身支度を整える~心地よさを伝え健康的な生活を送る~【今井和子先生に聞く 乳幼児の生活習慣#5】
睡眠や食事、排泄とともに、衣類の着脱や身のまわりを清潔にする習慣を身につけることが大切。衛生面だけでなく、子どもが主体的に生きる土台になります。
(この記事は、『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2019年夏に掲載されたものを元に再構成しました)
監修
今井和子先生
「子どもとことば研究会」代表。二十数年間公立保育園で保育者として勤務。その後、東京成徳大学教授、立教女学院短期大学教授などを歴任。現役保育者であったころからの経験をもとに、全国の保育研修なども行っている。著書に『0・1・2歳児の担任になったら読む本 育ちの理解と指導計画【改訂版】』、『0歳児から5歳児 行動の意味とその対応』(ともに小学館)など。
目次
大人にやってもらう心地よさから、自然と身につくことが大切
気持ちよく着替えさせてもらったり、きれいに手を洗ってもらったり。大人に丁寧に身支度を整えてもらうことで、子どもは自分が大切にされていると感じとることができます。自分でできるようにと、自立ばかりを急かしてしまいがちですが、着替えや手洗いなどを身につけるためには、大人にやってもらうことの心地よさを十分に味わうことが必要なのです。
身のまわりを清潔にすることは、子どもが毎日、快適に生活し、健康に過ごすために大切です。清潔とは、決して汚さないことではありません。汚れを十分に体験しながら、汚れてもきれいになる、ということを伝えることが大事です。
「また汚して」と汚れを嫌がる大人がいますが、そうすると、「砂場は手がばっちくなるからイヤ」と、汚れることを避ける子どもになってしまいます。どんなに汚れてもこんなにきれいになるよと、汚れたときこそ、きれいにすることの気持ちよさを味わわせてあげましょう。きれいになることで、まわりの人にも好感を持ってもらえる、ということも伝えます。
「手洗い」できれいになる気持ちよさを感じとれるようにする
手洗いを習慣化するコツ
- 外から帰ったときと食事の前、トイレのあとは必ず手を洗うというルーティンを身につける
- 子どもにお手本を見せながら保育者も一緒に楽しく手洗いをする
- 手洗いをする意味を伝え、自発的にできるようになるために養護する
1歳前半ごろまでは、食事の前後は、濡れタオルで手を拭いてあげます。ただし、手がかなり汚れている場合は、後ろから手を添えて洗ってあげ、「お砂がついたからきれいにしようね」「ほ〜らきれいになったよ」などと声をかけながら、きれいになる気持ちよさを感じとれるようにします。
最初はやってもらっていた子も、1歳後半になると、自分で水道の栓が開けられるようになり、自分で洗いたいという欲求が出てきます。その気持ちを大切にして、一人ひとり丁寧に手を添えて、洗い方を知らせていきます。
洋服の袖をまくることから、栓を開けて水を出し、手を洗って栓を閉める。この流れを身につけさせます。まだ袖をまくることや水の量を調節することなどは難しいので、「濡れないように袖をまくろうね」と、動作を言葉にしながら援助することが大切です。
石けんを使うようになったら、汚れが残っていないか、石けんの洗い残しがないか、よく見てあげましょう。衛生上の理由から、最近はポンプ式の液体石けんを使う園が多いようです。子どもと一緒にやりながら、1回の適量も知らせていきます。
また、どろんこ遊びなどのあとは、指の間や爪などの細かいところもチェックし、爪ブラシで仕上げ洗いをしてあげるのもいいでしょう。洗ったあとは、「きれいになったね」と声をかけ、タオルで拭くときは、手の甲もよく拭くように言葉かけし、きちんと拭けているか確認してあげましょう。
この時期は、手洗いが水遊びになってしまうのが、保育者の悩みでもあります。「そんなことしちゃダメ」とすぐに水道の栓をギュッと閉めるのではなく、「もう終わりにしようね」とやさしく声をかけ、「もっとやりたい!」といわれたら、「じゃあ、もうちょっときれいになったらおしまいね」と約束を取りつけるようにします。
