各園の実践から探る取り組み方のヒント「当たり前」をやめてみた・変えてみた

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社会福祉法人東香会理事

青山誠

いつものやり方、持ち続けてきた意識、常識を「やめる」「変える」ことは容易ではありません。でも、その一歩によって保育が変わる、動き出すということがあります。各園の取り組みを取材しました。

青山 誠 さん

「りんごの木子どもクラブ」の保育者を経て、2019年4月より、上町しぜんの国保育園勤務。第46回「わたしの保育記録」大賞受賞後、本誌でも保育エッセイを執筆。著書に、独自の保育観をまとめた『あなたも保育者になれる』(小学館)がある。

乳児・幼児の「別居」をやめて0〜5歳で「同居」を始めた

こひつじ保育園(幼保連携型認定こども園)(大阪・堺市)

お話/園長・林 惠子 先生

その保育室に入ると、ふっと心のやすらぎのようなものを感じるのは、いわゆる保育室というよりも家に近い雰囲気を醸し出しているからなのかもしれません。

こひつじ保育園では、もともと0~2歳の集団(スィート)と、2~5歳の集団(ホーム)がそれぞれ分かれて暮らしていました。その垣根を文字通り“取り払い”、スィートとホームをひとつの「ファミリー」として同居させることを始めたのは2002年度のこと。それまでの保育を「やめる」「変える」きっかけはなんだったのでしょう。園長である林先生に話を聞きました。

少し高い机は4・5歳児が小さい子に邪魔をされることなく遊べるスペース。同じ空間にはベッドもあり、0歳児もここで一緒に過ごす。
旧園舎でファミリーを始めたころの様子。扉を外したり、可動式の壁を全面開放して、ひとつの部屋にした。

きっかけ 「担当の子どものことは自分にしかわからない」その負担をシェアするために

その保育を発案したのは、当時園を統括していたコーディネーターの方でした。もともとスィートもホームもそれぞれ担当制で保育をしていたのですが、それだと「子どものことは担当保育者にしかわからない」ということが起こりがちでした。保育者は何か困ったことがあっても担当以外の保育者には相談しにくく、負担を抱え込むということがあったのです。

そこで、0~2歳の集団(スィート)と、2~5歳の集団(ホーム)という年齢区分は維持したまま、それらを「ファミリー」として、同じ空間に同居させるという現在の保育の形に徐々に移行させていきました。保育者の負担を少なくするというだけでなく、複数の大人がかかわることで、子どもたちを豊かな人間関係の中で育てることができると考えたのです。

0~5歳を無理に一緒にするのではなく、それぞれの集団がおたがいに交流を持ちつつ、自分たちのペースを守りながら生活をする。これを言葉にすると「一人ひとりの個別援助を基本としながら、その一人ひとりが持つ違いの大きさが、相互のつながりの中で生きる保育」ということです。

スィートは3~5人、ホームは15~16人。4つのスィートとふたつのホームが「ファミリー」を作り、現在は3つのファミリーが生活しています。

第一歩 「保育室のドアを外す」既成概念を捨ててとにかくやってみた

始めたときは今のような異年齢集団を想定した園舎ではなく、保育室はいわゆる「教室」のような部屋でした。そこでドアを外して開放的な空間を作ったり、廊下でも保育をしてみたり。とにかくそれまでの自分たちの既成概念にとらわれないでやってみたんですね。

保護者からは衛生面についての心配の声もありましたので、保育者が個々に専門家の講演を聞くなどして勉強をしました。ある講師は「少し汚いぐらいのほうが無菌よりもよい」とおっしゃっていて、確かに以前よりも感染症などの拡がりは減ってきていると感じています。

安全面についても、実際の保育の様子を伝えたりしながら、保護者の方の理解を得られるように対話を積み重ねました。

取り組み 閉鎖的にならないように保育者同士の交流も

やってみると、同年齢集団の中だけではなかなかうまくいかない子も、小さい子といることでやわらかい心持ちになれたり、小さい子が大きい子の姿をまねしたり、どんどん保育が変わっていきました。もちろん、年齢に見合った活動ができるように工夫をしたり、赤ちゃんが一緒にいる生活を子どもたちに伝えるためのさまざまな工夫もしています。

子ども同士の結びつきを大事にするために、ファミリーの構成は、基本的には動かしません。0歳で入った子は同じファミリーで育ちます。ただ、それぞれのファミリーが閉鎖的にならないように、大人は少しずつ入れ替えています。おたがいのファミリーを理解し合ったり、園としての結びつきを深めるため、泊まりがけの研修を行うなど、大人同士の交流を図る工夫もしています。

