新しい環境で安心して眠れるようになるために~乳幼児の眠りとは~【今井和子先生に聞く乳幼児の生活習慣 #1】
これまで一心同体のように世話をしてもらっていた大人から離れ、まったく新しい人や場での生活がスタートします。そんな環境の中で乳幼児が生活習慣を形成していくために大切なことは何でしょう。
乳幼児保育歴の長い今井和子先生に0・1・2歳児と生活をともにつくるためのヒントを教わる全5回のシリーズです。
(この記事は、『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2018年春 に掲載されたものを元に再構成しました)
監修
今井和子先生
「子どもとことば研究会」代表。二十数年間公立保育園で保育者として勤務。その後、東京成徳大学教授、立教女学院短期大学教授などを歴任。現役保育者であったころからの経験をもとに、全国の保育研修なども行っている。著書に『0・1・2歳児の担任になったら読む本 育ちの理解と指導計画【改訂版】』、『0歳児から5歳児 行動の意味とその対応』(ともに小学館)など。
目次
眠れるということは園に慣れてきたあかしです
子どもが新しい環境に慣れるためには、1か月ぐらいかかります。情緒が安定しない0歳児は、さまざまな非言語サインを保育者に送ってきます。泣いて訴えるのはもちろん、寝つきが悪くなったり、ミルクを飲まなくなったりなど、その多くは基本的な生活に関連することです。環境の変化から生じるストレスが、生理的生活リズムに影響するのです。
日常的生活活動の中で、最もベースになるのが、その生理的生活リズムをつくること。中でも0歲児の生活リズムづくりは、睡眠リズムを整えることからスタートします。そのためには、今までどういう生活を送ってきたか、家庭での様子をどれだけ理解できるかが重要です。午前寝する子としない子、おんぶをしないと寝ない子、抱っこしてよく寝かせてからベッドへ移す子など、保護者と綿密に連絡をとり、一人ひとりに合った寝かせ方をつかむことが大切です。
子どもが家にいるときと同じように眠れるようになったというのは、園に慣れ、安心できるようになったあかしといえます。つまり、0歳児が園生活に対応できているかどうかは、睡眠の変調の有無が重要なサインなのです。精神生活が安定するように、安心して眠れる状況を作ってあげたいですね。
家庭での生活リズムを把握して子どもに合わせた環境をつくる
新入園児の緊張や不安は想像以上のものがあります。この入園期の心理的動揺を最小限に食いとめるために、入園当初は、園の生活リズムに子どもを慣らすのではなく、家庭のリズムに合わせながら、子ども自身が園になじんでいくための保育が大切です。
そのためには、入園前面接や事前アンケートなどで、これまでの育ちを詳しく聞いて理解し、家庭に近い対応、環境づくりを行います。名前の呼び方や抱き方、家ではどんなふうに寝かしつけているかなど、なるべく細かく聞いて一人ひとりの生活の流れをしっかり把握し、個人別の生活一覧表(下表)を作成しておくと便利です。
担当だけでなく、すべての保育者、看護師、栄養士など、0歳児保育にかかわる職員全員が、0歳児の家庭での生活の仕方を知ることができます。こうした配慮をすることで、一人ひとりの子どもを、より家庭に近い状態で対応できるようになり、安心して生活できる状況をつくっていくことができます。こうした配慮をすることで、一人ひとりの子どもをより家庭に近い状況で対応できるようになり、安心して生活できる状況をつくっていくことができます。
また、0歳児は月齢によって成長の差が大きいので、なるべく低月齢、高月齢と少人数に分け、発達に応じた保育ができるように心がけます。子どもが安心できる心のよりどころになれるよう、同じ保育者が受け入れる(抱く、話しかける、世話をする)、担当保育制がおすすめです。
入園当初は、特に保護者と紹密に連絡をとり、家に帰ってからの様子などを教えてもらう必要もあります。子どもによっては、発熱や下痢など、体調の変化を訴える子もいるので、欠かせません。非言語的サインをしっかり感受し応答することが、この時期の保育のポイントです。これにより、子どもや保護者との信頼関係も育まれます。
個人生活一覧表の例
みずほ 3か月
ミルクの飲ませ方 | 抱いて |
ミルクの温度 | 熱め |
離乳食の状態 | なし |
食べさせ方 | なし |
