よけいなひと言、言葉かけのポイント

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NPO法人 子ども家庭リソースセンター副理事長

渡邊暢子

言葉を獲得する時期の子どもにとって、大人からの言葉かけは重要です。でも、それを意識するあまりに、必要でないひと言まで発してはいませんか? 0・1・2歳の言葉かけで心得ておきたいポイントを渡邊暢子先生に教えてもらいました。

監修

渡邊暢子 先生

NPO法人 子ども家庭リソースセンター副理事長。公立保育園に37年勤務(内、園長職27年)ののち、保育士養成校講師、電話相談員などを経て現職。

言葉かけはタイミングの見極めが肝心

保育の場では、子どもを受容する気持ち、また、指導の一環としてたくさんの言葉を発していると思います。ですが、自分が発した言葉を子どもがどう受けとめているか、それを考えることは意外と忘れがちなのかもしれません。

たとえば、子どもが静かに夢中になって遊んでいる場面で、突然背後から「何してるの? 楽しそうだね」「電車並んだね」などと声をかけている姿を見かけることがあります。声をかけること、一緒に遊ぶことは保育者としての大事なかかわりですが、子どもの世界に何の前触れもなく踏み込んでいくのはどうでしょうか。

幼い子どもであっても、その子なりの世界を持ち、意思や意欲を持っています。言葉をかけることが重要なのではなく、「その子どもに」「どのタイミングで」「どんな言葉をかけるか」を考え、工夫をしてかかわることが大切です。

それって必要? ちょっと気になる言葉かけ事例集

よかれと思ってかけた言葉で、子どもが意欲を失ったり、傷ついたりすることもあります。現場でありがちな、ちょっと気になる言葉かけ事例をリサーチ。渡邊先生にチェック&アドバイスしてもらいました。

子どもの言葉を先取りしてしまう

「あーあ、紙が欲しいの? 持ってくる? いいよ、待ってて、先生持ってくるね」
子どもが一生懸命話そうとしているのに、全部を聞こうとせずに先に話してしまう保育者がいます。子どもが言葉をはさむすき間がありません…。
(2歳児・私立保育園)

アドバイス

子どもをよく見ていたからこそ、紙が欲しいのかなということに気づき、声をかけることができた。子どもの思いに応えた親切で、やさしいかかわりと思われる場面ですが…。2歳という年齢から考え、言葉で自分の意思を伝えることを保育のねらいのひとつとしてとらえることも必要です。「言葉を引き出すことを大切にしよう」と意識すると、子どもへの声かけの方法も変わるのではないでしょうか。

子どもより先に盛り上がる

子どもが両手を広げて、ドンドンドン、とわざと音を鳴らして歩いてきた。すると保育者が…。
「怪獣きたね、キャー怖い! うわー! たすけてー!」。子どもは怪獣だなんてひと言もいっていないし、保育者のほうが盛り上がっているし…。
(2歳児・私立保育園)

アドバイス

「子どもと楽しんでいますよ」「保育をしていますよ」という思いが出てしまったのかもしれません。確かに2歳児ぐらいだと、子どもが発想したことを誰かと共有して楽しむためには大人の手助けが必要です。そのときの保育者の立ち位置が大事で、「さあみんな! ついておいで」と先頭を行くか、それとも子どもの状況を見ながら後をついていくか…です。年齢的にいえば両方あってもいいと思いますが、虚構の世界で遊ぶ子どもの姿を大事にしながらのかかわりが必要で、子どもの世界にそ〜っとおじゃまして、一緒に楽しむ。言葉かけにもそんな心遣いが必要なのではないでしょうか。

思い込みや決めつけで声をかける

ひとり黙々と絵を描いていた2歳のDちゃんに「ゾウさん描いてるんだ。上手だね」と担当保育者。いやいや、もしかしたらネズミかもしれないじゃない…。さらに。
「ねえ、なんでゾウの鼻って長いか知ってる?」
Dちゃんは答えなかったけど、お絵描きの手が止まってしまった。
(2歳児・私立保育園)

保育室の片隅で、茶碗と箸を手に遊んでいたTくんに、「あ! おいしそうなごはんだね。先生にもちょうだい」と声をかけてしまったのですが…。よく見たら床に並べて遊んでいたようで、どうやらおままごとじゃなかったみたい。
(2歳児・私立保育園)

