webアンケート&実践レポート「振り返り」の共有 どうしていますか?

NPO法人 子ども家庭リソースセンター副理事長

渡邊暢子

保育者それぞれが行う、日誌や保育記録による「振り返り」。これをもとに、ともに保育を行う保育者間で対話の時間を大事にしたいですね? 子ども理解をより深め、明日の保育にもつながる「振り返りの共有」。気になるみんなのアンケート結果&ふたつの園の実践レポートを紹介します。

お話

渡邊暢子 先生

わたなべ のぶこ。元東京都公立保育園園長。退職後、保育士養成校講師、電話相談員などを経て、NPO法人子ども家庭リソースセンター副理事長。

アンケート

編集部と[ほいくる]では、「振り返りを共有すること」について、アンケート調査を実施しました。その結果、回答者の多くが振り返りの共有を、プラスイメージでとらえていることがわかりました。

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アンケート:「日々の保育のふりかえり している?」
調査期間:2020年11月
調査対象・方法:ほいくるユーザーによるオンライン調査
有効回答数:214件
※アンケートの回答を一部抜粋して構成しています。また、回答内の表記などを変えている場合があります。
※グラフは小数点以下を四捨五入して作成。

Q1 日々の保育で行うそれぞれの振り返りについて、ほかの保育者と対話(雑談も含む)をしていますか?

している96%
していない4%

⇩ Q1で「している」と答えた人に質問

Q2 おもにだれと対話をしていますか?

Q2 円グラフ

Q3 どのぐらいの頻度で話をしますか?

Q3 円グラフ

Q4 1回、どのぐらいの時間、話をしますか?

Q5 どのタイミングで話をしますか?

Q5 円グラフ

Q6 振り返りの共有は、保育に生かせていますか? その理由は?

Q6 
生かせている64%
生かせていない4%
わからない32%

振り返りの共有が生かせていないことの原因は?

振り返りの共有ができないまま、話し合いが終了していたり、気になる問題点の羅列になってしまったりしているからではないでしょうか。

なぜ振り返りをするのか、誰のためにするのか……、一度立ち止まって考えることも必要です。話し合いは楽しくできることも大事ですね。

同僚と対話すること、振り返りを共有することの大切さ

アンケートでは多くの人が、振り返りをもとに話し合いの時間を持っていることがわかりました。さらに、そのうちのおよそ6割の人が、振り返りの共有を「保育に生かせている」と答えています。

「振り返り」について語り合い、共有することは、それまで見えなかった子どもの姿が見えてきたり、自分の保育を考えたりすることにつながります。ほかの保育者の考えに触れることによって、知識や視点が豊かになることもあるでしょう。

振り返りは評価するだけではなく、明日の保育につなげ生かすためのもの。ダメだったことを指摘し合うのではなく、意見を交わすなかでよりよい保育を探っていくものです。このような対話を重ねることは、同僚性を築くことにもつながっていきます。

ポイント! 振り返りを共有することは、次のような意味があります

  • 記録は、保育者間で子ども理解を共有するツールになる。
  • ほかの保育者の記録に触れることで、自分に見えていなかった子どもの姿や考え方を知る機会になり、保育に対する知識や視点が見えてくる。
  • 記録は、園と保護者が子どもを支え合うための情報になり、保育に対する保護者の理解を深めることに役立つ。
  • 同僚との対話で、互いの保育に対する考え方、思いを理解し合うことにつながり、仲間意識やともに成長する関係(同僚性)を築くことができる。

振り返りの実践紹介

振り返りの共有の仕方、対話の時間の設け方は園によってそれぞれ。「どんな話をしている?」「どんな時間に対話の時間を持つ?」。ふたつの園の取り組みを聞きました。

レポート1 “自由に発言できる空気”を大切に、出来事を伝え合う

まちのてらこや保育園(東京・中央区)

お話●近藤みさき園長兼保育系作家

認可保育所。1〜5歳まで計30人を同年齢クラスで保育。
日誌(ドキュメンテーション)や書類のパソコン管理、連絡帳はスマホと、ICT(情報通信技術)化を進める同園は、遊び、給食など、必要なところに人の手を惜しみません。「振り返り」の時間は一度やめてみたものの、職員たちからの要望で復活したそうです。

【回数・時間】
ほぼ毎日、午睡時間に日誌を書いた後、15〜20分。
【参加者】
常勤職員全員が参加。
【もとにするもの】
各自の日誌および、その日の活動。
【内容】
早番と遅番、それをつなぐ中番が、各クラスの出来事を伝え合い、気になることがあれば話し合う。自由に発言できる空気が大事なので、園長は全体を見守りながら参加。

