自由遊びにどうかかわるか ~2歳児クラスの風景から~【保育を見ること、語り合うこと】

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保育を見ること、語り合うこと
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ノートルダム清心女子大学准教授

伊藤美保子

ノートルダム清心女子大学教授

西隆太朗

子どもたちが自ら楽しみをつくり出す、自由遊び。それは人間のあらゆる力が伸びていく土壌です。そんな自由遊びの時間、「させる保育」でも「放任」でもないとしたら、保育者はどんなふうにかかわるのでしょうか。2歳児クラスの風景から考えます。

お話を伺ったのは…

西 隆太朗 先生

ノートルダム清心女子大学教授保育における関係性の意義について、子どもたちとかかわりながら、保育学的・臨床心理学的研究を進めている。著書『子どもと出会う保育学――思想と実践の融合をめざして』(ミネルヴァ書房)ほか。

伊藤美保子 先生

ノートルダム清心女子大学准教授保育士を長年務め、子どもたちの姿に惹きつけられて、保育の観察研究を続けている。共著『写真で描く乳児保育の実践――子どもの世界を見つめて』(ミネルヴァ書房)ほか。

自然にかかわる中で

【写真】2歳児クラスを訪れると、子どもたちは室内での自由遊びを楽しんでいるところでした。木でできた列車のおもちゃを走らせたり、ブロックをつなぎ合わせてみたり、思い思いに楽しんでいます。
【写真】Aくんはウレタンブロックの上に板で橋を渡し、列車をつないで走らせようとしています。

伊藤 どのクラスでも、日ごろからこのような自由遊びが展開されています。この日は先生のかかわりや、たたずまいがとても自然で、それにひきつけられました。写真に残っているのは瞬間ですが、遊びの流れを通して、こんなふうにかかわるのかと思わされることが多くありました。

西 子どもたちも和やかに遊びを楽しんでいるようです。ただ「楽しい」というより、こういうときの子どもたちって、本当に真剣で、知的な目をしていますね(写真)。自分の中から生まれる思いがあって、実際に体を動かしながら、ものごとの理解を深め、変化する状況と対話していく──ドナルド・A・ショーンなら「省察的実践」と呼ぶ行為です(※1)。子どもが自分から楽しむ遊びの中には、その子のあらゆる側面が生かされていて、そんな体験を積み重ねる中で、子どもは人間として育っていきます。

※1 ドナルド・A・ショーン著、柳沢昌一・三輪建二監訳(2007年)『省察的実践とは何か──プロフェッショナルの行為と思考』鳳書房

【写真③・④】先生のまわりに子どもが集まってきました。一緒に橋渡しをして遊んでいる子もいますが、Bくんはブロックを長くつなげ、Cちゃんは列車を横倒しに並べて、それぞれの遊びをしています。
【写真⑤・⑥ 】Aくんは途中でちょっとかくれんぼをして、また出てきて遊び始めました。

伊藤 自由遊びだから遊びはさまざまですが、電車やブロックを並べて、どことなくつながってもいます。Cちゃんは手をあげていますが、何かいいものができたのかもしれません。別の遊びをしてもいいわけで、Aくんのようにちょっと隠れてみたり、また戻ってきたりする子もいます。子どもたちはまわりのみんなの様子も感じ取っているし、先生と一緒にいることで、安心して遊べているようです。

西 駅から放射状に延びていく線路のように、子どもたちは先生のまわりに寄り集まったり、また広がったりしています。どの子も自分なりの遊びを見つけていて、漫然と過ごしてはいませんね。

伊藤 自由遊びの中で、どの子も自分らしく過ごせているときのクラスの風景って、こんな感じだなあと思います。一斉に何かをしているわけではないですが、それぞれに取り組むものがあって、保育者や子どもたち同士が緩やかにつながり合う中で、遊びが展開していきます。

【写真⑦・⑧・⑨】ウレタンブロックの上にあった板は、さっきは橋になっていましたが、こんどは飛び込み台のようにつき出ています。そこに先生が人形をのせてみると、子どもたちはどこまでバランスを保てるのが、一緒に試し始めました。

