幼児期にこそ体験してほしい「どろんこ遊び」
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小さなお団子作りから、ダイナミックな川作りまで。どろんこ遊びの楽しさを知った子どもたちは、汚れなんて気にしないで遊びます! 子どもも大人も夢中になるどろんこ遊びの魅力を、造形を専門とし、子どもたちと楽しんでいる「芸術士」の方々に伺いました。
お話
NPO法人アーキペラゴ・芸術士
松尾由美さん、モーリエール瞳さん、長谷川隆子さん、松野礼子さん
芸術士とは
大学などで美術を学び、NPO法人「アーキペラゴ」に所属している現役のアーティスト。香川県高松市などから委託を受け、2009年から週に1回のペースで園を訪れ、保育者と連携しながら、子どもたちとともにさまざまな表現活動を行っている。2018年度所属芸術士は25名で、高松市では43園へ派遣し活動を行なっている。
目次
可塑性の高い土こそ 想像力を刺激する
水の加減で変わる質感のおもしろさを楽しむ
子どもたちの感性を育て、想像力を最大限に引き出すことが芸術士の役割です。そのため、年間を通して魅力的な素材を提供し、保育の一環としての創作活動に携わっています。
「その中のひとつが、どろんこ遊びです。5月になって、半袖になったら、そろそろOK。ひとつの園で数回行っています」(松尾さん)
数ある活動の中で、子どもたちには特に人気の高い遊びだと話します。
「土は、子どもの力で形を変えたり、組み合わせたりすることができるうえ、何度でも作り直すこと(可塑性が高い)ができます。身近な素材の中で、いちばん子どもの想像力を刺激して、考えを巡らせる素材だといえます」(松尾さん)
土をシャベルで掘っていけば土の色が変わるし、積み上げれば山になる。丸めれば団子にもなるし、手ですぐ崩すこともできる、変幻自在な素材なのです。
「それに、水を足すことで触感が変わってくるのも魅力なんです。スベスベしていたのがベチョベチョになったり、粘りが出てきたり。不思議なことに、土がベチョベチョしだすと、子どもって体に塗りたがるんですよ(笑)」(松野さん)
そうして冷たい土が自分の体温で温かく変わっていくさまを楽しむ。当然どろだらけになりますが、どろんこになって汚れる気持ちよさは、どんなものにもかえ難いといいます。
「土や砂、水には癒やされる面と感情をぶつけられる二面性があります。どろんこで遊ぶと、心が解放されて、すっきりできるんですよ」(松野さん)最初は土にさわることを嫌がる子がいることも。そんなときは無理にやらせようとせず、見るだけの参加で構いません。
「友達や大人が楽しそうに遊んでいるのを見ていると、〝自分もやってみたい〞という気持ちがわいてきます。最初はミミズを作る程度だった女の子も、回数を重ねていくたびに、ダイナミックになっていく。そんな子どもたちの変化を見ているのも楽しいですよ」(モーリエールさん)
ときには、近所の公園や畑など、子どもたちのお気に入りの場所の土をお散歩のついでに少し集め、色や触感の違いを発見したり。園庭全体に水をまいて(台風の前だったので)、どろんこ遊びをしたこともあるのだとか。
「どろんこ遊びのときはパンツの着替えを持っていって、一緒にワイワイ楽しんでます。教えるというスタンスではなく、子どもと遊びを共有する。芸術士はやんちゃの筆頭なんです」(モーリエールさん)
土粘土は作るものではなく 遊ぶもの!!
土粘土の扱い方
手軽に体験できる 土粘土遊び
もっと気軽にどろんこ遊びができるようにと、土の代わりに取り入れられているのが土粘土です。粘土層から掘り出した粘りを持つ土のことで、土の質感とほとんど変わりません。
「教室にビニールシートを敷いたら、土粘土(美術教材屋さんや陶芸屋さんなどで購入可能)をひとかたまりずつ子どもたちに渡して教室まで運んでもらいます。最初は〝何、このネズミ色の?〞といぶかしげにしてます」(長谷川さん)
ちょっと硬めの状態なので、まずはみんなで裸足になって踏んでみる。
「足の裏って感覚がするどいみたいで、みんなおもしろがって踏んでくれます。そのうち土粘土の上でピョンピョン飛び跳ねたりして。まずは土粘土に慣れてもらうのにちょうどいい」(モーリエールさん)
かたまりを並べて飛び石に見立てるのもおもしろい遊びです。
「踏むだけでは物足りなくなってきたら、今度は投げる!手で力を込めてトントン叩いたり、指でグリグリ穴をあけるだけで子どもたちは大喜びしてくれますよ」(松野さん)
限界なく、感情をぶつけられる素材でもあるので、いつもはやんちゃすぎる子も、集中して遊びにふけっているのだとか。
「みんな笑顔、というより、真剣そのもの。必死の形相ですよ(笑)。で、遊び終わるとスッキリした顔をしてる」(松野さん)
コミュニケーション力を育てる遊びとして取り入れましょう
土粘土遊びからは、さまざまな新しい遊びが発生します。単純に叩きつけてみたり、ままごとなどのごっこ遊びや、町作りなどの造形表現遊びにも使えます。最初はひとりで何かを作っていた子も、隣の子と線路をつなげたりして、コミュニケーションを広げていけるのも、この遊びのいいところ。
「保育士さんの中には、土粘土を見ると、開口一番、何を作りましょうか?という人もいますが、土粘土は作るものじゃなくて遊ぶもの。まずはその素材を十分味わってみてほしいですね」(松尾さん)
作品を飾っておけますか、と質問されることもありますが、土粘土は乾燥してカピカピになってしまうので、油粘土や紙粘土のように作品を作るのには不向き。
「壊すまでが作ること。大人はすぐ形に残したがりますが、遊ぶだけ遊んだら土にかえす。作ったものを壊すのだって、楽しい遊びですよ」(松野さん)
汚れる、後始末が大変、などの理由から、どろんこ遊びを嫌がる保護者が増えてきているようです。何でも口に運んでしまう年齢は避けたほうがよいかもしれませんが、土は子どもにとって魅力のある素材であり、ストレスを抱えている子どもの癒やしも兼ね備えています。もっとも身近である自然の一部とかかわりを持つことで、子どもは豊かに育つはずです。子どもだけではなく、大人も一緒に遊んで、そのよさを味わってほしいと思います。
どろんこ遊び・土粘土遊びを実践してみて
みんなで力を合わせて遊べる万能素材 高松幼稚園(香川・高松市)
「最初は油粘土を使って遊び、次に紙粘土、そして土粘土と、それぞれの素材の違いを楽しんでいます。最初触れたときは、冷たい感触やネズミ色の色彩に、子どもともども驚かされました。こねたり水を加えたりすると軟らかくなり、一人ひとりが考えながら形を作っている姿が印象的。なかには、芸術士さんに頼んで崩れないように接着剤をつけてる子もいました。慣れてくると、隣のお友達との合作も始まり、どんどん遊びが広がっていきました」(松村真里伽先生)
芸術士の技術や発想が、遊びの幅を広げ、子どもたちも喜んで取り組んでいます。
文/大石裕美
写真/アーキペラゴ
『新 幼児と保育』2018年6/7月号より
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