「あったか言葉」がテーマの絵本【児玉ひろ美のこだま文庫】

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児玉ひろ美の絵本ガイド
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JPIC読書アドバイザー

児玉ひろ美

ここは、みなさんの記憶の隅にある懐かしい1冊や気になりながらも読まないままの1冊、そんな本に再び出会うためのオンライン図書館です。今回は、あたたかい言葉をテーマとした絵本を集めました。

児玉ひろ美さん

JPIC読書アドバイザー、台東区立中央図書館非常勤司書。日本全国を飛び回って、絵本や読み聞かせのすばらしさと上手な読み聞かせのアドバイスを、保育者はじめ親子に広めている。大学で「児童文化」「絵本論」の講師を担当するなど、幅広く活躍。近著に『0~5歳子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』(小学館)。

〈いいから〉って、拒絶の言葉だと思っていました

「だけど、2回つなげると、脱力系になって、なんかいいですね」と、読み聞かせボランティアのNさんが手にしていたのは『いいから いいから』。何があっても動ぜず「いいから 、いいから」と、起きていることを丸ごと全部受容してくれるおじいちゃんが主人公の絵本です。「子ども(4歳)の通う幼稚園で「あったか言葉」をテーマに読み聞かせをしてほしいといわれて…」とのご相談で紹介した1冊です。おもしろいことに、読み聞かせ終了後、子どもたちは「いいから、いいから」をいうために、お互いの体にふれあったり、トンと背中を叩いたりして「いいから、いいから」と笑い転げていたそうです。

最近は道徳教育への関心が高まり、「あったか言葉とちくちく言葉」を小学校の取り組みでも頻繁に見聞きするようになりました。でも、保育の環境では、かなり以前から、あたたかい言葉をテーマにした作品がたくさんありますね。

『いいから いいから』

長谷川義史/作
絵本館

〈どーも〉じゃなくて 〈どーぞ〉だよ

どうぞのいす』は、絵本はもちろん、劇やオペレッタなどにもなり、子どもたちが何らかの形で出会っている作品のひとつです。ウサギさんが作った小さないすがきっかけで、優しい言葉と思いがリレーのように次の人(動物)につながっていく物語ですが、原作の絵本は1981年の出版以来、2017年11月で124刷100万部超のロングセラー作品です。子どもたちは作品を通し「どうぞ」という言葉を体験で覚え、身近に感じているのでしょう。NHKのキャラクター「どーもくん」のマスコットを手に「どーぞ」が正しいと主張していたSちゃんは、園で行った舞台劇「どうぞのいす」の、ウサギさん役だったそうです。

『どうぞのいす』

香山美子/作
柿本幸造/絵
ひさかたチャイルド

「どいたまて! 」

元気な声に振り向けば、満面の笑みのY君(1歳)。おじいちゃんに抱かれて本の自動返却機に本を入れ、カウンタースタッフから「ありがとう」と声をかけられていたようです。どうやらご本人は「どういたしまして!」といっていたのでしょう。返却機の中には『ありがとう どういたしまして』が入っていました。その表情があまりにもかわいらしいので、つい「Y君、ありがとね」と声をかけてしまい「どいたまて!」をもう一回、いってもらいました。役得です(笑)。

「あったか言葉」の対義語として「ちくちく言葉」がありますが、以前テレビで小学校4年生の学級の取り組みとして担当する男性教諭が「自分があったかいと感じた言葉を集めよう」と呼びかけ、児童各人がノートに記録・整理し、紙に書いて黒板に貼り出し「あったか言葉」をみんなで毎日読みあげていました。一方、自分がいやだと思う「ちくちく言葉」は、紙袋にまとめて入れ、封印していました。こちらは児童のアイデアだったようです。でも人はときとして、「ちくちく言葉」に属する言葉でしかできない、勇気や決断もあるのでは?

