正月遊びを保育に生かそう!【3・4・5歳児】

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お正月の伝統遊びを保育に取り入れるにあたってのねらいの設定や配慮事項などを、幼児の遊びと発達に詳しい大宮明子先生にうかがいました。

お話

大宮明子(おおみや あきこ) 先生

十文字学園女子大学教育人文学部幼児教育学科 教授

2008年、お茶の水女子大学人間文化研究科博士後期課程修了。博士(人文科学)。発達心理学、認知心理学を専門に、特に子どもの思考の発達、乳幼児期の親子のかかわりについて研究している。子どもと遊び・ゲームについても詳しい。『よくわかる乳幼児心理学』(内田伸子編/ミネルヴァ書房)で「論理的に考える心はいつ芽生えるか」「子どもはなぜゲームに熱中するのか―幼児教育ソフトの功罪―」を執筆。

保育者こそ心底楽しむ!

伝統的な正月遊びであるかるたやすごろくには、世代を超えて楽しめるメリットがあります。保育者も子どもと一緒に楽しんで、勝ったときには大いに喜び、負けたときには残念な気持ちを率直に表現しましょう。心のつぶやきやジェスチャーなどを組み合わせて、大げさなくらいがちょうどいいと思います。保育者が自身の感情表現を子どもに直接見せることで、子どもが他者の感情を理解するきっかけになります。

知育や道徳的な内容のかるたやすごろくも多く発売されていますが、あくまでも「遊び」であることを忘れないようにしましょう。子どもたちが興味を持って取り組み、楽しく遊んでいれば、結果としてさまざまな力が育っています。

かるた

子どもたちはかるた遊びを通して、文字以外にもさまざまなことを学べます。かるたを楽しむために保育者はどんな点に配慮すべきでしょうか。

勝ちたい気持ちも負ける経験も大切に

かるた遊びを通して、子どもたちはほかの人と一緒に何かをする楽しさを経験することができます。たくさんの札を集めるために、自分なりの戦略を考え実行する力も育ちますし、みんなで遊ぶ場合にはルールを守ることを覚えます。

また、必ずしも自分が勝てるとは限りません。ゲームでは勝つこともあれば負けることもあることを知り、負けた場合でもかんしゃくを起こしたりせず、我慢も必要であることを次第に学んでいきます。

かるた遊びは、読み上げた札の文章を正確に聞くことが必要なので、集中力や聞き取る力を伸ばすことも可能です。札の文章の意味を理解し、それに合った札を素早く探す力(パターン認知力)や、どのあたりに該当の札があったかを覚える中で、記憶力を育てることもできます。

知識習得をねらいにしない

大事なのは、「かるたは遊びであって、勉強ではない」ということです。もちろん、教材かるたのようなものもありますが、「○○を覚えさせるためにかるたをする」のではなく、「かるたをしていたら○○を覚えていた」ということもある、ととらえていただきたいです。先に述べたように、かるた遊びはいろいろなことを学べます。知識習得だけに偏らず、子ども自身が興味を持つものであれば、「くるま」でもキャラクターでも、題材は何でもよいと思います。

かるたを手作りするなら……

絵札の絵を描く場合には、何が描かれているか、具体的でわかりやすいものにするとよいでしょう。あまり抽象的な絵だと、読まれた文と絵を結びつけることができない場合があります。また、百人一首のように取り札に句が書かれている場合には、最初の文字を、2番目以降の文字よりも少し大きめに書いておくと、探しやすいですね。

年齢別 保育者が配慮したいこと

3歳児

この時期は、ルールを守って遊ぶことや、文字を自ら読むことはまだ難しいです。無理に文字を覚え込ませることはせず、文字への興味が自然に増すような働きかけを行いましょう。保育者が読み札を読んでいるときに読み方を聞いてきた場合は一緒に読んでみることから始めましょう。文字ではなく、絵から札を探すよう促してもよいでしょう。

負けることを嫌がり、ズルをする子、途中でやめてしまう子もいるかもしれません。そのときは、ルールを守らないと楽しく遊べないことや、その子が抜けてしまうとお友達も楽しくないということを伝えましょう。

4歳児

少しずつ文字が読めるようになります。読み手になりたい子も出てきますので、積極性を応援し、読めない文字が出てきたときにサポートしましょう。すらすらと読めるとは限らないので、読み上げた文が聞き取りにくい場合もあるでしょう。子どもが読んだあとで「〜だね」と保育者がもう一度読むようにすると、子どもも読み方を覚えることができます。

自分で戦略を立てることはまだ難しいですが、「どうやったら札をたくさん取れるかな?」などと、その場限りでなく、少し先を見通して考えられるような声かけをすることで、少しずつ思考力や自立心を育てることができます。

5歳児

「どうやったら勝てるか」と考え、負けそうになってもあきらめない姿勢を応援しましょう。「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」(「10の姿」)の「自立心」や「思考力の芽生え」にもつながります。読み札の文字を読んだり、取った枚数を数えたりするのは「数量や図形、標式や文字などへの関心・感覚」や「言葉による伝え合い」と関連します。遊ぶ際にルールを守るのは「道徳性・規範意識の芽生え」といえますし、チーム対抗戦でチームメンバーと協力し合って遊ぶことは「協同性」に当たります。自分が勝ったうれしさや、勝った友達を祝福するときの感情表現は「豊かな感性と表現」にも通じるでしょう。