寝方 | ベッド上向き |
寝るときの傾向 | 音に敏感 |
呼び方 | みーみ |
アレルギーの有無 | 無 |
平熱 | 36度4分 |
はると 5か月
ミルクの飲ませ方 | 抱いて(よく吐く) |
ミルクの温度 | 人肌 |
離乳食の状態 | 果汁(スプーンで) |
食べさせ方 | 抱いて |
寝方 | 畳 上向き |
寝るときの傾向 | 指しゃぶり |
呼び方 | はるくん |
アレルギーの有無 | 有(牛乳) |
平熱 | 37度 |
しゅう 5か月
ミルクの飲ませ方 | 抱いて |
ミルクの温度 | 人肌 |
離乳食の状態 | 初期 |
食べさせ方 | 抱いて |
寝方 | ベッド トントン |
寝るときの傾向 | なし |
呼び方 | しゅう |
アレルギーの有無 | 無 |
平熱 | 36度4分 |
ひより 7か月
ミルクの飲ませ方 | 自分で持つ |
ミルクの温度 | 人肌 |
離乳食の状態 | 中期 |
食べさせ方 | 食事用いす |
寝方 | 畳 上向き |
寝るときの傾向 | 眠いと泣く |
呼び方 | ひーちゃん |
アレルギーの有無 | 無 |
平熱 | 36度4分 |
子どもにとって睡眠が重要なわけ
睡眠を中心にして、なぜ生活リズムを整えなければならないか。
「寝る子は育つ」というように、睡眠には、脳をつくり、育て、守り、よりよくするという働きがあります。
大人の睡眠は身体や脳の機能を維持するためのものですが、乳児期の睡眠は身体や脳の機能をつくります。
赤ちゃんは起きている間、五感をフルに働かせてさまざまな情報を得て、眠っている間にそれら情報を記憶として整理し、大脳を発達させているのです。
それに加え、生後3か月ごろから睡眠中に成長ホルモンが分泌されるようになります。これにより、身体の新陳代謝を促し、細胞組織を修復し、再生します。
そして、この時期の睡眠が、昼と夜の区別がつくようになる生活リズムをつくっていくためにも、重要だからなのです。
生活リズムの自立への第一歩
子どもの育ちとともに、1日の睡眠時間や睡眠リズムも変化しますが、それも脳の発達にともなって生じるものです。ですから、乳児期の睡眠不足や睡眠リズムの乱れは、この時期の子どもの心と身体の発育・発達に、とても大きな影響を及ぼしかねません。
家庭ではまず、夜更かしさせないこと。照明を暗くしたり、入浴時間を一定にするなど、眠りに必要な環境を整え、絵本を読んだり、子守唄を聞かせたりして、眠りにつくまでの間、温かなふれあいの時間をともに過ごすようにします。
園でも、「寝かせる」ではなく、家庭での生活に沿って、子どもが安心して生活できる状況を作っていくことが大切です。こうした条件が揃って初めて、子どもは眠りにつくことができるのです。
新生児~2歳の睡眠リズムの特徴
新生児
1日あたりの睡眠時間が多い(1日の約3分の2)。
大人に比べてまどろみ(後のレム睡眠=浅い眠り)の割合が大きい。
生後2〜3か月
1日の半分以上眠って過ごす。
3〜6か月
睡眠時間は1日の約半分になる。生活リズムを身につける。臨界期。
朝決まった時間に起き、規則正しい授乳、昼間は起きて遊び、
夜休むことを規則的にくり返す生活が重要。
6か月〜1歳
1日の睡眠時間は12〜13時間。
夜まとめて眠るようになる。脳の発達とともに、ノンレム睡眠(レム睡眠ではない深い眠り)が現れる基礎ができる。夜泣きが多くなる。
2歳〜
ノンレム睡眠とレム睡眠。
日中の運動量が増えるなどにともない、ノンレム睡眠が増え、夜の熟睡量が一生のうちで最も多くなる。
※月齢・年齢はあくまでも目安です。
子どもが安心して過ごせる環境構成
保育室の環境も、家庭の延長としてなじみやすい雰囲気づくりを心がけます。子どもがホッとくつろげるよう、家で遊んでいるおもちゃと同じようなものを置くことも重要です。
0歳児の場合、月齢の差もあり、一人ひとりが違う生活リズムで過ごしているため、寝る時間、目覚める時間はさまざまです。寝ている子もいれば、遊ぶ子も、食事をする子もいて、同じ空間ではお互いに心地よい時間が過ごせません。気持ちよく寝かせてあげるために、眠くなった子がいつでも静かに眠れる場を用意したり、遊ぶ空間、食事をする空間をカーテンや家具などで仕切って部屋を構成したりするといいでしょう。また、明るさ、音、人の動きなども考慮しながら、ベッドや布団の配置を変える工夫をすることも大切です。
