どうする?同僚へのモヤモヤ【保育に取り入れられる臨床心理士のワザ】

特集
発達が気になる子どもへのかかわり方

職場には、対人関係のストレスがつきものです。仕事仲間としてよい関係をキープするために、自分にできることを知っておきましょう。感情や思考をコントロールする基本を身につけることは、子どもとかかわる際にも役立つはずです。

お話

桑野恵介 先生

株式会社スペクトラムライフ代表。臨床心理士、ESDM認定セラピスト。埼玉県入間市児童発達支援センターうぃずの受託事業者。2019年埼玉県立上尾特別支援学校特別非常勤講師、東京大学高度医療人材養成プログラム「職域・地域架橋型・価値に基づく支援者育成」講師。

体が疲れると、思考もネガティブに

他人に対してイラッとしたりモヤモヤしたり……。こうした感情は自然なもので、「ネガティブなことを思ってはいけない」などと理屈でおさえつけることはできません。

大切なのは、感情に巻き込まれないこと。相手を「嫌い」と感じるレベルまでいってしまうと、後戻りが難しくなるからです。軽いモヤモヤのうちに軌道修正できるよう、対処法を知っておきましょう。

小さな「イラッ」が「あの人嫌い」にまで膨らんでいくのは、ネガティブ思考のスパイラルに陥ってしまうからです。それを断ち切るために有効なのが、体へのアプローチ。まずは質のよい睡眠を十分にとることです。

そんな単純なこと? と思うかもしれませんが、体が疲れていると思考もネガティブになりがち。何かを感じたり考えたりする脳も、体の一部だからです。心をよい状態に保つ基本は、体調を整えることなのです。モヤモヤから抜け出し、心が平常に戻ったときに頭に入れておきたいのが、「人とかかわるときの大前提」。「自分の感情の乱れを整える責任は、自分自身にある」ということです。

人とかかわるとき……

平常時

自分を客観視できるので、「全部相手が悪い!」という考えが生まれにくい。

体と心が疲れているとき

自分を客観視できなくなり、その原因が自分の視点の変化にあることにも気づけない。

疲れが招くネガティブ思考のスパイラル

心身が疲れていると自分を客観視できないため、冷静に考え、判断することが難しくなります。そのため、嫌なことがあってイラッとすると、「相手が悪い!」。でも、ただ他人を責めたのでは、自分が嫌な人になってしまいます。そこで、「自分には相手を責める権利がある」と自分を納得させるためにがんばりすぎ、体も心もさらに疲れる……。こんな悪循環に陥ると、相手との関係は悪くなるばかりです。

人とかかわるときの大前提

「あの人にイライラさせられた」などと思うことはありませんか? でも、同じ経験をしても不快に思わない人もいます。つまり感情は他人が引き起こすものではなく、自分の中で生まれるということ。それを整えるのは、自分の役目です。イラッ! のきっかけとなった相手の行動に問題があるなら、注意する必要はあるかもしれません。でも、行動を正すことと自分の感情は別。注意する場合は、冷静さを保ちましょう。

Aさんの問題点と自分の感情を切り離して対処する

自分の感情を整える責任は、自分自身にある。

こんなときどうする?
事例1 同僚の言葉に気分がどんより

対処法1 睡眠をしっかりとる

まずは体を休めること。体のコンディションを整えることは、心の状態を改善することにつながります。ネガティブ思考に偏りすぎないで、まずは平常心を取りもどしましょう。

対処法2 相手とのコミュニケーションを増やす

ふだんは会話があまりない人からポツリと気になることを言われると、「ずっとそう思っていたのか」などとネガティブに受けとめてしまいます。自分から同僚に話しかけ、会話を増やす努力をしましょう。

会話が増えると、「気になること」も比較的軽く受け止められるようになる。

コミュニケーションをとることが目的なので、会話の内容は「今日は寒いですね」などの雑談でOK。「話しかけて返事をもらう」のは、お互いにとってよい体験(成功体験)。会話を増やすほど、相手の存在が「自分にとってよいもの」になっていく。

こんなときどうする?
事例2 仕事ぶりが不安定な同僚にヒヤヒヤ

対処法1 伝達事項はメモで

伝えたことが「わかる」「覚えている」「できる」は、別のこと。「わかっているけれど、覚えていられない」可能性があるので、思い出すきっかけになるメモを渡すようにしてみましょう。

対処法2 日ごろから注意して見守る

相手の気持ちを考えずに言いたいことを話してしまう場合があるので、子どもや保護者と接する場面では注意して見守り、気になる言動は事前に止める努力をしましょう。

こんなときどうする?
事例3 保育観が合わない先輩とギクシャク

対処法1 ほどほどに距離をとる

先輩の保育観が現在では不適切なものであっても、後輩が先輩の価値観を変えるのは難しい。衝突しないようにほどよく距離を取り、虐待とみなされる行為がある場合は管理職に報告します。

対処法2 実際の保育は自分のペースで

強く叱ると子どもが一時的に服従する場合があるため、先輩のほうが、指導力があるように見えることもあるかもしれませんが、どう見えるかは気にせず、本当に子どものためになる保育を淡々と続けましょう。

文/野口久美子
イラスト/河合美波

『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2023春より

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