支える手~異年齢クラス・子ども同士のかかわり~【保育を見ること、語り合うこと #4】

連載
保育を見ること、語り合うこと
関連タグ

3・4・5歳児の異年齢クラスでは、遊びの時間だけでなく、日々の生活を通して発達の異なる子どもたちがかかわりあっています。その中で、「できること」もたくさん増えていきますが、それと同時に、お互いに尊重しあう心も育っているようです。

お話を伺ったのは…

西 隆太朗 先生

ノートルダム清心女子大学教授保育における関係性の意義について、子どもたちとかかわりながら、保育学的・臨床心理学的研究を進めている。著書『子どもと出会う保育学――思想と実践の融合をめざして』(ミネルヴァ書房)ほか。

伊藤美保子 先生

ノートルダム清心女子大学准教授保育士を長年務め、子どもたちの姿に惹きつけられて、保育の観察研究を続けている。共著『写真で描く乳児保育の実践――子どもの世界を見つめて』(ミネルヴァ書房)ほか。

生活をともにする中で

場面1 着替えのとき

園庭では水遊びが始まっていました。先生が水をまいてくれて、どの年齢の子も笑顔で駆け回っています。総合遊具に保育者が水を上からも下からもかけると、子どもたちはウオータースライダーのように、涼しさと水をかぶる感触を楽しんでいました。

5歳児の男の子は、スライダーに頭からチャレンジして、とてもうれしそうです。

水遊びのあとは、濡れた服を着替えます着替えるとき、このクラスでは、自分の場所を示すシートを敷くようにしています。3歳児のAくんが着替えを終えて、シートをたたんでいました。

一生懸命に調整をくり返し、うまくコンパクトにまとめて、かばんにしまうことができました。

先生は子どもたちの髪が拭けているかなど全体をよく見てあげながら、声をかけています。「ちょっと聞いてください。着替えが、かばんの中に入っていない人がいるよ」と言うと、子どもたちは自分でも気づいてさっと直しに行っていました。それから、水遊びあとのしずくが少し床にこぼれていたのを見つけて、先生はすっと拭いていました。

保育を見て語り合う

西 ウオータースライダーは、子どもたち一人ひとり、滑り方も楽しみ方も違って、個性がありますね。

伊藤 異年齢で活動する場合は、この園庭での水遊びのように、年齢が違ってもそれぞれのやり方で楽しめるものがあるといいですね。はじめはおずおずとやってみた幼い子もやがて歓声を上げ大きい子はダイナミックに体を動かして、水を浴びながら駆け回っていました。発達には幅があっても、みんなが楽しい体験をともにできるような遊びが考えられています。

西 着替えの場面には、異年齢クラスの生活の中で、大きな子が小さな子の面倒を見る様子や、保育者の配慮のあり方が表れていますね。

伊藤 3・4・5歳児が同じ空間で着脱しているのは、年齢別クラスではあまり見られない、異年齢クラスならではの場面です。5歳児たちはとてもしなやかな動きで着替えていましたが、その様子を見ていても、子どもたちが3歳から5歳にかけて、こんなふうに成長していくんだということがよくわかります。

西 3歳児のAくんにとっては自分の体よりも大きいシートですが、本当に全身を使い、床に自分の目線を合わせるようにかがんで、一心にたたんでいるのが印象的ですね。

伊藤 こんな体験を積み重ねるうちに、どんなふうに体を動かせばいいかつかんでいくのでしょう。観察しているときは、私も「がんばって!」と子どもの気持ちに寄り添うような思いで見ていたのですが、あとから写真で振り返ると改めて、こんなにも全身で取り組んでいたんだなあと気づかされます。

西 できるようになったという結果以上に、子どもがそのこと自体に意味を感じながら、気持ちを集中させて試行錯誤する体験の豊かさが大事なのかもしれませんね。

伊藤 誰かがちょっと手伝ってあげれば、もっとスムーズにたためるのかもしれませんが、子どもがこんなふうに一生懸命しているときこそ、見守り、待つことが大事なのではないかと思います。
5歳児の子どもたちはよくわかっているなと思うんですが、小さい子がこんなふうに自分でがんばっているときは、手伝いにいきませんね。その子が困っていて、少しだけ手伝ってあげれば自分でできるというところを、してあげていました。そういうときは、何も言わないけれど、とても自然にそばに寄り添ってしてあげていますね。

西 遊びの中でときどき異年齢が交流するのとは違って、生活をともにしている異年齢クラスだからこそ見られる場面でしょう。異年齢の長所として、大きい子が小さい子の面倒を見てあげることが挙げられますが、どんなふうにケアしているのかを見てみることも大事ですね。
手伝うにせよ、見守るにせよ、どんな思いでそうするかが大事ではないでしょうか。自分でできるように「見守る」のは、距離を置いたり突き放したりすることではなくて、一生懸命しているその子の思いを大切に尊重することなのだと思います。
担任の先生は子どもたちの様子をよく見ていましたし、床を拭いたときもそうですが、クラスにとって必要なことがあれば、いつでもすぐに気づいて動いていましたね。

伊藤 保育学者の津守眞先生は、「地を這うような、目立たない日々の保育の中に光があります」と語っていました(佐藤学・監修『学びとケアで育つ』小学館、2005年)。それは津守先生が障がいをもつ子どもたちを支える日々の中から生まれた、重みのある言葉ですが、どんな保育にも通じている言葉のような気がします。床を拭いていた先生のように、保育園では文字どおり地を這うように動きながら子どもたちとの楽しい生活をつくっているなあと思うんです。

