「業務改善がうまくいきません」【保育マメマメQ&Hints! with 大豆生田啓友先生】
大豆生田 今回の質問は、「園で業務改善を進めています。いろいろ工夫しているのですが、うまくいきません。どうしたらいいのでしょうか?」です。答えはひとつじゃありません。ぼくの考えるいくつかの対応例をあげます。みんなで対話して、考えていきたいですね。
※公式Instagramで今回のテーマの動画(約90秒)が見られます。(←文字をタップorクリックしてください)。右下は、リール動画撮影中の様子(写真左は小学館編集スタッフ)
大豆生田啓友先生
玉川大学教授。保育・子育て支援などが専門。特に保育の質の向上が研究のメインテーマ。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』(ともに共著・小学館)、『子どもが中心の「共主体」の保育へ』(監修・小学館)など多数。最新刊は、『保育の「ヘンな文化」そのままでいいんですか!?』(柴田愛子先生との対談集・小学館)。
保育は、子どもの生活に丸ごとかかわるお仕事。
そして、同僚や保護者との関係も複雑に交ざり合って、
なかなか個人の思ったとおりにはいきません。
「こんな場合、どうしたら?」
そんな現場の保育者が抱える悩みや疑問に対して、
大豆生田啓友先生から、考え方のヒントをいただきました。
これをもとに、仲間とぜひ話し合ってみてください。
Q乃 施設長です。今、園で、業務改善を進めています。休憩時間の作業、サービス残業、持ち帰りの仕事をなくしたくて、いろいろ工夫していますが、うまくいきません。何かいい方法はないですか?
目次
ノンコンタクトタイムで効率的に事務を
マメ先生 保育の現場は、労働基準法違反が多いといわれています。
「時間外業務を当たり前としない」という施設長は、そうやって苦労されているんですよね。本当にお疲れさまです。
さて、特に保育者にとって負担になっているのは、「記録」というデータがあります。3~5歳児クラスになれば、子どもたちを見守りながら事務をしている園もありますが、できるだけ「ノンコンタクトタイム」を確保するほうがいいと思います。
このノンコンタクトタイムを確保することが、「業務改善」のひとつの大きな目標であるともいえるでしょうね。
改善改革は 「業務の削減」から
マメ先生 業務改善は、まず業務を減らして余裕を作らないと、進行がきつくなります。
確認しますが、「業務の削減」はどう進めていますか? 今までしてきた当たり前の仕事や、外注ですむ仕事のあぶり出しとその改善はしていますか?
Q乃 壁面構成は変えました。自然物や季節にあった写真や絵画を飾るなどで、手間をかけない方法にしています。
あと、ダブり感の多い記録の統合も多少進めています。日誌の一部を、保護者に開示する保育ドキュメンテーションに流用するとか。
行事の見直しは、まだまだですが。
マメ先生 つい、運動会や発表会などは「やることが決まっている」と思い込みがちなんですよね。その思い込みが保護者にもあるために、行事は見直しが難しいんです。
園によっては、ひんぱんに行事があって、多くの日が「行事のための準備保育」になっていることがあります。
行事の意義をしっかり見直す
マメ先生 生活の節目として、行事はあっていいと思うんですよ。
ただ、毎回「子どもにとってどんな意味、価値がある?」を検討して、「十分ある」と判断したら、大人の準備が少なくてすむ方法を検討したらどうでしょうか。
特に発表会のように「子どもの姿を見せる」行事は、大人の関与がそれほど必要なくなってから、また、行事で使う素材なども子どもたちが用意できる発達段階になってから、初めて行えばいいのでは?