『ありがとう どういたしまして』

おおとも やすお/作
童心社

「ぼく いやだ! ぼくも いや!」

たろうのともだち』では、自分より強く大きなものからいやなことをされないように、コオロギはヒヨコの、ヒヨコはネコの、ネコはイヌの、というように、次々家来になっていきます。でも、たろうは「ぼくいやだ!」ときっぱり断りました。すると、家来になったみんなも次々に「ぼくも いや!」「ぼくも いや!」。こんなふうに、「ちくちく言葉」でも、必要なときには適切な量をきちんと使えることが大切ということを、幼い子にも伝えられる作品です。

保育者のみなさんは毎日子どもたちの会話を耳にして、子どもの言葉の背景にあるたくさんのことをうかがい知ることでしょう。「あったか言葉」をシャワーのようにたくさん浴びている子どもは自分もまた、「あったか言葉」を周囲に注ぐことができます。反対に「ちくちく言葉」を周囲にまき散らす子どもは、その子自身が日常的に「ちくちく言葉」を浴びせられているのかもしれません。まさに、言葉の冷や水です。

『たろうのともだち』

村山桂子/作 堀内誠一/絵
福音館書店

「わたしの話す ことばは どんな かたちや 色を しているだろう」

ことばのかたち』は、教員や保育者向けの研修でときどき読み聞かせをしている絵本です。保護者会などで、言葉で言葉に関することを伝えるのが難しいと感じたとき、いかがでしょう?

読むだけでいわんとしていることが伝わるようです。子どもへは絵本で伝えられることがたくさんありますが、大人へは子どもより多くの言葉が必要と感じるのは、私だけでしょうか?

『ことばのかたち』

おーなり 由子/著
講談社

4月と5月のおすすめ絵本

テーマ「おでかけ」

3歳以上向け(参加型)

『トコトコとこちゃん』

真木文絵/文
石倉ヒロユキ/絵
ひさかたチャイルド

主人公は小さなかばんのとこちゃん。とこちゃんには、何がはいっているのでしょう?「トコトコ とこちゃん、げんきに おでかけ」すると、さまざまな動物が出てきて「つれてって」。とこちゃんは「もっちろん」と答えます。子どもたちと掛け合いにして「もっちろん」をいってもらってもいいですね。しかけ絵本ではありますが、シンプルなデザインゆえに、園でも安心して子どもたちに手渡せます。

0・1・2 歳向け

『おでかけしようか』

大阪YWCA 千里子ども図書室/文
大塚いちお/絵
福音館書店

「おでかけしようか/くつを はいて/ぼうしを かぶって/すいとう/リュック」と、お出かけまでの支度を丁寧に追っています。幼い子にとって身近なものが明るい絵と語りかけられるようなリズムのある言葉でつづられ、お出かけの気分を盛り上げます。表紙を開いた見返し部分には、空色にお花がいっぱい描かれて伸びやかな開放感があります。言葉が少ないその分、絵をしっかり見せてあげてください。「あかちゃんの絵本」シリーズの1冊です。

異年齢向け(参加型)

『へびくんのおさんぽ』

いとう ひろし/作・絵
すずき出版

へびくんがお散歩に出かけました。すると道の真ん中に水たまり。「なーに こんなの へっちゃらさ」と、へびくんが体を渡すと…その背中を「わたらせて」と次々に動物が現れます。ぞろぞろ、どかどか、どすどす、どしんどしん。いったい誰が渡っているのでしょう? オノマトペの部分に子どもたちが言葉や身ぶりで参加するのも楽しいですね。

4歳以上向け(遊び)

『どこまでゆくの?』

五味太郎/作
福音館書店

「おでかけします いってきまーす/いってらっしゃーい どこゆくの?/どこまでも ゆくの ずっととおくまで/きをつけて/きをつけまーす」。家族とこんな会話をしたら、さあ、出発。あとは最後のページにたどり着くまで文字はありません。あるのはどんどん進める道とシンプルな街並み。たどってたどって、さあ、どこに行き着くのでしょう? 何回でも楽しめます。

『新 幼児と保育』2018年4/5月号より

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