はせがわ さとみさん「日常に少しの想像力を」【表紙絵本館】

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『新 幼児と保育』は、毎号絵本作家さんの描きおろしの絵が表紙となっています。表紙を飾った絵本作家さんの幼年期のエッセイを紹介していきます。今回は、はせがわ さとみさんです。

「日常に少しの想像力を」

子どものころの記憶をたどると、思い出すのは不思議なほど何げない日常ばかりです。わたしは静岡県の伊豆地方で幼少時代を過ごしました。まわりを見渡せば自然ばかり。山や田んぼが広がる田舎の町です。でも毎日、退屈することはありませんでした。

祖父と祖母が花を育てる仕事をしていたので、大きな温室があり、そこが姉と妹と私、3姉妹の遊び場でした。いつも花のいい香りがして、ミミズや小指の先くらいの小さなカエルが、ぴょこぴょこ飛び出してきました。雨が降ると、ばらばらと温室の屋根をたたく雨の音以外何も聞こえなくなって、土や草木が湿るにおいに包まれながら、別世界に迷い込んだような気分でした。

家の北側にある、木でできた物置小屋はいつも真っ暗で「こわい、こわい!」と言いながら入るのを楽しみにしていました。中に入って扉を閉めると昼間でも真っ暗闇なのです。ああ、きっとおばけが住んでいるにちがいない、と本気で信じていました。

庭の片隅に秘密基地をつくり、そこに宝物を持ち込んで過ごしたり、町のあちこちにある用水路に葉っぱの舟を流しては、それを追いかけたりしました。水路は途中、トンネルのように道路の下をくぐるため、トンネルの出口に先回りして舟を待ちます。やってくる舟を見つけたときの喜びといったら!

あのころの記憶は体の中にしっかりと残っていて、今お話を書くとき、絵本をつくるときに湧き出てくるのです。小さなわたしにとって庭はジャングルで、用水路は大海原で、温室は探検するのに十分な不思議な世界でした。特別なことは何もなかったけれど、想像力とともに豊かに積み重なった子ども時代を、今しみじみとうれしく感じます。

はせがわ さとみ

静岡県生まれ。東京都在住。
絵本ワークショップ「あとさき塾」で学ぶ。
2012年、第18回おひさま大賞最優秀賞を受賞。 絵本作品は『おばけのドレス』(絵本塾出版)、 『のはらでまたね』(文溪堂)、『かえるのラミー』(BL 出版)などがある。

『新 幼児と保育』2022年秋号より

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