この日の出来事
散歩先の公園で

1歳と3歳は手をつないで同じ公園に行き、2歳は別の公園へ。3歳クラスは、前の日にふたりしか木登りができなかったのが、子ども同士で教え合って全員登れるようになっていたので、この日も木登り。2歳は鉄棒やジャンプ遊びをした。

木登りをする子

〈2歳クラス担当の振り返りから〉

「数日前に3歳が同じ公園で鉄棒にぶら下がっている姿を見て、何人かがやりたいといって鉄棒をしました。A君は握力がすごくて、ひとりでぶら下がることができ、補助すれば逆上がりもできそうでした。まわりにいた子の中で B君だけが興味を示さなくて、できないのかなと思いました」

「そのあと、木の切り株の上にCちゃんが乗ってジャンプをしていて、ほかの子にも声をかけてやってみました。E君は登るのもジャンプも手をつなぐなどの配慮が必要、Fちゃんは怖いのか、補助してほしいというアピールをしてきたので、手をつないでジャンプをしていました」

「みんな、不思議と落ち葉には興味がなくて、ちょっと興味を持ってほしいなと思って落ち葉を拾って集めて見せたりしたんですが、だれも拾おうとしなくて、アレ?  と思いました」

会話例

〈1歳クラス担当の振り返りから〉

「今日は、秋の自然に触れることができましたが、だんだんその場に慣れてきて、ほかのところにも行ってみようということになりました。Aちゃん、Bちゃんはかけっこが楽しいといって、あの公園は広いので少しばらけてしまって。私は3人を見ていたのですが、Cちゃんが戻りたくないというので話をしていたら、よんちゃん(保育者)がバギーを持ってきてくれて、そのバギーに乗せてそのまま帰ることができたので、すごくありがたかったです」

会話例

〈3歳クラス担当の振り返りから〉

「今日のよかったこととして、遊びがつながっているな、ということを思っています。昨日から木登りがブームで、私は手を出さずに見守るようにしていたら、『足がこうだよ』と子どもたち同士が教え合って、全員が登れたんですよ。それがすごく楽しくて。今日は1歳さんと一緒なので最初は川のほうに行ったんですけど、帰るときに3歳の子を集めて、『1歳の子と一緒に帰るのと、木登りをするのとどっちがいい?』と聞いたら、全員一致で『木登り』というので、木登りに行きました。ブランコに乗れなかった Aちゃんが木登りができるようになったのはすごいな、と思って。Aちゃんは『木が重い』といっていて、いい表現をしているなぁ、と思いました」

会話例

「予定外でしたが、1歳さんと分かれて木登りに行ってよかったなと思いました。ただ、1歳の先生には「木登りに行ってから戻りますね」と報告したつもりが伝わっていなくて、心配をかけてしまいました。「指示を出すときは顔を見て伝える」とみんなで決めていたことができなかったのが今日の反省です」

《この日の振り返りから……》

振り返りの様子

今日は子どもの発達がよく見えた振り返りでした。子どもは保育者によって見せる顔、見せる姿が違っていたりします。保育者によっても、かかわり方はそれぞれで、見えている姿、見えていない姿があります。振り返りは多角的な方面から意見を交わすことができる場。子どもの「知らなかった姿」を共有することで、言葉かけから変わっていくこともあると思っています。

同僚の「ナイスフォロー」の話も出ました。次も同じ方法でうまくいくとは限りませんが、共有することで、経験のストックが増えて、次につながるヒントにもなります。

話し合いの時間を持つことで日誌に書く課題も明確になります

日誌は PCで管理。日誌を書くことで考えがまとまるし、話すことで考えや課題が明確になります。文章が苦手な人もいるので、「箇条書きでもOK」にしたところ、日誌を書くハードルが下がりました。今ではみな、わかりやすい文章が書けるようになりました。中番の保育士は、子どもごとに詳細な日誌を作り、職員や保護者と子どもの様子を共有するのに役立ててくれています。

日誌には園長のコメントを添える

自分が保育士時代、日誌は書いてもそこに反応があるわけではありませんでした。職員と話し合い、園長のコメントを加えることにしました。それによって、日誌でも園長と個々にその日の振り返りをできることにつながりました。翌日の保育のヒントにもつながるようで、もうひとつの振り返りの場になっています。

パソコンに向かう人

レポート2 「 ちょっと話そう」で対話がスタート。日々の振り返りはクラス単位で

めぐみ第二保育園(東京・府中市)