そうすると子どもも自分の意思を尊重されたことで納得します。この時期だけは、”少し手洗いの時間を延ばしてあげる“、ぐらいに気持ちに余裕を持ちましょう。また、「はい、みんな並んでください」と一斉に手を洗わせるのは、余計なケンカを生む原因にもなります。「お片づけしたら来てね」などと声をかけ、水道に来た子からみてあげるといいでしょう。
「顔」や「鼻」がきれいになったことを自覚させることが大切
ごはんを食べ終わったあと、顔のまわりをきれいにして、口をサッパリさせて寝る、という習慣を身につけることが大事です。外で遊んできたときも、砂や汚れが顔についている場合があるので、0歳児は、柔らかいガーゼやタオルで保育者が拭いてあげます。その際、「顔に砂がついているからきれいにしようね」などと、必ず言葉をかけましょう。
1歳前後になると、自分で拭きたがるようになるので、おしぼりを用意しておきます。ただし、子どもに任せっぱなしにしないで、子どもが拭いたあと、「きれいになったかな?」と保育者が確認するようにします。顔を拭くことは、衛生面だけでなく、生活にメリハリをつけるためにも大切です。拭いてもらうのを嫌がる子どももいますが、わらべうたを歌いながら顔を拭いてあげるなど、楽しいやりとりをすることで抵抗感がなくなっていきます。
最近は顔を拭くことに慣れてしまい、顔洗いができるようになるのが、遅れているようです。2歳ぐらいになったら、ただ拭いてあげるだけではなく、手で少し水をすくって顔にかけてあげてから、拭くようにします。家庭にも伝えて実践してもらうといいでしょう。顔に水をつけて洗えるようになると、顔に水がかかったときも嫌がらないで、プールにもすぐ慣れるという利点もあります。
鼻水が出ていたら、「おはなが出てるから拭いてあげましょうね」と、何をするかということを、必ず言葉をかけてから行います。遊んでいるのにいきなりサッと拭かれると、嫌がって泣き出す子もいます。そして、「はい、きれいになったよ」と伝えます。
個人差も大きいですが、2歳ごろにもなると、鼻が出たことに自分で気づくようになります。そうなったら、紙を両手で持って拭くことを伝えます。拭いたあとは「きれいになったかな」と鏡を見せて、きれいになったことを自覚させることが大切です。鏡の前など、子どもの手の届くところにティッシュとゴミ箱を置いておき、一連のことがすぐできるように環境を整えておくとよいでしょう。
顔を拭いてもらうのが楽しくなるわらべうた
「おでこさんを まいて」
口の中を清潔にする「うがい」と「歯磨き」は家庭との連携を
口の中の細菌や食べカスを流し出すブクブクうがいは、2歳ぐらいから食後に取り入れるといいでしょう。まずは保育者が口に水を含んで、ブクブクと動かすように見せ、ペッと出します。見せながら一緒に行うことが大事です。
そして、子どものする様子をよく見て、「口の中がサッパリして気持ちいいね」「上手にできたね」と言葉をかけます。まだうがいができない0歳児や1歳児は、食事のあとにお茶や白湯を飲ませて、口の中をサッパリさせるといいでしょう。
2歳後半ごろになると、ブクブクうがいが上手になり、ガラガラうがいができる子も出てきます。外で遊んで部屋に入ってきたときに、保育者が「飲まないのよ」と、ガラガラガラとやってみせます。「のどをお水で洗ってるの」「のどについているばい菌さんを出してるのよ」と、うがいをすることが健康にいいことを伝えます。4・5歳児の子どもたちが外から帰ってうがいをしているところを見せるのもいいでしょう。
歯の健康は、食べるばかりでなく、発音やあごの成長にとっても必要です。そのため、歯磨きは虫歯予防だけでなく、口の中を清潔にすることで、口の機能発達を促す面でも大切なのです。まだ歯も出ていない0歳児は、保育者がガーゼを指に巻いて、歯茎や口の裏などを拭いてあげます。
ひとりで水を飲めるようになったら、食事のあと、必ずお茶や水を飲んで口の中をサッパリさせます。口の中に食べ物のカスが残って気持ち悪さを感じさせることが大事なので、水で流したあとは、「サッパリして気持ちよくなったね」「口の中きれいになったね」と言葉をかけます。そして、自分でブクブクペッができるようになったら、食後はブクブクうがいをするようにします。