異年齢でかかわり合う子どもたち。2歳児は一人ひとりの育ちや個性を考慮し、スィートに入るか、ホームに入るかを決めている。

<青山MEMO>保育を変えたいと思ったとき、方法は自ら「発明」する

こひつじ保育園の環境を見たときに、自分の常識というものを大きく揺さぶられました。同時に、保育における方法とは何かということを深く考えさせられます。

発達段階に合わせた環境構成とは年齢区分ごとの環境構成、ひいてはクラス編成であるという「常識」を、こひつじ保育園の実践はしなやかに超えていきます。0~5歳の異年齢手段のほうが子どもたちの豊かな育ち合いを保障できるのではないか。ではその方法はなにか。もしかしたらそれは教室の扉を取っ払うことかもしれず、廊下を保育室に変えることかもしれません。方法とはそのときどきの状況や、目的に合わせて「発明」するもの。こひつじ保育園の実践は、私たちに保育実践の生まれてくる源への問いを投げかけています。

恒例だった”作品展のテーマ“を思い切って変えてみた

白梅学園大学附属白梅幼稚園(東京・小平市)

お話/教諭・西井宏之 先生

白梅大学附属白梅幼稚園教諭の西井さんはいわゆる「中間層」の保育者として、自園の中で積み重ねられてきた伝統と、これからの保育、ふたつの流れが合流する地点に立って奮闘しています。自園の文化や取り組みを「やめる」「変える」ことは、場合によっては新しい園文化を築くよりも大変なことかもしれません。西井さんがどのような思いで、またどのようなアプローチで、自園の文化を今、同僚の職員とともに作り変えているのかをお聞きしました。

子どもたちが栽培したゴーヤは、熟しすぎたのか中身が真っ赤!「ばくはつしたの?」「うちゅうじんがゴーヤになったのかな」など、子どもたちは不思議そう。

第一歩 赤カブ、小松菜をやめてゴーヤ栽培に挑戦!最初は小さな取り組みから

最初はクラスレベルの取り組みでした。年中クラスは毎年、赤カブと小松菜を栽培していました。そのふたつなら育てやすく失敗しにくい。子どもたちに成功体験が得られやすいというのがその理由です。だけど、子どもたちの興味・関心あるいは、試行錯誤したり、失敗から考えることを大事にしたいと思ったときに、必要なのは必ずしも成功体験だけではないと思ったのです。

ある月の誕生会でスイカが出ました。種を見つけて「植えたい」という子がいて、畑に植えてみました。そのことがきっかけになり、子どもたちは家から種を持ってくるようになりました。プラムの種、パクチーの種、石を植えた子もいます。やってみなければ、結果は分かりません(笑)。その中で、ゴーヤの種を持ってきた子がいました。ゴーヤは種から育てるのは難しいという意見もありましたが、結果は見事成功。新しいことに挑戦することで、子どもにも大人にも「わくわく」した気持ちが生まれました。

これをきっかけに、翌年には職員同士で話し合い、子どもたちに何を経験させたいのかを考えて「大根を植えてみよう」ということになりました。農園をやっている保護者の方にも協力してもらうなど、新しい展開も生まれてきています。

秋まきの大根。子どもたちからは「たくあんにしたい」などの声が上がった。

取り組み クラスレベルの挑戦から園全体の取り組みへ 作品展のテーマを見直した

一番大きな変革は、2017年度の作品展です。これまでの作品展は、年中の場合「動物を作る」というテーマがありました。11月末の作品展に向けて、まずは10月ごろに動物園に行くところから始まり、絵の具、クレヨン、粘土、空き箱と教材や素材を変えながら継続的に製作に取り組むという流れが決まっていたのです。だけどそれをしていると、毎年決まったやり方や段取りに子どもたちをあてはめていってしまう印象がどうしてもありました。外部講師の先生から「もうちょっといろいろなことを考えてみたら」という提案を受けたこともきっかけとなり、作品展の変革に乗り出すことにしたのです。

子どもたちの興味から始めていくことで、保育者には見通しがない不安はありつつも、仲間と協力したり、対話しながら遊びを作っていく子どもたちの姿に驚かされました。

一方で、「子どもたちの興味・関心に合わせて保育を作り上げていくのはいいが、それは場当たり的になりがち」「保育者の意図はあってはいけないのか」といった意見も出ました。職員同士で議論していく時間が少なかったこともあり、事後にいろいろな人の思いがあふれることとなってしまったのです。その反省をふまえ、今年度はきちんと話し合って進めていこうということになりました。