お話●内藤孝子園長

認可保育所。園児は0〜5歳まで89名。いろいろな場面で振り返りを行っている同園では、問題があったときには「改善策まで話す」、そして必ず「笑顔で終わる」ことを意識しています。そのベースにあるのは、子どもの笑顔は職員の笑顔がないと生まれないという園長の考えです。

【回数・時間】
休憩前に各クラスで行うほか、「即話そう会」を随時開く。
【参加者】
常勤・非常勤の保育士、看護師、給食担当など、そのときのテーマに応じて参加。
【もとにするもの】
各クラスの日誌や「振り返りノート」。
【内容】
「即話そう会」は、気になることや、相談されたことを解決したいときに話します。

クラスごとの「振り返りノート」で共有

月2回のカリキュラム会議は全員参加で行いますが、日々の振り返りは午睡中の休憩前にクラスごとに集まって話します。各クラスに、子どもの様子や気になることなどを書き留めておく「振り返りノート」を用意していて、これを話し合いの場に置いています。子どもの姿を全員で共有できるのはもちろん、ノートを1冊はさむことで話がしやすくなる場合もあるからです。気になることが起こったときは「あのときはどうしてた?」とノートを見直すことで、気づきを促すツールにもなっています。

振り返りの様子
毎日午睡の時間を利用して振り返り。クラス単位なので本音で話しやすい。

めぐみ第二のキーワード

ちょっと話そう
「ちょっと」なら、構えずに気楽に話しやすく、荷物を片づける必要もないので集まりやすい。軽く声かけをして、対話を始める。

だからどうする?
明日の保育につながる解決策を見つけることが大切。現状の問題点を挙げるだけで終わらず、「だからどうする?」まで、話し合い、問題を持ち越さないようにする。

非難する場ではない(評価ではない)
振り返りの目的は、保育の「自己評価」であり、非難の場ではない。内容によっては、クラス内だけで話をとどめるなど、注意が必要。話し合いは笑顔で終わることが、仕事への意欲につながる。

「 即話そう会」で問題があればすぐに対話を

「その日のことはその日のうちに解決する」をモットーにしているので、「ちょっと話そう」と声をかけて、関係者に集まってもらいます。あらかじめ解決策を考えてから話すようにし、その日の出来事はその日のうちに解決します。

話合いの様子
0歳児の離乳食について、看護師や栄養士も参加して話し合い。問題点とその解決策はすべての職員で共有する。

振り返りのポイントをチェック!

それぞれの振り返りができていてこそ、対話によって課題が明確になったり、解決策も出やすくなります。日誌、記録による振り返りのポイントを渡邊暢子先生に聞きました。

「今日の保育を話す」この積み重ねが子ども理解を深める

今日の保育は子どもにとってどうだったのか……その視点を忘れずに、話の輪に加わり、子どものエピソードや自分の保育の話を恐れずに話すことから始めてみましょう。

日々の振り返りのくり返しが、次の保育のヒントとなり、子どもを見る目を広げます。そして、チームワークを作り、同僚性を育み、子どものおもしろさや保育の楽しさを実感させてくれるのではないでしょうか。

日々の振り返りに大切なこと

実践レポートの2園でも行っていますが、振り返りは、日誌や振り返りノートをもとに話し合われています。この記録が大切です。記録を書くということは、子どもの理解を深めることにつながります。子どもは遊びを通して成長するので、その日の子どもの遊びの様子を書き留めることで、子どもの興味や関心を読み取ることができます。また、子どもの言葉やしぐさ、表情、行動などの記録も、発達から見たらどういう意味があるのかを考える材料になります。

保育についての、これでよいのかという迷いや悩みを記録することも、子どもと自分の関係や保育実践のあり方を見直す材料になります。

振り返りの「視点」「観点」「ポイント」

記録を書くのは保育がいち段落してからです。この「思い出しながら振り返り、客観的に考える」時間こそが重要で、このことが、遊びの展開方法や援助の可能性など、明日の保育を考えることにつながります。

また、保育者の視点で見たり考えたりしたことを、子どもの視点で見直すと、まったく違ったものになります。保育の振り返りを通して、子どもの生活や実態を改めて把握するとともに、子どもの視点から保育をとらえ直すことが、保育の質の向上につながります。


文/山崎ひろみ
構成/阿部美保子(エディット)
写真協力/まちのてらこや保育園、めぐみ第二保育園

『新 幼児と保育』2021年2/3月号別冊ふろくより

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