そうでなければ、子どもが、大人による「見世物」になってしまいかねない。そのことを保護者とも共有したいですね。
外注も視野に入れて
マメ先生 外注ですむ仕事というのは、「保育者でなくてもできる仕事」という意味です。
遊具の作製・メンテナンス、掃除などは一番取りかかりやすいところではないでしょうか? 多少お金はかかりますが、残業代を出すなら同じだと思うんです。
Q乃 掃除は、一部をシルバー人材のサービスにお願いしていますね。
マメ先生 さらには、「外注」といえるかどうかは微妙ですが、事務の時間にピンポイントで保育に入ってもらえるアルバイトを増やしている園もあります。これは自治体に協力を要請することができるかもしれません。
「仕事の効率化」の要はICT(情報通信技術)化
マメ先生 それから業務改善のふたつ目は「効率化」です。
ICT化は進められていますか? 記録類から保護者へのお知らせ配信など、利用方法やアプリケーションは園によって異なるものの、「導入して時短が進んだ」とする園がほとんどです。
Q乃 入れ始めてはいますが、「かえって時間がかかる」という声もあって…。
マメ先生 不慣れな期間に時間をとられたり、初期投資のコストがかかるのはみな同じなんです。でも、操作はたいてい誰でもじきに慣れますし、コストももとが取れるはずです。
むしろ、パソコンなどの数が少なくて、職員間で取り合いになると効率を下げるので、関連する助成金がないかなどを確認してみてください。
環境動線の見直しでできることは?
マメ先生 効率化については、動線の見直しもひとつの手です。
園で行われているよくある例は、園舎で部屋と玄関が少し離れている場合、近くの掃き出し窓や裏口に子どもたちの散歩用の靴を常時用意しておき、そこから出入りできるようにするケース。
または、掃除道具を、衛生面や見栄えに配慮してあちこちに置いておき、必要に応じてササッと対応できるように置いている園もあります。
また、これはICT利用の例でもありますが、「インカム」を使う園が増えてきているんですよ。
業務改善への意思の統一
マメ先生 業務改善の3つ目として確認したいのは、職員全員が「時短を進めよう」という意識を持てているかということ。
事務などは「何時までに終わらそう」という気持ちがあるとないのでは、かなり変わってきます。堅実に業務改革を進めている園では、職員研修で「意思の統一」を図っているところもありますよ。
ただ、「時短を進める」ことが、ストレスになる人もいますよね。
Q乃 そうなんです。「残業代がつかなくてもいいから、ゆっくりあとでやりたい」とか、「残業時間の雑談で親交を深めていたのに…」と感じている人もいて。
マメ先生 そんな気持ちもくみとって、みんなでルールを作れたらいいんですが。時間を決めてゆっくりペースを選べるとか、自由参加の雑談の日をつくるとか。
4つの基本的な心構え
マメ先生 そして改革の基本として、知っておきたいと思うことがいくつかあります。
1 改革には決定打がなく、なかなか効果が出にくいということ
「0歳児から子どもを預かっていた保護者が入れ替わる5年が目安」という人もいます。
2 お金をかける覚悟を持つこと
ICTの導入や、新しい人的配置、場合によっては動線の見直しによるリフォームなどにもコストがかかります。新園を作るために貯蓄をしている園があると聞きますが、今は現状の改善が先のように思います。
3 良好な人間関係があること
どんなことにおいても、人の関係性がよくなければ状況は動きません。
施設長の一番の務めは、人間関係つくりに心を砕くことだという話をあちこちで聞きますね。
4 子どもに不利益が乗じたらアウトということ
これこそ当たり前のことですが、園の主役は子どもたち。ノンコンタクトタイム確保のため、プロが長時間テレビを見せていたりするのは、本末転倒だと考えています。
行き詰まっていても、うまくいっていても、他園の先生との情報交換は大変有効です。ほかの園ではどうしているか、どんどん対話してみてくださいね。
今回のマメマメヒント
★この記事は、小学館『新 幼児と保育』公式Instagram(←こちらをタップorクリック!)でリール動画を配信した内容にweb版として加筆・再構成したものです。また、小学館の雑誌『新 幼児と保育』では、ほかのリール動画で配信した内容に加筆・再構成し掲載していますので、どうぞご覧ください。また、このコーナーへの質問、疑問も募集中です。下から投稿できます。
お話/大豆生田啓友(おおまめうだ ひろとも)先生
玉川大学教授。保育・子育て支援などが専門。特に保育の質の向上が研究のメインテーマ。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』『子どもが対話する保育「サークルタイム」のすすめ』(ともに共著・小学館)、『子どもが中心の「共主体」の保育へ』(監修・小学館)、『保育の「ヘンな文化」そのままでいいんですか!?』(共著・小学館)など多数。
構成・イラスト/おおえだ けいこ
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