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長距離を旅するトンボの話~五感で楽しむ8月【ささき隊長と 身近な自然でとことん遊ぼう!#32】

連載
ささき隊長と 身近な自然でとことん遊ぼう!

プロ・ナチュラリスト

佐々木洋

プロ・ナチュラリストのささき隊長と一緒に、「園庭いきものマップ」を作りながら、季節の自然を観察しましょう。見つけた生き物や草花を記録していくと、園庭(公園)はやがて“生きた図鑑”に。そして、その発見は、触れてみる、比べてみる、まねしてみるなど、さまざまな自然遊びへと広がっていきます。

8月のお盆のころ、空中をふわふわ飛び回るオレンジ色のトンボに気づいたことはありませんか? じつはあのトンボ、赤トンボではないんです。

ささき隊長/佐々木 洋(プロ・ナチュラリスト)

写真/photoAC

ふわふわ飛ぶトンボのひみつ 

ささき隊長 こんにちは、ささき隊長です!

8月も第2週に入るころ、園庭やプールの上をふわふわと飛び回るトンボの群れを見かけたことはありませんか?

4〜5匹から多いときは20匹ほどの集団で、日がな一日ずっと飛んでいるトンボです。

オレンジっぽい色をしているので「あ、赤トンボだ!」と思う方が多いんですが——じつはこれ、赤トンボではないんです。

「ウスバキトンボ」という、まったく別の種類のトンボなんですよ。

指を立てても止まってくれません!

子どもたちはトンボを見るとすかさず人さし指を立てますよね。

トンボが指に止まってくれるのを期待して。

でも、ウスバキトンボはまず止まらないんです。

クラス全員が10分間試みても、たぶんだれの指にも止まらない。

なぜかというと、このトンボ、お天気がいい日は夜暗くなるまでほとんど飛び続けているからです。

夜になれば木の枝などに止まって休みますが、昼間はとにかくずっと飛んでいる。だから指に止まるヒマがないんですよ(笑)。

逆に言うと、これがウスバキトンボかどうかを確かめる方法にもなります。

クラスみんなで指を立てて、10分間だれの指にも止まらなかったら——それはウスバキトンボです。

もし止まったら、それはきっと赤トンボ(アカネ類)です。

渡りトンボ——はるか東南アジアからやってくる

なぜこんなに飛び続けられるのか。

それには理由があります。

ウスバキトンボは「渡りトンボ」なんです。

もともとは東南アジアで生まれたトンボが、世代をくり返しながら日本へ向かって北上してくるんですよ。

東南アジアで生まれた世代が少し北へ、その子どもの世代がさらに北へ——と何世代もかけてリレーしながら、やがて日本まで到達するんです。

東京にはちょうどお盆のころにやってきて、最終的には北海道あたりまで北上していきます。

捕まえてみるとわかるのですが、体の大きさの割に翅(はね)の幅がとても広い。

長距離を長時間飛ぶのに適した、まさに渡り専用の体を持っているんですね。

写真/photoAC

ここからが、さらに驚きの話です。

ウスバキトンボは東京でも卵を産みます。

でも、水温が5度を下回ると死んでしまうため、冬を越せずに全滅してしまうんです。

来年また東京に現れるウスバキトンボは、越冬した個体ではなく、翌年また東南アジアから旅をしてきた新しい世代なんです。

つまり、東南アジアに本拠地があって、そこから毎年特別な使命を持った集団だけが日本へ旅立ってくる——。

自分たちは必ず全滅するとわかっていながら、それでも種全体のために北へ向かってくるわけです。

長い長い時間をかけた、トンボたちの世界戦略。

園庭のプールの上をふわふわ飛んでいるあの子たちが、そんな壮大な旅の途中にいると思うと、なんだか見え方が変わりませんか?

ウスバキトンボを見つけたら、子どもたちと、そんな「いのちをつなぐ」リレーの話をするのも、いいですね。渡りトンボは、越冬するのか、しないのか? みんな、え?っと(越冬)驚くはずです(笑)。

ささき隊長の 質問ドンとコイ!

Q ウスバキトンボには「台風トンボ」というあだ名があると聞きました。なぜですか?
A よくご存じですね! そうなんです、ウスバキトンボには「台風トンボ」というあだ名があります。

このトンボが南のほうから気流に乗って飛んでくることは前にお話ししたとおりですが、台風もまた南から気流に乗ってやってきますよね。

だから、ウスバキトンボが急にたくさん現れたり、いつもより早く来たりすると、台風が接近しているサインだ——と昔の人は言ったそうです。

これ、あながち根拠のない話でもなくて、実際に台風の接近と重なることがあるんですよ。

またもうひとつ、「精霊トンボ(ショウリョウトンボ)」という呼び名も各地にあります。

東京にやってくるのがちょうどお盆のころであることから、ご先祖さまがこのトンボに姿を変えて、あるいは背中に乗って帰ってくると昔から言い伝えられてきたんです。

仏教的な深い言い伝えですよね。

学名にも「パンタラ」という言葉が入っていて、これは「大層哀れなもの」という意味だとも言われています。

どんどん世界中に広がっていくけれど、行く先々で全滅してしまう——そんな運命を表しているのかもしれません。

渡りトンボ、台風トンボ、精霊トンボ。

いろんな顔を持つトンボです。

文/神﨑典子 写真/photoAC

 

佐々木 洋ささき隊長)

ささき ひろし 1961年、東京都出身。プロ・ナチュラリスト。(財)日本自然保護協会の自然観察指導員、東京都鳥獣保護員などを経て、プロの自然案内人として自然解説活動を展開。子どもたちへの自然観察指導など、自然のおもしろさや大切さを案内している。『どうぶつのないしょ話』『生きものハイウェイ』(ともに雷鳥社)、『新 都市動物たちの事件簿』(時事通信社)など著書多数。

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