何歳ごろから歯磨きするかは園によってさまざまですが、奥歯が生え揃う2歳ごろになると、自分でやりたがる姿も出てきます。ただ、急ぐ必要はないので、基本的には家庭で寝る前、1日1回磨く習慣をつけてもらうようにするといいでしょう。ほめながらやる気を育て、手を添えて教えるようにします。また、お母さんが仕上げ磨きをしてあげるように伝えましょう。
自分で着替えようとするきっかけづくりになる言葉かけが重要
安心して着替えさせてもらう0歳児前半
日ごろは寝かせて着替えをさせます。その際、脱がせる前に、前開きの肌着とベビー着を重ねて袖を通して準備をし、子どもを待たせないようにします。
脱がせる前に必ず、「お着替えしようね」と言葉をかけます。着替えるときは、腕や足をなるべく引っぱらないよう、衣服のほうを引いて腕や足を通すように気をつけます。「腕のトンネルシュッシュッシュッ」「ひじが引っかかっちゃったかな」などと言葉のコミュニケーションをとることで、子どもが体の自分の部位を知っていくこともできます。最後は「ほーらちゃんとできたね」と、終わりをキチッと伝えます。
衣類の着替えに興味を持つ0歳児後半~1歳
このころになると、着替えに興味を持ち始め、自分で洋服を持ってきたりします。そんなときは「これに着替えようね」と認めると、より興味を持つようになります。
すわれるようになったら、保育者の膝に子どもをすわらせて、後ろから着替えさせます。後ろから援助することで、子どもは自分でも着替えている気持ちになれます。ほとんど保育者が着替えさせていても、「お手てを入れてくれて助かったよ」などと言葉を伝えることで、徐々に自分から着替えるようになっていきます。言葉をかけることで、保育者との情緒的な絆も深まっていきます。
自分からしようとする1歳半
自我が芽生え、自分からやろうとする意欲が見えてきます。まずは靴下を引っぱって脱ぐことから始まり、ズボンやパンツなど、脱ぎやすいものから自分でやろうとします。そんなときは「自分でやってるのね」と、見届けます。
自分でやりたいという気持ちを大切にしながら援助していくことがポイントなので、袖に手を通すときは「お手て出るかな?」、ズボンに足を入れるときは「トンネルトンネル、シュッポッポ」など、わかりやすく着脱が楽しくなる言葉をかけましょう。着替えを広げて床に置いてあげるのもひとつの方法です。
自分でやりたい2歳児
運動機能や指先の機能の発達に伴い、2歳ごろになると、ひとりで着脱するようになります。個人差もあり、時間がかかる子もいますが、最後まで見守り、「自分でできたね」と、褒めてあげます。首が入らなくて苦戦しているときは、後ろからスッと引っぱってあげたり、ズボンの片方に両足が入ったときは、「こっちにもトンネルあるね」と気づかせるなど、さりげなく援助することが大切です。
2歳後半になると、指先の機能が発達してボタンやスナップをはめたり、外したりしようとするようになるので、互い違いにならないよう「一番下からはめようね」と言葉がけしたり、難しい一番上だけ手伝ってあげましょう。また、脱いだ衣服をたたもうとするようになるので、保育者がまずやってみせてあげるといいでしょう。
1歳児になると、靴を自分で脱ごうとします
1歳を過ぎると、まず自分で靴を脱ごうとするようになります。そんなときは、「あ、靴脱げたね」と言葉かけします。靴は着脱しやすいように、面ファスナー式のものがおすすめ。履きやすいようにかかとの部分に指を引っかける輪っかをつけたり、左右を間違えないように、靴を揃えると絵合わせできるようなマークを家庭でつけてもらってもいいでしょう。歩き始めのころの子どもの足は、骨の成長途上にあり、土踏まずもまだ形成されていないため、足に合った靴を選ぶ事も大切です。
ひとりで着脱できるようになったといっても、指の動きがまだ十分でないため、うまくいかなかったり、また、できるのに「やって」と甘えてくることもあります。そういうときは、快くやってあげましょう。それが今度は自分でやってみよう、という気持ちにつながります。自分でできた喜びは、自己肯定感へとつながっていきます。
歩き始めの靴選びのポイント
文/大石裕美 撮影/藤田修平 イラスト/奥まほみ
協力/小学館アカデミーむさしこやま保育園
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