0歳児クラスを訪れて~遊びと環境について考える~【保育を見ること、語り合うこと #1】

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保育を見ること、語り合うこと
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ノートルダム清心女子大学准教授

伊藤美保子

ノートルダム清心女子大学教授

西隆太朗

0歳児クラスを訪れた、ある日のことです。クラスには落ち着いた雰囲気が漂い、子どもたちは室内の環境を生かして自由に遊んでいるところでした。その様子から、0歳児クラスの遊びと環境について考えます。

お話を伺ったのは…

西 隆太朗 先生

ノートルダム清心女子大学教授。保育における関係性の意義について、子どもたちとかかわりながら、保育学的・臨床心理学的研究を進めている。著書『子どもと出会う保育学――思想と実践の融合をめざして』(ミネルヴァ書房)ほか。

伊藤美保子 先生

ノートルダム清心女子大学准教授。保育士を長年務め、子どもたちの姿に惹きつけられて、保育の観察研究を続けている。共著『写真で描く乳児保育の実践――子どもの世界を見つめて』(ミネルヴァ書房)ほか。

子どもの思いをくんで

場面1 新しい遊具

A先生が午前睡から目覚めた子を、抱っこで連れてきました。子どもたちはB先生に見守られながら遊んでいるところです。

今日は部屋に新しい遊具が置かれています。

このごろ、自由に歩き回れるようになった子どもたちが保育室のゴミ箱に興味をもって、スイングするフタを触ったり、物を入れたりすることがあったので、それなら、と子どもたちの興味に沿った遊具を先生が作られたそうです。

保育を見て語り合う

伊藤 目覚めた子をA先生が優しく抱いている様子が、写真からも伝わってくると思います。B先生が子どもたちの興味・関心にこまやかに応答している1雰囲気も、感じてもらえるのではないでしょうか。子どもたちのことを本当に思っている保育者の姿は、とても美しいと思います。

西 0歳児の子どもたちは、触れても柔らかく、繊細で、まだ小さいけれど人としての重みがあります。そんな子どもたちにふさわしい接し方をされているんですね。
子どもたちがゴミ箱などに触っていると、大人にはつい禁止したくなる気持ちも起こってきそうですが…。

伊藤 子どもたちは、大人が使っている本物で遊ぶという楽しさもあるのでしょうが、ゴミ箱そのものというよりも、フタが回る様子にひ惹きつけられてもいるのだとも思います。先生たちはそこに表れた子どもたちの思いをくんで、環境を工夫していますね。子どもたちから生まれた興味・関心を、よりよい形で生かしていくことを考えられたのだと思います。写真を見ると、さっそくこの遊具で遊んでいる子がいます。

西 ゴミ箱にヒントを得たわけですが、きれいにデザインされていますね。この遊具を使って、子どもたちはどんなふうに遊ぶでしょうか。

遊びの広がり

場面2 遊具を使って

この遊具に興味をもって、Cくんがやってきました。ゴムカバーのところから手を入れて、中がどうなっているか試しています。

この下には料理用のボウルがはめ込まれていて、入れたものをそのまま取り出すことができます。

B先生がスイングするフタのほうにも誘いかけると、Cくんはそこからおもちゃを入れて落とします。

おもちゃが下の出口から転がり出るのに気づいて、確かめているところです。

そうして遊ぶ様子に、ほかの子たちも惹きつけられて、子どもたち同士の興味がつながっていきます。3人の子どもたちがいろんなものを入れて遊んでいます。

Dくんが遊んでいる様子に、Eくんも振り返っています。

保育を見て語り合う

伊藤 0歳児クラスの子どもたちですが、幼くても、自分自身でいろいろな遊び方を試しながら、ものの仕組みを知ろうとしたり、理解していったりしていることがわかります。

西 誰かが遊んでいて、そこに楽しさの雰囲気が広がっていれば、0歳児の子どもたちも関心をもって近づいてきます。遊びに惹かれて振り返ったEくんは、このあと自分が持っていた筒をこの遊具の中に入れていました。いろんな試し方ができるのも、この遊具の器の大きさですね。
子どもたちが集まってそれぞれに遊べるのもいいですね。0歳児は「協同遊び」をするわけではありませんが、友達同士一緒にすることを楽しみ、親しい人間関係を築いています。

伊藤 本当に子どもたちは、ほかの友達のことも早くからよく感じとっているし、気づいているものですね。Eくんが遊んでいる木製トンネルは、くぐり抜けて遊ぶことも、隙間から顔を覗かせて「いないいないばあ」もできるし、つかまり立ちの助けにもなります。上面にはおもちゃが取りつけられ、歩き始めたころの子どもたちにとってはちょうどいい高さで遊びが展開できるようになっています。今回の遊具ばかりでなく、0歳児クラスではさまざまに遊び環境の工夫がなされています。

自由な遊び

場面3 同じ室内での多様な遊び

先に紹介した遊具だけでなく、室内にはさまざまな環境が用意され子どもたちの自由な遊びが広がっていました。運動遊びができる環境も用意されていました。ウレタンブロックやマット、中央にある大きな手作り積み木を組み合わせたものですB先生がボールを転がしたり、一緒に歩いたりして誘いかける中で、子どもたちは全身を使ってはったり乗り越えたり、歩いたり、生き生きと遊んでいました。

A先生が、Fちゃんの遊びを優しく見守っています。Fちゃんは鞄を提げて、車のおもちゃも持ち、お出かけするようです。

数歩だけ歩くと、鞄の中のガラガラを取り出して遊び始めました。

保育を見て語り合う

伊藤 運動遊びの環境を用意することによって、子どもたちは腕の力も腹筋や背筋も、膝や足首、指先まで使って、全身で遊んでいることがよくわかります。あらゆる体の部位を使って遊ぶ中で、発達もまた促されていきます。保育者はその様子をよく見て、安全にも配慮することが必要ですが、子どもたちは自分の発達に合った形で、こうした環境を生かしていきます。巧技台には木製のものもありますが、このクラスでの手作りの環境は、柔らかさもあり、子どもたちの状況に即して調節し組み替えていくことができます。
子どもたちはもう少し大きくなると、保育者のもとから「行っては帰る」遊びをくり返して楽しむようになります。ここでFちゃんも、0歳児なりにお出かけのイメージをもって歩き出したのですが、そうして「行った」ものの、帰っては来ずに遊び始めました。

西 まだ生まれて1年ほどのFちゃんですが、鞄は腕にかけるもの、出かけるときに持っていくものとわかっているんですね。そして保育者のもとから出かけることができるようになりました。
「行っては帰る」――1歳児クラスなどでは本当に盛んになりますが、考えてみると、信頼する人から離れていたとしても、見守られている感覚をもちながら何かに取り組むということは、生涯続いていくことかもしれません。
保育室の中では、ひとときの遊びの時間の中にも、人間の成長にとって大切なことが起こっています。0歳児の遊びの世界の多様さに、こまやかに気づいていきたいですね。

撮影/伊藤美保子
協力/社会福祉法人倉敷福祉事業会 昭和保育園(岡山・倉敷市)

『新 幼児と保育』2021年4/5月号より

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