西 台の上にのっている人形と板の上にのっている人形。どこまで落ちないでいるか、じっと見つめていますね。そこからみんなでいろいろに試しています。遊びにもいろいろありますが、ここでは子どもたちがひとつの知的好奇心を共有し、手でものを動かしながら一緒に考えを進めているようです。

伊藤 保育者からも、遊びのアイデアをさりげなく加えているところです。そういうとき、人形をちょっと置いてみるなど、遊びの自然な流れの中に入っていくようにされていたのが印象的でした。もちろん子どもたちに言葉もかけているのですが、大人からの提案や指示ではなく、一緒に遊びをつくっています。子どもたちと同じように遊びの中に入りながら、子どもの遊びをすごく大事にしているように思えました。

【写真⑩・⑪・⑫ 】先生と子どもたちが、積み木や列車を使って遊んでいます。先生が積み木をちょっと立ててみるところから遊びが3次元に広がります。子どもたちは板の間にできた内空間に人や車を通らせています。やがてDくんは板と積み木を使って、この建物を増築し始めました。

西 津守眞先生は「内部の空間」と表現されていますが、子どもたちはこういうちょっと隠れた空間が好きだし、いま表面に見えている以上の世界があるという、その不思議さに心ひかれるものだというんです。それは子ども自身も同じことで、どの子にも外から簡単には見えない心の世界があるということを、津守先生はとても大事にされていました(※2)

※2 津守 真著(1979年)『子ども学のはじまり』フレーベル館

伊藤 これも保育者が言葉で提案するというより、ともに遊ぶ中で生まれた展開です。保育者が「意図をもってかかわる」ことが大事だといわれますが、こういう場面で「なぜそうしたのか」と尋ねられても、言葉にするのは難しいかもしれません。

西 ねらいをもって保育にあたることも当然ありますが、それだけでなく、普段からの何げないかかわりの中にその人の持ち味がにじみ出ているわけです。保育者が意識的にねらってはいないところからも、子どもは多くの影響を受け、学んでいます。

伊藤 Dくんは自分で板を持ってきて増築に取り組んでいます。こんなふうに何か新しいことを始めるとき、そばに大人がいてくれる、わかっていてくれることは、子どもたちにとってとても支えになることです。

【写真⑬・⑭ 】電車をつないで遊んでいるところです。ずいぶん長くつないだあとは、列車を注意深く引っぱって、座っている自分も一緒にバックしていました。

西 列車をとても長くつなげることができていますね。でも、できあがった作品の形だけに意味があるわけではないんだと思います。その列車は動くものでもあり、自分の体や心も一緒に動いていて、その全体がひとつの大切な体験なんでしょうね。

伊藤 写真は、この列車での遊びを終えたあとの様子です。こんなふうに子どもが遊んだあとに残されたものを、津守先生は「心のあと」と表現されています(※3)。その子の思いや、その子らしさをどこか感じさせられるような、そんな気がします。

※3 津守 真著(1987年)『子どもの世界をどうみるか̶̶行為とその意味』日本放送出版協会

保育者の援助を考える

伊藤 今日のように積み木やブロック、木でできた人形や列車が用意されているとき、そういうものを使って子どもたちはどう遊ぶか……いろいろな可能性が考えられます。子どもがし始めたことに目をとめて、保育者がどう応答するかは、とても大事なことです。その応答次第で、保育の流れも、子どもたちの体験も、ずいぶん変わってきます。

この先生は、保育者となって1年目ですから、まだ数か月も経っていない時期ですが、子どもたちの遊びの中に、本当に自然に入っていたのが印象的でした。子どものしたいことを受けとめながら、どんなふうに遊びをつくっていくのか、言葉というよりも動作で、ともに対話し、ともに考えていました。その対話を通して、子どもたちも一人ひとり、自分で考え、そしてしたいことをできている。同じ地平に立ち、子どもたちとずっとともにいた、そんな姿を見せてもらったと思っています。

撮影/伊藤美保子
協力/社会福祉法人倉敷福祉事業会 昭和保育園(岡山・倉敷市)

『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2021秋冬より

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