取り組み 職員の合言葉は「とりあえず行動する」

話し合いを大事にする一方で、試行錯誤の中でぼくらがひとつ決めたのが、まず職員の合言葉を「とりあえず行動する、まずやってみる」としたことでした。まずはやってみて、子どもたちの姿を見て、そこから話し合いを始めるということも大事。何かをしようとするとき、それは可能なのか無理なのか、難しいとしたら具体的にどこが難しいのか、子どもたちはどんな反応をするのかなどは、実際にやってみないとわからないですから。

話し合いは、ただ漫然と臨むのではなく、なにを話し合いたいのか、どう保育を動かしていきたいのかを、事前に明確にしておくことを意識しています。さらに前もって、「今日はこんなことを話したいと思っているんだけど…」など、何人かにでもさわりを話しておく。同じ方向を向くためには、こうした根回しも重要。また、実際の話し合いの場面では、大きな話題よりも、具体的でわかりやすい小さな話題から振っていくことで、参加した職員も話がしやすくなります。 「保育者の意図や誘導」と「子どもたちとともにフリーハンドで保育を進めていく」ことのバランスについては、保育者間でたびたび議題に上ります。これからも職員同士で話し合いを重ねながら、子どもとともに保育を作っていくということを第一に保育に取り組んでいきたいです。

恒例だった「動物を作る」というテーマをやめ、作品展は子どもたちの間に広がった「ヒグマごっこ」を展開させて取り組んだ。ヒグマのお面をかぶり、ヒグマの家を作る子どもたち。

<青山MEMO>保育を現場から変えていく。そのヒントがたくさん!

西井さんのお話を聞いていると、保育を変える、動かしていくということを現場から変えていくときのヒントがたくさん詰まっているなと感じました。園長や、主任主導の上からのトップダウンで変えるときとはまた違って、現場からボトムアップで変えていくときは、西井さんの話にあるとおり話し合いに際して、「根回し」が必要だったり、実際に子どもの姿を先にみんなで見て、そこから話し合うということが有効な気がします。大事なことは、自分たちの保育は自分たちが作るんだという意気込みをもって取り組むこと。西井さんのお話からその情熱がひしひしと伝わりました。

「やらなきゃいけない」をやめ「楽しい!」と思える保育へ

ひまわりこども園(群馬・前橋市)

お話/主幹保育教諭・赤石理恵子 先生

主幹保育教諭の赤石先生から「私たちの園でミーティング(※)の研修をお願いします」と電話をもらったのは1年前。さっそくかけつけ、ミーティングの基本から、実践的な技のほか、ひまわりこども園の実践報告をもとに対話をしていたら、なんと8時間!おたがいへとへとになりましたが、中身の濃い研修となりました。

「やらなくちゃいけない」保育を変え、大人も子どもも語り合いの生まれる保育を目指すひまわりこども園。新しいことにチャレンジしていく若手保育者たちをにこやかに見守る赤石先生にお話を聞きました。

※「りんごの木子どもクラブ」(神奈川・横浜市)で実践している、子どもたちによる対話の時間。

きっかけ 「やらなきゃいけない」という意識を捨てて「楽しい!」と思える保育へ

私は、保育者たちには保育を楽しんでほしいと思っています。ですがどうしても「やらなきゃいけない」ことに目が向いてしまいがちです。具体的には、片づけや給食の準備などですね。それも保育のうちなのですが、保育を楽しむよりも段取りとかタイムスケジュールに、子どもも大人も追われることになっていたのです。

保育で、絶対に外しちゃいけないのは子ども。いかに、子どもとのその瞬間を楽しめるかが大事。保育者たちを見ていると、やらなきゃいけないことばかりに目が向いていて、そのときどきの子どもとの瞬間を楽しめていないような気がしていました。

どうしたら「保育楽しい!」と思えるのだろうか、自分のやりたいことができるようになるにはどうしたらいいか、なにかきっかけがあるといいなと思っていました。

取り組み 自ら楽しむ姿を見せ、子どもの姿を語り合うことで保育者のスイッチがオンに

まずは実際に、保育の中で私自身が楽しんだり、遊んだりする姿を保育者たちに見せて伝えてきました。そのスタンスは主幹になっても変わらず、なるべく現場に出ることにしています。以前は子どもの何を見ていいかわからない保育者も多くいました。子どもを見る視点が定まらず「何ができる、何ができてない」ということばかり気にしている。ですから、まずは子どもを語り合って、子どものしていることをおもしろがろうよと思いました。職員同士でとにかくたくさん「子どものおもしろかった話」をすることは、特に意識してやっていることです。日常会話の中で気軽に語り合うことで、子どもの姿を分かち合い、なにより子どもの行動をどう見たらいいかを伝え合ってきた気がします。悩んでいる若い保育者には「とにかくいろんなことを試してみよう」と提案しました。そうするうちに、ちょっとずつ保育者たちのスイッチが入ってきたのですね。

