ。東京家政大学短期大学部保育科を卒業後、同大学ナースリールームに2017年3月まで勤務。おもな著書に『ありのまま子育て─ やわらか母さんでいるために』(赤ちゃんとママ社)、『保育でつむぐ 子どもと親のいい関係』(小学館)など。

無理やりは遠回り

Aちゃん(5歳)のお母さんからメールが届きました。「やっとおむつを卒業できました」というお知らせでした。5歳でおむつを卒業? と不思議に思う方もいらっしゃると思います。

Aちゃんは2歳の後半のころに排尿間隔が長くなってきていて、実は排泄はほぼ自立していました。ある日家庭でおもらしをしてしまったときに、お母さんが感情的に叱ってしまったことでパンツをはくことを極端に嫌がり、トイレにも行こうとしなくなってしまいました。

おむつがはずれるようになる途中でのおもらしは当然よくあることなのですが、その時点で保育者が「おもらしをしても叱らないように」ということを伝え損ねていましたので、保育者側にも配慮不足があったと反省しました。お母さんと「Aちゃんの不安が解消されるまでゆっくりおつき合いして、信頼回復しましょう」という方針を共有しました。

すると、徐々にトイレに行くことを嫌がらなくなり、いい方向に向かい始めました。

しかし、夏休みを利用しておばあちゃんの家に長期滞在をしたときに、おばあちゃんが「しつけが大事。しっかりと叱ってさせないとダメよ!」と、Aちゃんを強引にトイレに行かせることが何回かあったそうです。すると本当は出たくても「出ない!」といい張るようになってしまいました。尿意を我慢して動けなくなっても、「出ない」といい続けているうちに、とうとう膀胱炎になってしまいました。

Aちゃんのお母さんは、「おばあちゃんからしつけが大事といわれたときに、自分の努力が足りないからなのかと受けとめてしまい、おばあちゃんが強引にAちゃんに接していることを止めなかった責任を感じています」と、悲痛な表情でおっしゃりながら、夏休み中の出来事を話してくれました。それ以来、Aちゃんは紙おむつに戻ってしまったのです。

信頼と成長したい期待が自立の儀式に

Aちゃんのおむつが取れない状況は、精神的なもので生理的機能に問題があるわけではないので、本人がその気になればいつでも取れることをお母さんにお伝えしました。そのうえで排泄については焦らずに、今後は本人に任せるということで、その後の対応について姿勢が一致しました。

Aちゃんは3歳になった3月の時点でも、紙パンツのままでした。ナースリールームを卒園して他の保育園に入園して、ほとんどの子どもがパンツで過ごす中、そこでも頑なに紙パンツを履き続けました。お母さんが保育園の先生にこれまでの経緯を伝え、理解してもらえたので、新しい園でも協力態勢がとられました。

そして、もうすぐ年長さんになるという3月末に、自宅でAちゃん自ら、ある「儀式」を始めたということで、お母さんから私にメールが届いたのでした。お母さんによると、

「Aちゃんがおもむろに家中にある紙パンツを集めて寝室の入り口に積み上げ始めたので、何を始めるのか、何もいわずに見ていた。すると、集めた20枚ほどの紙パンツを寝室の床にきれいに並べ、しばらく眺めていた。その後、並べた紙パンツを持てるだけ重ねて抱きかかえて立ち上がり、ベッドの近くにあった家具の裏側に投げ入れ始め、ついに全部の紙パンツを家具の裏側に入れ終えると、ひとりで拍手しながら満足気に笑った」

その日以来、紙パンツは使わなくなり、自分から自然にトイレに行くようになった、とのことでした。

お母さんは、「紙パンツを集めて並べたのは、長い間お世話になった紙パンツにお礼をいうためのお別れの儀式だったのだと思う」とおっしゃって、その喜びをメールで伝えてくれたのです。

Aちゃんのお母さんは、早くよい結果を求めようとして失敗したことに気づき反省した体験から、Aちゃんの自然な成長を徹底して信頼し、その時期が来るまで待つことができ、この感動的な儀式に出会うことができました。

おそらくAちゃんは、年長さんになることへの期待があって、自分からけじめをつけることを決意したのだと思います。

とかく大人は、子どもに早く何でもできるようになることを期待し、その結果に導くことが自分の務めとがんばりがちです。そのようなときに保育者が同じような姿勢でいると、子どもの成長はさらに思いがけない遠回りをしてしまいます。保育者こそが、結果を急ぐことなく、子どもの発達を見通した助言ができる専門家でありたいものです。

『新 幼児と保育』2018年6/7月号より

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