西 何かあればすぐに自分から動いて、誰かのために身をていしてケアをする――保育者の仕事ってそういうものだし、子どもたちもそれによって支えられているんだと感じ取っていることでしょう。そんな保育者に日々触れる中で、子どもたちは誰かが何かを必要としていれば、いつでも力を惜しまずケアする姿勢を学んでいくのだと思います。

仲間をケアする心

場面2 支える手

自由遊びを終えて、片づけるころになったときのことです。このクラスでは一斉に片づけさせるのではなく、遊びの様子を見ながら声をかけていて、子どもたちは協力しあい、楽しみながら片づけをしています。

そんな中、Bくん(4歳児)がおもちゃを手にしたまま立っていたので、それに気づいたCくん(5歳児が片づけてあげようとしました。でもBくんは自分自身でしたかったのか、泣きそうになってしまいました。

先生はその様子に気づいて、Bくんが思いを伝えられるよう声をかけました。それはとても穏やかな声でした。また先生は、CくんがBくんによかれと思って、責任をもって手伝ってあげようとした気持ちも受けとめていました。

4歳児たちがそばに集まってきて、泣きそうなBくんの背中を励ますように、そっとたたきました。

ある男の子は自分も泣きそうな表情でした。それでもBくんは思いを言えそうではなかったので、保育者は「さっき言ったみたいに伝えてみたらいいんだよ」と声をかけ、まわりの子どもたちには「ふたりで話をするからね」と言いました。集まってきていた子どもたちは片づけに戻り、保育者はBくんとCくんが気持ちを立て直せるまで、優しくつきあっていました。

保育を見て語り合う

伊藤 このクラスでは何かトラブルのようなことがあると、子どもたちがさっと集まってきます。保育者もこの場面と同様、クラスの状況によく気づいて、いつでも穏やかに子どもたちと話し合い、励ましています。
実際には、片づけの間に起こった一瞬のできごとです。保育者が見逃してしまえば、それで過ぎ去っていたかもしれません。大騒ぎしたわけでもないし、けんかになったわけでもありませんでした。ただ、どの子にも自分の思いがある。Cくんも、遊びに入りそびれているような年下の子には、いつも声をかけてあげている子です。互いのことを思っている仲間どうしでも、行き違いは起こってくるものです。それをなかったことのように流してしまうのでは、子どもが抱いている思いもどこかに行ってしまう。
そんな大切な瞬間に、この先生はいつでも気づいて、子どもたちを力づけにやってきてくれる――このクラスでの観察を続けていて、そう感じています。

西 子どもたち自身、もう片づけの時間になっていることも、Bくん・Cくん両方の思いもわかっているだけに、共感を言葉にするのは難しいことです。それでも、言葉を超えて支える手で伝えている。自分も泣きそうになって立ち尽くす様子は倉橋惣三の「廊下で」(『育ての心』フレーベル館)を思わせます。言葉にはならないけれども、大人以上に深い共感を寄せている子どもたちの姿を、倉橋は描き出していました。

伊藤 私にとってはとても心に残る場面だったので、あとでこの写真を先生に見てもらいました。先生は「そのときは渦中にいて一生懸命だったけれど、いま写真を見ると改めて、子どもたちってこんなに優しいんだと思う」と言われていました。

西 どんなことにも一緒に立ち会い、考えていこうとする姿勢が、このクラスにはあります。幼い日に大事なことはみんなで話し合えるんだという集団への信頼をもつことは、子どもたちにとって将来、広い社会で人々と出会っていく希望につながるでしょう。
日々保育者が身をもってしている姿勢が、子どもたちにも自然に取り入れられているからでしょうね。人はケアされることで、ケアすることを学んでいくのだと思います。

撮影/伊藤美保子
協力/社会福祉法人倉敷福祉事業会 連島東保育園(岡山・倉敷市)

『新 幼児と保育』2021年8/9月号より

【関連記事】
保育を見ること、語り合うことシリーズはこちら!
・イメージを形にすること ~子ども同士のかかわりの中で~【保育を見ること、語り合うこと】
・秋の園外散歩 ~思い出に残る光景~【保育を見ること、語り合うこと】
・自由遊びにどうかかわるか ~2歳児クラスの風景から~【保育を見ること、語り合うこと】
・見るものすべてを遊びに変えて~0・1歳児クラスの環境・関係性~【保育を見ること、語り合うこと #4】
・話し合い~異年齢でのクラス集団を考える~【保育を見ること、語り合うこと #3】
・異年齢クラスでの遊びの広がり~ハンバーガー屋さんのごっこ遊び~【保育を見ること、語り合うこと #2】
・ともに遊ぶ楽しさ ~言葉を超えて触れ合う中で~【「保育を見ること、語り合うこと」動画編】
・イメージの広がり~楽しさをつないで~【「保育を見ること、語り合うこと」動画編】
・装う・包む・着せる ~布から広がる遊び~【「保育を見ること、語り合うこと」動画編】
・支える手~異年齢クラス・子ども同士のかかわり~【保育を見ること、語り合うこと #4】
>>もっと見る

保育者のみなさんに役立つ情報を配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
保育を見ること、語り合うこと
関連タグ

実践紹介の記事一覧

雑誌最新号