発達が気になる新入園児への支援のポイント

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発達の遅れが気になる子どもや、独特の行動を見せる子どもがいたとき、発達障がいに関する知識が、保育をスムーズにすることがあります。

ここでは、3歳児クラスの新入園児を想定して、発達障がいを抱える子どもによく見られる様子と効果的な支援について、臨床発達心理士スーパーバイザーの橋場隆先生にお話しいただきました。

(この記事は、『新 幼児と保育』2019年4/5月号に掲載されたものを元に再構成しました)

監修

橋場 隆先生
臨床発達心理士スーパーバイザー。筑波大学大学院修了。専門は知能・情緒障がいリハビリテーション。都内各地の公共障がい施設、教育・保育機関において相談業務に携わる。著書に『保育者のための発達障がい相談室』『発達障がいの幼児へのかかわり――概要・取り組み・77 のQ&A』(ともに小学館)などがある。

特徴的な行動や様子

「自閉症スペクトラム障がい」(ASD)や、「注意欠如・多動性障がい」(ADHD)などが、発達障がいとして知られており(*1)、いずれも幼児期早期から発現します。それぞれの障がい範囲と特徴をみていきましょう。

*1 そのほかにも、学習障がいが知られていますが、就学以降に明らかになるケースがほとんどです。知的障がいが神経発達障がい群範囲と説明されることもあります。

自閉症スペクトラム障がい(ASD)

従来は「自閉症」「広汎性発達障がい」などと呼ばれていました。「スペクトラム」とは、連続的な分布範囲を表す概念です。たとえば知的な水準に関して、検査測定が困難な低い範囲から知能指数が平均より高い人まで幅広く存在しています。下記のような特徴的な機能不全(障がい)が見られます。 

・対人関係や集団活動への参加が苦手
・言語/非言語によるコミュニケーションが苦手
・同じ動作や行動に強迫的にこだわる

注意欠如・多動性障がい(ADHD)

その名が示すとおり、注意機能不全と多動性という課題を持っている障がい範囲です。「注意機能」とは、目で見たり耳で聞いたりするときにその対象にきちんと意識を向け続けられる働きのことです。「多動」とは、落ち着きがなく動きが多い状態です。基本的な特徴は、下記のようにまとめられます。

・多動性(極端な落ち着きのなさ)
・衝動性(場面状況を問わない突発的な行動)
・興奮性(情緒が安定せずかんしゃくや暴力をくり返す)

場面ごとの支援のヒント

3歳児の段階で、すでに発達障がいの診断( *2)を受けている子どもはほとんどいませんが、発達の様子が気がかりな子どもを見かけることはあると思います。保育園や幼稚園における望ましい支援のあり方を考えます。

*2 発達障がいの診断を行うのは医師です。


登園 

ASD

登園時に激しく泣く子どもが多く見られます。親から離れようとしない子どももいれば、親をまるで無視しながらも泣きやまず、部屋に入ることを抵抗する子どももいます。特定の保育者のそばでなんとか過ごせるようになってくることもあります。

ADHD

保護者と手をつなぐのを嫌がる傾向があり、親の手をふりはらって砂場に行ってしまったり、目に入ったものをいじり始めたりします。保育者へのあいさつもそこそこに、保育室に入って先に遊んでいるお友達のおもちゃを無理やりつかんだりすることもあります。

支援
ASD、ADHDどちらのケースも、まずは登園時から順番にやるべき行動の流れを作りましょう。たとえば、
1.「おはようございます」とあいさつする。
2.自分の靴箱に靴をしまう。
3. 部屋に入って自分のロッカーに荷物をしまう。
4.好きなおもちゃで遊ぶ。
などです。その際、指示もわかりやすく短いフレーズを決めて(2語文など)、一貫した声かけを行ってください。

遊び

ASD

名前を呼びかけても反応せずに、声をかけても無視しているように見えます。独語(ひとりおしゃべり)や奇声も聞かれます。友達とおもちゃなどを共有して遊ぶことができず、入園当初はひとりで遊んだり歩き回っていることがよくあります。同じところを行ったり来たりすることもあります。

ADHD

ものの貸し借りが苦手で、取った・取られたのトラブルになりがちです。またじっとすわっていることができません。「すわろうね」と保育者にうながされて、「うん」と答えても、数秒もすればまた動き回っています。一方、集中して遊んでいるときには保育者が声をかけても、保育者に注意が向きません。

支援
保育者に注意を向けてほしいときには、声かけだけに頼らず、体にそっと触れたり、好きなおもちゃや遊びで誘導したりするとよいでしょう。どんなおもちゃや遊びに興味を示すのか、まずはよく観察します。絵本、固定遊具、あるいは大人がくり出すくすぐりっこやぐるぐる回しなどの接触遊びに興味を示す子どももいます。

動き回る子どもに対して、追いかけっこのような形になると、さらにエスカレートしていくことも多いので注意が必要です。

食事

ASD

食事への意欲が見られず、食べないこともあるので、毎日の昼食やおやつのときに悩むことになります。家では決まったものは食べていても、園側としてはそれに合わせるわけにもいかず、悩むことになります。

支援
多くの場合、周囲があの手この手で取り組んでもうまくいかないものです。慣れたものへの固執、味覚の敏感さ、食事環境が家庭と違うことを嫌がるなど、頑固さを見せます。

可能なら、家で食べているものを利用するとうまくいくことがあります(ふりかけなど)。 園で摂れなかった栄養素を家庭で摂るように保護者に伝えるなどのサポートができるとよいでしょう。焦らず、長期戦のつもりで進めてください。

ADHD

おなかが満たされてくると食べることに集中できなくなるので、注意が必要です。スプーンをしょっちゅう落としたり、食器やスプーンで遊んだり、隣の子どもにちょっかいを出したりします。

支援
にぎやかな子どもが同じテーブルにならないようにしましょう。また、すわる位置にも配慮が必要です。部屋の全体を見渡せる向きより、壁を向く位置がよいでしょう。目に入る刺激をなるべく少なくするためです。

午睡

ASD・ADHD

入眠のときにもじもじする、走り回る、両手や指先を奇妙に動かす、擬音を発する、タオルを口に入れるなどする子どもが少なくありません。今はお昼寝をするのだというルールが理解できなかったりします。

寝起きのときに、ぐずったり泣き叫んだりする様子もよく見られます。特にADHDのある子どもは、多動=常に動き回っているため、疲れてしまい、一度眠ったら起こしてもなかなか起きない子どもも目立ちます。

支援
可能であれば、先生がひとり対象児に付き添います。ほかの子どもより先に、子どもを午睡の部屋に連れて行き、刺激の少ない状態で入眠をうながすのもよいでしょう。光や音が刺激になるケースがありますので、注意しましょう。

ここに取り上げた例以外にも、障がいゆえに見られる特徴や気になる行動はあります。また、個人差があり、抱える課題はさまざまです。キーワードは、「焦らない」ことです。


構成/佐藤暢子 イラスト/上島愛子

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