保育書は、なぜピンク色の表紙が多いの?【保育マメマメQ&Hints! with 大豆生田啓友先生】

大豆生田 今回の質問は、「保育書の表紙の色」についてです。答えはひとつじゃありません。ぼくの考えるいくつかの対応例をあげます。みんなで対話して、考えていきたいですね。
※公式Instagramで今回のテーマの動画(約1分40秒)が見られます(←文字をタップorクリックしてください)。右下は、リール動画撮影中の様子(写真左は小学館編集スタッフ)
大豆生田啓友先生
玉川大学教授。保育・子育て支援などが専門。特に保育の質の向上が研究のメインテーマ。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』(ともに共著・小学館)、『子どもが中心の「共主体」の保育へ』(監修・小学館)など多数。最新刊は、『愛子先生と大豆生田先生の「保育はやっぱりおもしろい!!」』(柴田愛子先生との対談集・小学館)。

保育は、子どもの生活に丸ごとかかわるお仕事。
そして、同僚や保護者との関係も複雑に交ざり合って、
なかなか個人の思ったとおりにはいきません。
「こんな場合、どうしたら?」
そんな現場の保育者が抱える悩みや疑問に対して、
大豆生田啓友先生から、考え方のヒントをいただきました。
これをもとに、仲間とぜひ話し合ってみてください。

Q子 本屋さんに行くと、保育関係のエリアが「ピンク色を放っている」のが、ずっと気になっています。なぜ「保育=ピンク」なのでしょうか? 幼い女の子には、ピンクが好きな子が多いとは思います。でも、保育の専門書を読むのは大人です。正直言って、公衆の面前で、そういう幼いイメージのあるピンク色の本を読むのは恥ずかしいです。おかしいでしょうか?

マメ先生 確かにそれだと、保育者まで精神的に幼いと見られているように感じてしまいますね。逆にその感覚は、保育という仕事を専門的な営みとして大切に考えているからこそ、生まれるのだと思います。ぼくも、それに共感します。
目次
家庭的な女性らしさのシンボルカラーとして
マメ先生 実際、幼い女の子がピンクを好みやすいという調査はいろいろ出ています。でも、女の子のピンク好きは「生まれつきではない」とする説が今は有力なんですよ。
つまり、大人が女の子にピンク色の服などを与えることで、後天的にピンク好きになっていくと考えられているんですね。
Q子 なぜ「女の子にはピンク」なのでしょうか。
マメ先生 『女の子は本当にピンクが好きなのか 』(堀越英美/著 河出文庫)という本があります。この本にも書かれていましたが、 1950年代のアメリカで、著名人や雑誌によって女性がピンクの服などを身につけるピンクブームが作られたんですね。
それと同時に、ピンク色が「女性らしさの象徴」として位置づけられたようです。
つまりここで問題なのは、ピンクという色そのものではないんです。ピンク色が「幼さや母性、やさしさ、献身的に奉仕することを受け入れるシンボルカラー」になり、実際に女性がそのように扱われてきたという点なんですよ。

1953年、大統領の就任式で、自分が好きだった淡いピンクのドレスを着用した。それがきっかけで、彼女はピンク色と「専業主婦のステータス」とともに、当時のアメリカ人女性の憧れの的となり、その価値観が日本にも流入した。
専門性より、「かわいい、やさしい」イメージが重要?
マメ先生 そもそも保育という仕事は長い間、「家庭で母親が担う子育ての延長」のように見られてきた歴史があります。
そのため、保育には専門的な知識や判断を必要とする仕事にもかかわらず、「かわいらしさ」や「やさしさ」「献身性」といったイメージで語られやすくなっていました。そしてそのシンボルカラーとして、保育でもピンク色が使われてきたと考えられます。
保育者向けの書籍のデザインに、ウサギやクマなどの「幼いアイコン的イラスト」が多用されるのも、同じ文脈の中にあるように見えます。そこでは本来あるはずの専門性の議論が、ほとんど見えなくなっています。
保育は「低賃金」の母親代行業ではない
Q子 ということは、「保育者は、かわいく、やさしく、献身的であるべきだ」という意図で、保育の本にはピンク色やかわいらしいアイコンが使われているのでしょうか?
マメ先生 今はけっしてそうではないと思いますよ。おそらく、習慣としてその方針を継続しているのではないでしょうか。
ただ、結果的に、女性はそういうものが好きだというイメージの強化になっていく可能性は否定できない気がします。
そして、さらに現実的に問題なのは、「保育は、母親が無償でやっている子守を、低賃金で代行する仕事」という古い考え方まで、無意識のうちに引きずらせてしまうリスクがあるということです。
Q子 え? そんな経済的な損失まで起こる可能性があるなら、私はとても受け入れられないんですが。

