話し合い~異年齢でのクラス集団を考える~【保育を見ること、語り合うこと #3】

連載
保育を見ること、語り合うこと

ノートルダム清心女子大学准教授

伊藤美保子

ノートルダム清心女子大学教授

西隆太朗

3・4・5歳と、発達にも幅のある子どもたちがともに生活する異年齢クラス。子どもたちが集団として、どんなふうにつながっているのか、日常の保育、遊びと生活の場面から、考えてみましょう。

お話を伺ったのは…

西 隆太朗 先生

ノートルダム清心女子大学教授。保育における関係性の意義について、子どもたちとかかわりながら、保育学的・臨床心理学的研究を進めている。著書『子どもと出会う保育学――思想と実践の融合をめざして』(ミネルヴァ書房)ほか。

伊藤美保子 先生

ノートルダム清心女子大学准教授。保育士を長年務め、子どもたちの姿に惹きつけられて、保育の観察研究を続けている。共著『写真で描く乳児保育の実践――子どもの世界を見つめて』(ミネルヴァ書房)ほか。

クラスという自分の居場所

場面1 アイスクリーム屋さん

6月のある日、クラスを訪れると、3歳児のAちゃん・Bちゃんが一緒にアイスクリーム屋さんごっこをしていました。生き生きと頬張り、おいしそうに食べています。

手を合わせて「いただきます」をしたり、色とりどりのフルーツをスプーンも使って盛りつけたりしながら、楽しんでいます。

4歳児たちは、Aちゃん3歳児おうちごっこのコーナーの隣で電車を運転しています。

そこに3歳児もやってきて、一緒になって遊んでいました。

保育を見て語り合う

西 3歳児のAちゃんとBちゃんは、とても楽しそうに遊んでいますね。

伊藤 3歳児がままごとを楽しむときって、こんなふうだなあと思います。「食べるまね」を超えて、思う存分に食べる体験を楽しんでいます。
この園では、3歳未満児は担当制の保育、3歳以上児は異年齢クラスでの保育を行っていて、それぞれのよさがあります。3歳児にとっては、それまでの年齢別から異年齢クラスに移ることになりますし、保育士の配置基準も保育者ひとりに対して2歳児では子ども6人だったのが、3歳児では20人へと大幅に変化します。新しいクラスに入る時期はとても大事ですね。

西 保育の中には入園、卒園だけでなく、日々の登園・降園や遊びの片づけなど、場面や環境、自分自身のあり方の変化を経験する「移行期」があります。2歳児から3歳児への移行も、さまざまな環境の変化を伴う大切な時期ですね。子どもも大人も、移行期には心の揺れを体験しますが、そんな時期をどう支えるかにも、保育の質が表れるといわれています。

伊藤 そんな中で、こんなふうに3歳児らしさを発揮して遊べているのは、本当によかったなあと思います。

西 新しいクラスにも慣れ、クラスが自分の居場所になっているんでしょうね。3歳児を迎える4・5歳児たちの優しさや、きょうだいのいるクラスに入っていることもあって、自由遊びの中で年齢を超えたかかわりが自然と生まれていきます。何よりも保育者との信頼関係があるからこそ、こんなふうに楽しく移行期を乗り越えていくことができるんでしょうね。

遊びから給食へ

場面2 片づけ

給食の時間が近づき、そろそろ片づけを始めるころです。先生は遊びの様子を見ながら子どもたちに声をかけ、子どもたち同士もお互いに促しあって片づけていきます。

4・5歳児たちは手慣れた様子で、大きなブロックなども次々と手渡していきます。

どうやってダンボールでできた軽いブロックを積み重ねて運ぶかなど、その子なりに工夫しているようです。

3歳児たちもがんばっています抱えきれないほどのブロックの片づけにチャレンジしている子もいます。

3歳児同士協力して一緒に運ぶ姿もありました。

ものの10分もすれば、クラスはきれいに片づいてしまいます。みんなで床に落ちているゴミを拾っていますが、子どもたちは身をかがめて一生懸命です。

保育を見て語り合う

西 このクラスでの片づけは、いつ見ても驚くほどきれいになりますね。一人ひとり、その子なりのチャレンジや流儀があるのもおもしろいところです。

伊藤 本当にそうですね。片づけそのものを協力して楽しんでいるからでしょう。保育者も、一斉に早く片づけさせるというような考えはしていません。遊びを少しずつ収めていけるように声をかけているし、どんなふうにしたら片づくか、子どもたちと一緒に考えています。