アドバイス

保育者側の思い込みや決めつけで声をかけてしまうことは、少なくありません。2歳児は自分の思っていることと表現することを一致させるのが難しい年齢ですから、「ゾウさんだね」といわれれば、ゾウさんにもなり、「おいしそうだね」といわれれば食べ物になるかもしれません。いずれの場合も、子どもをよく観察すること。子どもに言葉で表現する機会を作るとしたら、「なにを描いたのかな?」「なにをしているのかな?」と聞いてみるとよかったかもしれません。

場を取り持ってしまう

ブロックの取り合いが始まってしまったらしく、Aくんは怒って譲らない、Bくんは泣いている…。Cくんがオロオロしながらも、Bくんに寄り添って「欲しいの?」と問いかけたとき、同僚保育者が駆け寄り、次々に言葉をかけてその場を収めてしまった。
「どうしたの、だれが持っていたの? Aちゃんが取ったの? Bちゃん?  Cちゃん見てた?」
これでよかったのでしょうか?
(2歳児・公立保育園)

アドバイス

2歳ごろになるともの取り合いでのトラブルはよくあることですが、解決を急ぐことも、誰が悪いというジャッジをする必要もありません。見ていない場面で起こったことに対しては、危険でない限りはひと呼吸おいて様子を見ることも必要。そのうえで誰に声をかけるのかを判断してみましょう。

「Aくんはどうして怒っているの?」「Bくんは泣きたいくらい悔しいのかな?」「Cくん、なぜけんかになったかわかる?」などとたずね、状況を把握したうえで、言葉のやりとりを援助します。子どもは相手の考えを知ったり、自分の思いを伝えることを通して、わかりあえる心地よさを知り、友達との関係性を豊かにしていきます。

子どもの行動を実況中継する

子どもの行動をいちいち実況中継する人がいます。0歳児が穴に玉を入れて落とす玩具で遊んでいるときも…。
「ぽっとん! 落ちたね」「ぽっとん! すごいね!」「ぽっとん! ぽっとん! うわー! 上手!」
これってアリですか?
(0歳児・公立保育園)

アドバイス

黙っている=保育をしていないと思われるとか、「なぜ言葉をかけないの?」といわれた経験があるなど、もしかしたら理由があるのかもしれません。

確かに言葉を獲得していく過程では、まわりの大人の言葉かけは大切です。でも、どんな言葉が快く耳に響き、子どもがどう受けとめているのかがポイント。状況をすべて言葉にして伝えることは必要ではありません。保育者の楽しそうな姿に満たされる思いになることだって、伝え合いの形といえるのです。

話の腰を折る

ハロウィーンのパーティーごっこをしているとき、ある子どもが「パーティーにはピザがいる」といい出し、それを聞いたAちゃんも「ピザ作る!」と目を輝かせた。すると担当保育者が冷静にひと言。
「Aちゃん、ピザ好きだっけ?」
一瞬、きょとんとした様子のAちゃん。盛り上がっていた気持ちに水を差してしまったように感じた。
(2歳児・公立保育園)

アドバイス

もしかしたらAちゃんはピザを知らないのかもしれません。担任ですからそれを知っていたのでは? ですが、そうであっても、現実に引き戻すような言葉かけは必要ありません。ピザというものを知らなくても、自分なりに世界を想像して遊べるのが2歳児。パーティーといううれしくて楽しい雰囲気の中で、友達が提案した「ピザ」という言葉に楽しさを見つけて目を輝かせたのでしょう。そこに共感することが大切なのです。

大きな声で呼ぶ

1歳児を担当しているNさんは、とにかくいつも叫んでいます。「Aちゃーん! こっち来てって! おーい先生こっち! こっちに来てー! おむつ替えるからー!」
そんなに叫んでも、子どもには響いていないようです。
(1歳児・私立保育園)

アドバイス

大声は保育をしていることのアピールなのでしょうか。1・2歳児の時期は、言葉で行動を促すときには保育者が子どものそばに行って、そのときに必要なこと(行動)を言葉で伝え、本人の意思を確認しながら(理解しているかを知る意味でも)行動をともにすることが重要です。そう考えると、遠くで大声を張り上げる必要はないですし、聞く必要のない子にとっては、保育者の声が騒音になる可能性も。夢中で遊んでいる子どもの思考をじゃましないように配慮したいものです。

