見るものすべてを遊びに変えて~0・1歳児クラスの環境・関係性~【保育を見ること、語り合うこと #4】

連載
保育を見ること、語り合うこと

ノートルダム清心女子大学准教授

伊藤美保子

ノートルダム清心女子大学教授

西隆太朗

ある晴れた日のことです。保育室のテラスを出たところの園庭は、0・1歳児がともに遊ぶ空間となっていました。歩き始め、走ることもできるようになった子どもたちは、見るものすべてにチャレンジし、自分の世界をさまざまに広げています。

お話を伺ったのは…

西 隆太朗 先生

ノートルダム清心女子大学教授。保育における関係性の意義について、子どもたちとかかわりながら、保育学的・臨床心理学的研究を進めている。著書『子どもと出会う保育学――思想と実践の融合をめざして』(ミネルヴァ書房)ほか。

伊藤美保子 先生

ノートルダム清心女子大学准教授。保育士を長年務め、子どもたちの姿に惹きつけられて、保育の観察研究を続けている。共著『写真で描く乳児保育の実践――子どもの世界を見つめて』(ミネルヴァ書房)ほか。

晴れた日の園庭で

場面1 園庭という空間

広い園庭では大きな子どもたちが元気に走り回って遊んでいます園舎に近いあたりは0・1歳児が遊ぶ場となっています。

柵もなく、つながっている空間なので年齢の違う子も自然な姿で親しんでいます。赤い帽子の1歳児クラスの子は、5歳児クラスの子に甘えて抱きついていて、大きな子たちもうれしそうです。

先生たちが手作りで用意した遊具が置かれています。Aくん(2歳6か月)は車に乗って、テントウムシの門へと楽しげに向かっていきました。

Bちゃん(1歳8か月)はダンボールの押し車を見つけると、さっそく全身を使って押していきます。そうして向かう先は、やっぱりやさしい先生のいるところです。

保育を見て語り合う

西 子どもたちが、本当に自由に楽しく遊んでいるのが印象的でしたね。この園では年齢別のクラス編制をとっていますが、園庭では自然な形での交流が生まれています。
園長先生は、「境界をつくらないようにしている」とおっしゃっていましたが、それが自然なつながりを可能にしているようです。小さい子は大きい子が遊ぶところを普段から見て親しんでいるので、自分の遊びの中にもどこかで影響を取り入れていきます。また園庭を使う際にも、いまは一緒に遊べるなとかいまは安全上こっちで遊んだほうがいいなとか、自分の心で考えて動くことができています。

伊藤 どういうクラス編制でも園庭は異年齢をはじめ、自由なかかわりが広がる空間ですね。
先生たちの手作り遊具も工夫されています。テントウムシの門もダンボールでできた軽くて安全なものですが、しっかり作られていて簡単に倒れないようになっていました。

見るものすべてを遊びに変えて

場面2 園庭で・クラスで

よく晴れた日に、また園を訪れました。今日も園庭で、前述のBちゃんは次々と遊びを見つけていますドアが並んだ遊具を見つけると、上手に身をかがめて、どんどんくぐり抜けていきました。

牛乳輸送缶のような箱を見つけると、全身を使って懸命に持ち上げています。

自分の体の半分近くあるような大きな箱ですが、どうしてもふたついっぺんに持ちたいようで、落としてもまた拾い上げて運んでいました。

そろそろクラスに戻る時間です1歳児のクラスでは、Cちゃんがハンカチをたくさん集めて、何枚も何枚も、きれいに重ねていました。

0歳児のクラスでは、Dくんが揺れる風船と戯れているところでしたが、何度もしているうちに両手で上手にキャッチできました。

同じクラスで、Bちゃんは手袋人形を見つけて遊び始め、先生と一緒に人形同士触れ合って、とてもうれしそうにしていました。

保育を見て語り合う

伊藤 子どもたちが自分らしく遊べているときって、本当に生き生きとした表情だし、いつも見とれてしまいます。0・1歳児の時期、ひとつの遊びを長時間やり続けるというのとは違って、関心はさまざまに動いていきます。そんな中でBちゃんはいつでも目に入ったものから楽しみを見いだし、自分から遊びをつくり出しているなあと思いました。いくつもの扉を通り抜けたあとの表情大きな箱を思ったとおりふたつも持ち運べたときの表情は、とても充実しています。

西 このころの子どもたちは、見るものすべてを遊びに変えていく力を持っているんですね。何かに注意が向かうと、さっそくそれを自分で手にとったり、押したり引いたり、それから乗ったりくぐったりと、自分の全身を使ってその「もの」とかかわっていきます。
私たちもいくつもの扉を通り抜けて大人になってきたわけですが、Bちゃんの充実した笑顔も、そんな未来につながるものかもしれません。保育の中で生まれるこんな充実した瞬間を、津守眞先生は「発達の体験」と呼んで大切にしていました(津守真『子ども学のはじまり』フレーベル館)。

伊藤 興味は移り変わっていくものと言いましたが、時間を計れば十数分のことかもしれないけれども、その間に子どもたちは一心に遊んでいるなあとも思います。Cちゃんはどこまでもハンカチを重ねていました。それもとても丁寧にできていて、指先の操作をはじめ、いま自分が持っている力のすべてを打ち込んでしている姿が印象に残りました。
風船で遊ぶのも子どもたちにとって楽しい体験だと思います。揺れる風船を目で追ったり、触れてみるとふわっと跳ねて、また戻ってきたり……。ほかの園の1歳児クラスでの例ですが、これと似た風船で遊んでいるうち、ヘディングで跳ね返せた子もいました。偶然もあるとは思いますが、風船の独特な動きから、子どもたちのいろいろな可能性が引き出されていくのだと思います。

西 一つひとつの遊具が持っている性質が、子どもにとっては新しい体験や発見につながるし、また同じ遊具からも、子どもたちは私たちが思う以上の遊び方や可能性をつくり出していきますね。「もの」はさまざまな形で子どもたちの遊びを触発してくれますが、そんな楽しさが生まれるのも、安心して信頼できる「ひとがいるからでしょうね。

伊藤 保育者はとてもやさしく子どもたちとかかわっていて、一人ひとりの様子をよく見ていました。子どもたちに向ける笑顔も、とてもいい雰囲気を持っているなあと思っていました。

西 この園では「ゆるやかな担当制」がとられていて、普段からクラスの保育者と子どもたちの間で信頼関係が深められていることも、Bちゃんが安定して遊べる背景にあるのでしょう。ここで一緒に遊んでいる保育者は1年目の先生だということですが、Bちゃん自身もこの世界に迎えられて1年を数えたところです。見るものすべてが新しい1年の中で、何もかも1からつくり上げていく。子ども自身がそうしているプロセスに、保育者もかかわっています。保育者の1年目も、それと同じように日々かけがえのない体験が積み重ねられていて、それが今日のような笑顔につながっているのでしょう。

撮影/伊藤美保子
協力/倉敷市田の口保育園(岡山・倉敷市)

『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2021夏より 

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