明るいと眠れない場合は、日の当たる窓辺を避け、まわりを保育者や子どもが通ることで落ち着いて眠れないという場合は、なるべく人が通らない場所へ移動します。大半がまだ自由に移動できない子どもたちなので、あお向けやうつ伏せで遊んだり、手足をバタバタと動かしたりするスペースも確保しましょう。
1歳児になると、一人ひとりが自分のホッとできる場を見つけ、したいことが十分に楽しめる室内空間であることが大切です。そのため、新入園児には、0歳児同様、家庭で遊んできたおもちゃと同じようなものを用意すること。ひとりになれる心地よい居場所をダンボール箱など使って、設置するのもいいでしょう。
かみつき時期でもあるので、子どもたちがーか所に集まってしまうことがないよう、遊ぶ環境を工夫します。このころになると、昼寝は休息にすぎないので、長く寝かしすぎないよう、1時間半ぐらいで起こします。
安心して眠れるために子どもの気持ちを安定させる5つの心得
1. 不安な気持ちを受け入れ、泣かせてあげる
泣いたらまず、無理に泣きやませようとはせず、「泣いていいんだよ」と、不安な気持ちを受けとめます。そして、その子がどうしてほしいのか、泣いている理由を探します。
「おむつがぬれて気持ち悪かったね」
「おなかがすいちゃったのね」
と、その子の身になって話しかけるだけで、子どもは安心するものなのです。
また、一人ひとりの保護者から、子どもが家ではどんなときによく泣き、どのようなあやし方をしているかを詳しく聞いておくのもよいでしょう。
泣いている子の気持ちが和らいできたら、抱っこは向き合うのではなく、前向きにして、一緒の方向を見るようにします。まわりが見えるようになることで子どもの世界が広がり、いろいろなものに興味を持つようになります。
2. 戸外に出て、自然に触れる
戸外に出て自然に触れることで、開放感に浸れ、情緒が安定することで安心して眠れるようになります。
園庭でブランコに乗っている他児をじっと見ていたり、散歩の途中で電車に見入っていたりと、特に戸外ではまわりのことに興味津々。そんなとき、その子が何に見とれるのか、子どもと同じ目線で観察します。興味のあるものを見つけたら、「Aくんは電車が好きなのね」などと言葉をかけると、自分の気持ちがまわりの人に伝わったことを喜ぶとともに、人を信頼し、その人に心を開いていくきっかけにもなります。そうすればやがて「今、電車で遊びたかったの」と、自分の気持ちを言葉で表現できるようになっていきます。
3. 生き物を飼う
大抵の子どもは生き物に興味津々。子どもは応答してくれるものが好きなので、自分自身で動くものや、エサをあげるなど、何か働きかけたら返ってくるものに対し、おもしろみを感じるようです。そのため、金魚やカメ、小鳥、ハムスターなど、小動物を飼ってみるのもいいでしょう。特に新入園児は、それらに親しみながら、次第に不安を解消していくこともあります。子どもが観察しやすいよう、飼育ケースは子どもの身長に合った見やすい場所に設置します。
3歳以降にもなれば、生き物とのふれあいが、好奇心や思いやりの心を育むきっかけにもなるので、継続的に飼育できる環境づくりも重要です。
4.ホッとできる居場所をつくる
1歳近くなると、絵本のコーナーやベランダなど、それぞれ好きな場所ができます。泣いていても、そうした安心できる居場所に連れて行ってあげると泣きやむことも。そこから自分で遊びを見つけ出していくので、仕切りを設けて、一人ひとりでじっくり遊べるスペースをつくりましょう。好きな場所や好きな遊び、その子の興味の対象は何かということを、保育者が早くつかむことが、信頼関係を築く原動力にもなります。
また、なかなか園になじめない場合、家庭で大切にしている愛着対象物(ぬいぐるみや人形、タオルなど)を持ってきてもらい、気持ちを落ち着かせるのもありかもしれません。
5. スキンシップを大切にした遊びを心がける
乳幼児の不安や緊張を和らげるには、スキンシップがなにより。なるべく同じ保育者が同じ子を受け入れるようにつとめ、子どもを安心させます。気持ちが安定してきたら、あやし遊びやおはしゃぎ遊びをして、信頼関係を築きましょう。やさしいとなえ歌や子守唄も、声のスキンシップになります。
文/大石裕美 イラスト/奥まほみ
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