0・1・2歳の言葉かけ 心得ておきたいポイント

子どもの思いを置き去りにせず、適切な言葉、タイミングで言葉をかけるためには? 心得ておきたいポイントをまとめました。

「受けとめ、共感する」こと

子どもが夢中で遊んでいるとき、何げなくそばに行って子どもと同じ目線ですわり、子どもの遊びの様子をよく観察してみる。ひと呼吸おいて考えてみると、目の前にいる子どもにどんな言葉をかけたらいいのかが、見えてくるのではないでしょうか。

言葉かけをするときに一番に心得ていたいのは、子どもの気持ちを「受けとめ、共感する」ことです。

たとえば、「まだ遊びたい」という思いがあるときに、「もう終わりよ」「ダメよ」と一方的にいわれたらどうでしょう。特に1・2歳児は自我が芽ばえ、自己主張が強くなる時期。「終わり」といわれても気持ちを上手に切り替えることは難しく、わかってもらえないことで反発したり、それが続くと遊ぶことに集中できないようになることもあります。

この場合は、「遊びたい」という子どもの思いを受けとめ、子どもなりに時間との折り合いをつけることができるように工夫をすることがポイント。たとえば遊びから食事に移行するときには、10〜15分前ごろに「あと、ちょっとたったら、片づけするよ」などと声をかけておく。それでもうまくいかないときには、「そうか、まだまだ遊びたいんだね。じゃあ、ごはんを食べたらまた遊べるようにここにおいておこうか?」「先生はごはんの用意をしているから、終わったら片づけてきてね」など、納得感が得られるような提案をすると、切り替えがしやすくなることがあります。

保育者にとってちょっと困ったなということも、いまを生きる子どもにとっては大事な成長のひとつ。丁寧に対応することで、次のステップへとつながるかかわりになります。

子どもが表現することを”待つ”

保育という営みで、子どもが望んでいるだろうと思ったり、こんなことをしてあげると喜ぶだろうと思ったりして、先取りして声をかけたり、用意をしたり、「次は〇〇しようね」と誘導していることはありませんか? あるいは、声をかけること・アクションを起こすこと=保育をしているという安心感や、そういうまわりの空気に流されていることはないでしょうか。でも、これでは自分の意思を持つ表現者としての子どもの思いはどうでしょう。

言葉を獲得していく時期の子どもにとって、自分のやりたいことや泣いている意味を聞いてもらったり、選択できる場があったりすることは、自分の思いを表明する(子どもの意見表明権)機会を持つという意味でも大事なことです。言葉を使ってコミュニケーションをすることができるようになる2歳児にとってはなおさら、保育者が一方的に話して「子どもが理解した」と思ってしまうことは、子ども自身の話す機会を奪うことになってしまいます。

言葉を通してやりとりすることを大事に育てていくためには、子どもが自分なりの思いを言葉にして伝えようとすることに対して、辛抱強く、ゆったりと ”待つ“姿勢も求められるのではないでしょうか。そしてこれには、同僚保育者の理解や意識の共有が欠かせません。保育者間で言葉のやりとりを重ねておくことも大切です。

年齢別「受けとめ、共感する」言葉かけのポイント

発達の過程によっても、言葉が子どもに与える影響は違ってきます。日常のかかわりで意識しておきたいことを年齢別にまとめました。

0歳児

喃語(なんご)でのおしゃべりや全身で泣くなどの行為を通して、自分の意思を伝えようとする時期。保育者との応答関係の心地よさが豊かな感情を育てます。「鼻水が出たね」「気持ち悪いからきれいにしようね」と、きちんと目を見てこれからやろうとすることを言葉にしましょう。かかわりを積み重ねることで、言葉と行動、言葉と感情がつながっていきます。

1歳児

自我が出てきて、”じぶんで”の思いが膨らむ一方で、それをうまく言葉にできないもどかしさがある時期。そんな子どもの思いをくみ取り、言葉にして伝えましょう。「それはいやだよね」「うれしいね」と、感情を添えることを意識して声かけをすることで、子どもは自分の気持ちが伝わったことの安心感や喜びから、言葉への興味や関心を膨らませます。

2歳児

言葉を使ったやりとりができるようになります。まだ語彙がはっきりしないこともあるので、特に子ども同士で伝わりにくいときには、「〇〇ちゃんが使いたいから貸してっていっているよ」「いいよ、どうぞだって。よかったね」などと仲立ちを。保育者を介してでも自分の思いが伝わったうれしさが、言葉を使って表現したいという思いを育てます。


構成/木村里恵子
イラスト/河合美波
編集協力/近藤みさき

『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2020夏より

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