イメージを形にすること ~子ども同士のかかわりの中で~【保育を見ること、語り合うこと】

連載
保育を見ること、語り合うこと

ノートルダム清心女子大学准教授

伊藤美保子

ノートルダム清心女子大学教授

西隆太朗

ブロックや板を組み合わせて、室内に大きな家を作り上げていく――子どもたちが大きくなるとともに、そんな構築の遊びも広がっていきます。3·4·5歳児の異年齢クラスで、子どもたちがイメージをどんなふうに形にしていくのか、写真を通して見てみましょう。

お話を伺ったのは…

西 隆太朗 先生

ノートルダム清心女子大学教授保育における関係性の意義について、子どもたちとかかわりながら、保育学的・臨床心理学的研究を進めている。著書『子どもと出会う保育学――思想と実践の融合をめざして』(ミネルヴァ書房)ほか。

伊藤美保子 先生

ノートルダム清心女子大学准教授保育士を長年務め、子どもたちの姿に惹きつけられて、保育の観察研究を続けている。共著『写真で描く乳児保育の実践――子どもの世界を見つめて』(ミネルヴァ書房)ほか。

場面1 ビー玉転がし

子どもたちが長いレールをつなぎ、輝くビー玉やどんぐりを転がして遊んでいます(写真)。

あちらからもこちらからもレールをくっつけて、鉢合わせするような形を工夫しています(写真)。大きなウレタンブロックやレールを使って組み立てるのは、5歳児が中心ですが、ビー玉を転がすのは3・4歳児も含めて、どの子も楽しむことができます。かわるがわる、何度もくり返しては楽しんでいました。先生も一緒にいて遊びを見守っています(写真)。

これよりしばらく前のことですが、3つある異年齢クラスの5歳児が集まって、ホールをいっぱいに使ってビー玉転がしの遊びをしていたそうです(写真)。そのときの楽しさは、その後も各クラスに広がっています。

伊藤 転がして落とすって、子どもたちをとても惹きつける遊びですね。うまく転がるように、角度を変えてみたり、落とす場所を考えたり、子どもたちはいろんな工夫をしていました。ずいぶん複雑なコースになっていましたが、複雑になればなるほど、みんなで協力して考えることも増えてきます。

西 転がるのも落ちるのも、重力という自然の働きがあってのことです。子どもたちはそんな自然の流れを取り入れて、楽しい遊びの中に生かしていくのが上手ですね。

伊藤 この園では、3歳以上児は異年齢保育を行っています。日ごろからクラスでは3・4・5歳児が一緒に遊び、生活していますが、たとえば写真⑤のように、クラスを超えた年齢別の活動もよく行っています。5歳児が集まればそれだけ大がかりでダイナミックな遊び方もできるし、各クラスではその遊びに触発されつつ、3・4歳児も自分たちに合った遊び方を見つけていきます。遊びのおもしろさを多様な子どもたちが共有できるのが、異年齢クラスのよさですね。

西 大きい子たちも、自分たちだけで遊ぶだけでなく、みんなに来てもらいたいんでしょうね。3・4歳の子も、自分なりのやり方で参加しています。

伊藤 ビー玉を転がすのも、コースを作るのも、どうしたらいいか子どもたちが自分自身で考えて、チャレンジしています。この遊びひとつをとっても、さまざまな体験が含まれていて、そこから子どもたちは自分自身を伸ばしていっているわけです。保育者が計画を立てるときにも、「育ってほしい10の姿が先にあってそれに沿った遊びを考える」ということではないように思います。活動そのものの中に、10を超えて、それ以上のものが含まれています。

西 同じ活動でも、遊び方や、自分なりのチャレンジは、それぞれの子どもが新しく作り出しているものですね。遊びの中の一つひとつの場面から、子どもたちの個性的な成長の姿やその豊かさを発見し、学んでいきたいと思います。

場面2 家を建てる

5歳児のAくんとBくんが、ブロックや板を組み合わせて大きなおうちを作っています(写真)。担任の先生によると、最初のころは倒れやすかったのですが、何度も相談しながら作っていくうち、こんなにしっかりしたものになったそうです。

