「おおきくなったら…?」がイメージできるワクワク絵本【児玉ひろ美のこだま文庫】

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JPIC読書アドバイザー

児玉ひろ美

ここは、みなさんの記憶の隅にある懐かしい1冊や気になりながらも読まないままの1冊、そんな本に再び出会うためのオンライン図書館です。今回は、子どもが「おおきくなったら」をイメージして楽しめる絵本を集めました。

児玉ひろ美さん

JPIC読書アドバイザー、台東区立中央図書館非常勤司書。日本全国を飛び回って、絵本や読み聞かせのすばらしさと上手な読み聞かせのアドバイスを、保育者はじめ親子に広めている。大学にて「児童文化」の講師を担当するなど、幅広く活躍。著書に『0~5歳子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』(小学館)。

未来への想像をふくらませる絵本

『おおきくなったら』

ふくだ としお・ふくだ あきこ/作
幻冬舎

「なれるかもしれないじゃん!

「にわとり!」「……とり!」「かえる~」「……る~」「ちょうちょ!」「……ちょっ!」と、まるで追いかけっこをしているような声が聞こえていました。どうやら5歳のSちゃんと3歳の弟T君のようです。そっと様子を覗きに行くと、『おおきくなったら』を読み聞かせてもらっている最中。

穏やかで優しい読み手は、ふたりの大好きなおじいちゃんです。おじいちゃんはふたりの会話の間合いをとってページを繰り、いつものごあいさつの「少しばかり、お邪魔いたします」と、同じ口調で読み進めています。日曜日ごとの朝の穏やかなひとときです。

ところが、「なれるかもしれないじゃん!」と、Sちゃんの大きな声がその空気をかき混ぜました。「かたつむりも、ありも、大きくなったら、そうじゃないのになれるかもしれないじゃん」。どうやらSちゃん、絵本の結末に大いに不満な様子です。つられて弟のT君も「……じゃん!」。

「大きくなったら……」を楽しむのは子どもの特権です。そこには、たくさんの選択やたくさんの可能性があって、何にだって、なれるかもしれない未知数を含んでいることを、幼いふたりは本能で感じ、疑いの余地もないのでしょう。

「園児に戻ってもう一回、大きくなりたくなった」

といいながら、『おおきくなったら なりたいなあ』を返却してきたのは、高校1年生のRちゃん。キャリアデザインの授業で発表する絵本を探していたので紹介しました。キャリアデザインとは、自分の職業人生を自らの手で主体的に構想・設計=デザインすることをいい、中高生の授業単元だったり、大学でキャリアデザイン学部があったりします。

そんなこともあり、復刊を望まれ、2005年に改訂新版(初版は1983年)となった絵本です。実際に保育園で取材を行い「どんな大人になりたいか、どんなことをする人になりたいか」、子どもの思いを描いています。時代を感じさせる部分も多々ありますが、子どもの望む大人のあり方や幸せは、35年を経た今も同じだと実感します。

『おおきくなったら なりたいなあ』

かこ さとし/絵・文
ポプラ社

子どもの成長エネルギーを感じられる絵本

『 ひょい ひょい ひょい』

あきやま ただし/作・絵
すずき出版

「何でもできそうな気がして、若返った気分」

ひょい ひょい ひょい』と『きょだいな きょだいな』は、どちらも、子どもの成長する爆発的なエネルギーを感じさせる作品で、子どもはもちろん、大人にも人気があります。特に『ひょいひょい ひょい』はご高齢の方の集まりでも人気があり、84歳の女性が「何でもできそうな気がしてきて若返った気分よ」と、楽しんでくださったのが印象的です。

『きょだいな きょだいな』は、お話し会に参加したものの、遊び疲れてエネルギー切れになり眠ってしまった我が子を抱っこして参加したお母さんが「あ~、なんだか懐かしくて、すっとしました」と喜んでくださいました。

『きょだいなきょだいな』

長谷川摂子/作 降矢なな/絵
福音館書店

『あしにょきにょきにょき』

深見春夫/作・絵
岩崎書店

「大きくなったら、気持ち悪いって」

これまでご紹介したように、大きくなることをテーマにした作品には、成長と巨大化の2通りがありますが、これも後者のほうの1冊で、子どもからは大人気ですが大人で嫌う人も少なくない『あしにょきにょき』の続編で『あしにょきにょきにょき』。

中には足が伸びることより、主人公の冷静さが気持ち悪いという方もいらっしゃいますが、子どもたちは伸びる足も冷静過ぎる主人公も、どちらも大好きなようですね。

「大きくなったら、立派な兵隊さんになるのが、夢でした」

冒頭のSちゃんとT君のおじいちゃんが翌週、『おおきくなったら』を返却しながら教えてくださいました。「そんな時代だったんですよ」ともおっしゃっていました。

私たち子どもにかかわる仕事にある大人は、子どもたちが「大きくなったら…」と描く夢に、「そんな時代」が忍び込まぬよう、しっかり目を凝らしていなければなりません。その責任があるのです。SちゃんとT君のおじいちゃんの言葉に、その思いを強く持ちました。

6月と7月のおすすめ絵本

テーマ「へんしん」

『あれあれ? そっくり!』

科学絵本・2歳から4歳向け

今森光彦/著
ブロンズ新社

苦手な方がいらしたら申し訳ないのですが、虫の写真絵本です。でも、子どもたちの前では「気持ち悪い」「嫌だ」などのマイナスの言葉は控えましょう。事前に虫の居場所を確認し、必ず指さしをして、全員が納得をしてから進めます。また、巻末の説明をよく読み、適宜補足してみましょう。終了後、絵本は子どもたちの手の届くところに置いてください。

『スープになりました』

参加型絵本・0歳から2歳向け

彦坂有紀・もりもといずみ/作
講談社

浮世絵と同じ技法で制作された木版画刷りの温かみのある作品です。1回目は普通に読み聞かせ、2回目以降は「ごくっ」「ごくごく」「こくこく」「こくり」「ごっくん」を一緒にくり返したり、スープカップを持つしぐさをしたりしても楽しいですね。食育にも活用できます。

シリーズで『パン どうぞ』『ケーキ やけました』『コロッケ できました』もありますのでシーンに応じて、選ぶとよいですね。

『へんしんトンネル』

参加型絵本・異年齢向け

あきやま ただし/作・絵
金の星社

上でご紹介した『ひょい ひょい ひょい』と同じ作家の作品です。見返し部分に「使用上の注意」が掲載されていますので、よく読んで指示に従えば、楽しいことが起きるでしょう。保護者会など、大人の集まりの際にもコミュニケーションがとれて和やかなムードになります。絵本がよく見えるようしっかり持ってください。シリーズで続きもあります。

『このあいだに なにがあった?』

遊び絵本・4歳から6歳向け

佐藤雅彦+ユーフラテス/作
福音館書店

表紙からすでに楽しい写真絵本です。クイズ形式にして楽しめます。答えはさまざまな表現の仕方がありますので、子どもたちの言葉をしっかり聞き取りましょう。裏見返し部分に簡潔な答えが出ていますので活用するとよいでしょう。

答えは言葉だけではなく、絵で表現させて、グループごとの発表形式も一案です。オリジナルを作るなど、いろいろな遊びに発展できます。

『新 幼児と保育』2018年6/7月号より

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