西 一心に遊んでいる時間を終えて給食に向かっていくのも、ひとつの「移行」です。片づける、切り替えるといった結果ばかりでなく、移行の体験そのものを大切にして、楽しめるようにしているから、片づけの時間も子どもたちにとって充実したものとなるのでしょう。

みんなで一緒に考える

場面3 話し合い

9月になり、クラスも安定してきています。給食の準備をするころ、5歳児のCくんは、張り切ってテーブルをきれいに拭いています。

Dくん(5歳児)も力を発揮78932して、3歳児の子にお茶をくんであげていました。

Cくんは私(伊藤)に、クラスの中で誰と誰がきょうだいなのか教えてくれました。そして「(担任の)先生もそうだよ。家のきょうだいもいるけど、みんなきょうだいみたいに仲がいいんだ」と言っていました。

給食の時間には、それぞれに用意をし、今日はここで食べたいという席を選んですわります。

今日、Eくんは同じ3歳児のFくんの隣にすわりたくて、そこにあったいすにかけました。ところがそのいすは、Gちゃん(3歳児が用意していたものだったのですわれず、少し泣きそうになってしまいました。5歳児たちはすぐに気づいて、集まってきました。最初にやってきたDくんは、事情を3歳児たちにたずねましたが、はっきりしなかったので、「ジャンケンにしよう」と提案します。ところが3歳児同士では、ジャンケンがスムーズにいきません。それでDくんは「ぼくとジャンケンして、勝ったほうがすわれることにしよう!」と言ったのですが、「あいこだったらどうするの?」などという声もあってそれで解決とはいかないようです。

先生も来てくれて、話を聞いたり、いろんな考えを提案したりするものの、なかなか話し合いはまとまりません。そんな中で今までずっとみんなの話を聞いていたHくん(4歳児)が、「そんなにEくんがFくんの隣がいいんだったら、ぼくがもうちょっと寄ったらここが空くから、Fくんのそばに座れるよと言いました。それでみんなが落ち着いて、無事給食を食べることができました。

保育を見て語り合う

伊藤 このクラスでは、何か起きたときには必ずみんなが集まってきます。特に5歳児は、幼い子どもたちが困っていることがないかいつも気にかけているようです。自分たちも遊んでいる最中だったり片づけや準備をしているところだったりするのですが、子どもは、ほかの子どものことを、よく感じ取っているのだなあと思います。
子どもたちがそんなふうに育っているのは、保育者自身が身をもってそうしているからでしょう。大事な場面には必ず保育者が来てくれて、子どもたち自身が解決していく過程を支えてくれています保育をよく見て、感じているからできることなのでしょう。誰も置き去りにされることはないんだという信頼が、クラス集団の中に広がっています。

西 トラブルの解決そのものよりも、みんなが自分なりの個性を持ち寄って一緒に考える、その過程に意味があるように思います。

伊藤 Hくんの言葉でみんなが納得したのですが、最初からそう言えばよかったかというと、そうでもないかもしれません。ずっとみんなの話を聞く過程があったからこそ、そう言えたのではないでしょうか。

西 異年齢保育については、年長の子が年少の子を助けてあげたり、モデルになったりする利点があるといわれています。でも、それをあまり固定観念にしないほうがよいのではないでしょうか。この場面のように、4歳児がいい提案をしてくれることもあります。異年齢とは、固定した上下関係なのではなく、むしろさまざまな個性が発揮される場なのだと思います。子ども自身がたとえてくれていますが、「きょうだいみたいに仲がいい」というのは、そういうことですよね年下の子にも、その子だからこそ果たせる役割があります。
Hくんの優しさは印象的ですがその子ひとりの力というよりも、みんなで話し合う過程が、Hくんの言葉に結実したのだと思います。異年齢保育に限らず、多様な個性や違いが生かされ、尊重される場を築くことが、クラス集団にとって大事なのではないでしょうか。

撮影/伊藤美保子
協力/社会福祉法人倉敷福祉事業会 連島東保育園(岡山・倉敷市)

『新 幼児と保育』2021年4/5月号より

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