私(伊藤)が「いいおうちができたね」と声をかけると、Aくんは「頑丈な家だけど、壊れやすいところもあるよ。たとえばここ」と言って、支柱になっていた車をさっと引いて見せると、動物や虫が集まったフロアが崩れ始めました、(写真)。

そんなことを落ち着いて説明した後、すぐに修理して、Bくんと相談しながら家作りを続けます(写真)。3歳児のCくんも、このおうちに興味を持っているようです(写真)。

一緒に構造から作り上げるというよりは、金槌でトントンたたいてみたり、カブトムシを好きなところに置いてみたり、自分なりに参加しています(写真)。こんなふうに3・4歳児が加わるのを5歳児たちも受け入れて、一緒に遊んでいました。

その後、私はほかのクラスも回っていたのですが、あの家がどうなったかまた見に行きたくて戻りかけると、ちょうどAくんと廊下で出会いました。担任の先生が、「Aくんが伊藤先生に見てもらいたいと言って、探していたんです」と教えてくれます。クラスに戻ると家は一度崩れた後で、またみんなで相談して作り直しているところでした(写真)。

Aくんは、「こんなに作ったけど、給食のときには壊すんだよ」とのこと。私が「でも、明日になったらまた作れるね」と言うと、「そうだね!」と言っていました。

伊藤 Aくんたちがこの家を作る過程を私にも分かち合ってくれたのは、うれしい体験でした。ちょっと崩してもまた修理できるし、倒れてしまっても、またいつでも作れるんだという思いもあって、頼もしい5歳児たちだなと思えるし、やっぱり子どもって素晴らしいなと思います。

私が保育士だったころ、子どもたちがどろだんごを築山から転がして遊んだのを思い出します。転がるとき何かに当たったら壊れてしまうと思ったのですが、子どもたちは「いいんだよ、また作るから」と言ってくれました。

西 自分の思いを実現できた体験の積み重ねがあるから、自信と安定感が生まれてくるんでしょうね。だからこそ3・4歳児を不安なく迎え入れて、家作りを一緒になって楽しむことができます。

伊藤 車を柱にするなんて、そんな崩れやすい部分もあえて入れているのが印象的でした。人間って、そんなところも必要ですよね。どこまでも頑丈で崩れないというだけでなく、ちょっと緩んだところや「あそび」もないと魅力的とは言えないし……。

西 心が耕されているって、そういうことかもしれませんね。大きくて強いことだけを追い求める素朴で一面的な価値観とは違って、矛盾や不安定さもすべて含み込んで、自分らしい魅力的な世界を実現していける。この家にはいろんな生きものが共存していますが、異年齢の子どもたちが集まってそれぞれの味を加えている状況もあり、多様性が生かされたひとつの生態系のようです。

自分自身の思いがあって、自分の中から生まれたイメージをもっている子の遊びは、ほかの子にも伝わるんでしょうね。そういう子の遊びを邪魔するようなことはほかの子もしないし、むしろそういう思いのこもった遊びにこそ惹きつけられて、みんなが集まってくるように思います。

壊れても作り直せるというのは、そういう力がついてきたからということもありますが、自分自身の中にイメージがあるからこそ、外的な形が崩れたとしても、心の中では崩れ去ったりはしないと思えるし、安定感が出てくるのでしょう。

今日子どもたちは、自分が本当に作りたいと思えるものを作ることができたのではないかと思います。

伊藤 子どもたちは自分たちで自由に考えることができていましたが、その過程は保育者によっても支えられています。子どもがどうしたいと思っているのか、どんなふうにすればそれがかなえられるのか……。Aくんと廊下で出会ったときも先生が一緒に話してくれました。いつもかたわらで一緒に考え、共感する人がいることで、子どもたちも本当に自分らしく生き生きと伸びていけるのだと思います。


撮影/伊藤美保子(写真⑤は連島東保育園提供)
協力/社会福祉法人倉敷福祉事業会 連島東保育園(岡山・倉敷市)

『新 幼児と保育』2022年10/11月号より

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