遠足の行き先を決めるミーティング。「昆虫館」にするか「恐竜館」にするかを決めるために、移動時間を調べたり、どちらがたくさん遊べるか、行ったらなにがしたいかなどを話し合う子どもたち。結果はたくさん遊ぶ時間のとれる「昆虫館」に決定。「恐竜館」は、代わりに恐竜の出てくる映画をみんなで観に行くことになった。

取り組み ミーティングを実践 子どもたち自身が保育の「次」を生んでいく

そんなときに、園長先生がある研修先で「ミーティング」のことを聞いてきたのです。

子どもたちが輪になって、いいたいことをいい合う。よい・悪いもない、会議でもなく、正解に導く場でもない「子どもたちのミーティング」。りんごの木の実践映像(※)を見たときは、こういう保育のかかわりがあるのだと驚きました。

保育者の中には、自主的に映像を見返しながら実践してみる人もいました。その中で、5歳児の担任が子どもたちが話に耳を傾けないことに悩んでいたことがきっかけとなり、青山さんに研修をお願いすることにしたのです。

その後、ミーティングを積み重ねていく中で感じるのは、子どもが変わってきたということです。自分たちから「これ、みんなで話そうよ」「みんなで考えてみようよ」といってくるなど、どんどん子ども主導に変わってきたという実感があります。大人がなにかいうと、「せんせいはだまってて」なんていわれることもあります。

ひとつ事例を挙げると、これまで保育者が決めていた遠足の行き先を、2018年の4歳児クラスでは子どもたち自身がミーティングで決めました。ある子どもが「家族で行った昆虫館にみんなと行きたい」とつぶやいたことが始まりです。それをみんなに伝えてみると「恐竜館」がいいという意見も出てきて、全員での話し合いになりました。

「変わる」の途中 居心地のいい着地点を子どもたちと一緒に見つけていく

ミーティングは、これでいいんだという安心感がないし、迷いも多い。子どもの声を聞くといっても、じゃあ子どもがいったことをすべて叶えていくのかなど、保育者によっても話し合いの展開が大きく左右されてしまう。

子どもたちの一つひとつの言葉にどう向き合っていくのか、保育者がそこで抱える自分の感情とどう向き合うのかなど、まだまだ課題もありますが、保育者たちは今、子どもたちの中で居心地のいい着地点を、子どもたちと一緒に見つけられるようになってきている気がします。ミーティングでは、「こうしてみたら」と、私が指示をすることはありません。なにかもやもやした思いがあるとしたら、たぶん居心地の悪さは現場の保育者自身が一番感じているはずですから。

ミーティングは、子どもとの対話のひとつの方法。子どもとの対話の中で、その子自身が見えてくる瞬間があります。ミーティングによって子ども理解を深めることで、保育者自身、「保育が楽しい」という気づきにつながっているように感じます。

※『りんごの木 子どもたちのミーティング』(「新 幼児と保育」2016年6/7月号・ふろくDVD)

ミーティングは「会議の場」ではなく、子どもたちがいいたいことをいい合える寄り合いの場。ひとりのつぶやきを、いかに「みんなの話題」にしていくかは、保育者の経験や力量にも左右されるところだ。

<青山MEMO>変わろうと思うからこそたくさんの「迷い」が生まれる

赤石先生のお話を聞いて思ったのは、変わろうと思っているからこその、迷いってあるんだなということ。居心地の悪さという言葉が出ましたが、実践とは居心地の悪さに耐えることでもあると思います。子どもとかかわるとき、あれでよかったのかなぁとか、あんなこといわなきゃよかった、という居心地の悪さを感じることは少なからずあります。それを感じながら、でも明日また子どもたちに会うのを楽しみに待てること、そこに居心地の悪さも含めてわかちあえる同僚がいることが保育の醍醐味かもしれません。赤石先生のお話からはその同僚性を「にこやかに」支えようという意志が伝わってきました。


写真提供/こひつじ保育園(幼保連携型認定こども園)、白梅学園大学附属白梅幼稚園、ひまわりこども園

『新 幼児と保育』2019年4/5月号より

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