エプロンの着用にも同様のリスクが?
マメ先生 実はエプロンの使用も、「それと同じ価値観上にある」と考える専門家がいます。エプロン=お母さんという固定観念がかつて作られ、それが残っているととらえるのですね。
どんなに「それとは無関係。日本の保育業界では、エプロンは制服として定着している」という人がいても、エプロンは本質的に「作業着」です。
保育を「教育的スキルを持つ専門職」だと位置づけて、それにふさわしい社会的地位、給与を保障させるには、それに見合った衣服のほうが、社会の承認は得やすいとぼくも思います。
エプロンを使用する確固たる理由──たとえば、衣服に汚れがつく可能性が高い場面とか──がある場合は別としても、保育者のシンボルとしてのエプロン着用には慎重であるほうがいいと考える人は増えてきていると思いますよ。
男性職員を増やすためにも
Q子 そういえば最近、建築作業員の服って、オシャレで機能性の高い「スーツ型、スポーツウエア型作業着」がはやり出していると聞きました。以前の作業着にあった、「汚い・きつい」というイメージを拭い去ることが主な目的のようです。
建築現場への女性の参入が増えているそうですが、そういうかっこいいユニホームへの憧れも、ちょっぴりあるんじゃないでしょうか。
マメ先生 なるほど。
保育の場合は反対に、保育に興味があっても「エプロン」の持つイメージを受け入れられない男性がいるかもしれないですね。だとしたら、男性の保育者を増やすためにも、見直したいですね。

ファッション性、伸縮性、撥水性、速乾性、耐久性が高く、丸洗いが可能であることを売りにしている。
出版業界の事情はあるかもしれないけれど
マメ先生 「ピンク色の本」の話に戻りますが、もちろん、出版や書店の側にも事情はあるでしょう。本屋さんでは、ジャンルごとに雰囲気を揃えることで、読者が手に取りやすくするという工夫が必要なのかもしれません。
それでも、保育はほかの専門職と同様に、優れた専門職です。子どもの発達、社会、文化、環境などを総合的に考えながら、その場その場で判断を行う高度な仕事なんです。
だからこそ、保育者向けの媒体も、ピンク色や赤ちゃん用の絵柄を当然のように使うのではなく、成熟した専門職としての姿をどう見せていくのかを、これから意識的に考えていってほしいですね。
Q子 私たち自身も、「ピンク色は当たり前」と思うことが、自分たちの首を絞めかねないことにもっと敏感でなくてはと思います。
今回のマメマメヒント

★この記事は、小学館『新 幼児と保育』公式Instagram(←こちらをタップorクリック!)でリール動画を配信した内容にweb版として加筆・再構成したものです。また、小学館の雑誌『新 幼児と保育』では、ほかのリール動画で配信した内容に加筆・再構成し掲載していますので、どうぞご覧ください。また、このコーナーへの質問、疑問も募集中です。下から投稿できます。
お話/大豆生田啓友(おおまめうだ ひろとも)先生
玉川大学教授。保育・子育て支援などが専門。特に保育の質の向上が研究のメインテーマ。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』『子どもが対話する保育「サークルタイム」のすすめ』(ともに共著・小学館)、『子どもが中心の「共主体」の保育へ』(監修・小学館)、『保育の「ヘンな文化」そのままでいいんですか!?』『愛子先生と大豆生田先生の「保育はやっぱりおもしろい!!」』(以上共著・小学館)など多数。
構成・イラスト/おおえだ けいこ
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