気をつけたいポイント

  1. 一緒に遊ぶ人数は、読み手以外は3~4人くらいがよいでしょう。5人以上になると、手が札に届きにくくなります。
  2. 札のひらがなを読めない子の場合、音と文字の形を結びつけることが大事です。札に書いてある最初の文字を言葉で補いましょう。例「アリさんの、あ、あったね」。
  3. 札をたくさん取れる子には、取れる理由を見つけて声をかけるとよいでしょう。例「札の場所をたくさん覚えていたね」。
  4. 札を取れない子には、なぜできないかを指摘するより、どうすれば取れるかをアドバイスするとよいでしょう。
    |例|「手を思い切り伸ばして札にタッチしてみよう」。
  5. 年齢が低いうちは保育者が読み手になりますが、次第に子ども自身が読みたがるようになります。じゃんけんなどで順番を決めるよう促す工夫も必要です。

すごろく

すごろく遊びのおもしろさは、サイコロまかせの偶発性にあります。数の概念を自然に身につけることができるのもメリットです。すごろくを楽しむために保育者はどんな点に配慮すべきでしょうか。

素直な感情をあらわにしてみよう

すごろくはサイコロの出た目の数で進むので、かるたと違って戦略を練るということが難しいゲームです。逆にいえば、偶発的なゲーム展開のおもしろさがあります。このため、年齢が低くても、年長の子どもや保育者に勝てることがあるので、自信が生まれたり、自己肯定感を高めることにつながります。

すごろくは、計数(数を数える)力や数字を覚える力、「あとどのくらいでゴールになるか」といった先を見通す力が身につきます。かるた同様、ほかの人と一緒に遊ぶことを通じてコミュニケーション能力や、感情表現する力、他者の気持ちを読み取る力なども育ちます。ですから保育者が「このままじゃ負けちゃう。どうしよう」「勝ってうれしい」などの思いを、率直に表現してみせることも大切です。

子どもの興味に合ったものを選ぼう

市販のすごろくを購入する場合は、「子どもの興味がある内容のもの」という観点で選択することが一番重要です。たとえば、「歯を磨く」「トイレに行く」「着替える」などのマスがあって、遊びながら生活習慣を身につける類いのものがあります。確かに、生活習慣を意識させることはできますが、まだそれができていない子にとっては教訓的すぎて、かえって嫌がることもありますから、その点は注意が必要です。

すごろくを手作りするなら……

年齢が低いうちは、サイコロの目の数の分を前に進むだけでも難しいですから、ルールはあまり複雑にしないほうが楽しめます。しかし、年齢が上がると少し複雑なルールがあるほうがゲームの偶発性を楽しむことができます。たとえば「2マス下がる」「1回休み」などです。年齢に応じてルールの複雑さを変えるとよいでしょう。

数字がまだ読めない子どもの場合は、○△□など単純な形をサイコロに描き、○ならひとつ進む、△はふたつ進むなどと、独自のルールを決めるのもよいでしょう。

年齢別 保育者が配慮したいこと

3歳児

まだ数字が読めない子どもが相当数いることや、サイコロの目の数だけ進むことを理解できない子どもがいることを考慮しましょう。そもそもサイコロの意味がわかりません。事前に、大型サイコロ遊びを利用して理解しておくのがおすすめです(下の「気をつけたいポイント3」参照)。保育者がサイコロの目をひとつずつ数えて「これは4だから、4つ進もう」というような声かけをしましょう。自分のコマがあるところから数え始めてしまう子どももいます。保育者がサポートをしましょう。

4歳児

4歳ではほとんどの子どもが数字を読めますが、自分のコマの進め方がわからない子どもは少なからずいます。その場合には3歳児と同様の声かけが必要です。コマの進め方を理解できると、次には少しずつ考えながら遊ぶ力が育ち始めます。たとえばゴールが近づいてきたときには、「あと、いくつでゴールできるかな?(サイコロの目の)何が出るとうれしい?」など、ゴールと現在地とを比較させるような声かけをすることで、先を見通す力が育ちます。

5歳児

単にコマを進めるだけではなく、すごろく自体の内容も学んだり、覚えたりできますので、さまざまな種類のものを用意することによって、知識を広げることができます。

「10の姿」との関連では、「数量や図形、標式や文字などへの関心・感覚」をはじめ、かるた遊びと同様、「自立心」「思考力の芽生え」「言葉による伝え合い」「豊かな感性と表現」「協同性」なども関連してきます。

気をつけたいポイント

  1. 人数は多くても5人までに。人数が多すぎると、順番待ちの時間が長くなりますし、ほかの人と自分のコマを比較して、勝てそうか負けそうかがわかりにくくなります。
  2. たまにはルールを変えてみるのもひとつの方法です。例 「サイコロの目がぴったりの数でなければゴールから引き返す」。このルールだと、あとから来た子が追い抜くこともできます。
  3. 大型サイコロを作って、出た目の数だけ歩数を進める遊びをすごろく遊びの前にするのもよいでしょう。自分の体を使うので、数の概念を体にしみこませることができます。

「つぶやき」で保育者の頭の中を子どもに見せよう

子どもと遊ぶ中で「確かこのあたりにあったはずなんだ子けど……」「これでゴールできるかなあ」などと、心配している気持ちをつぶやいて聞かせると、子どもが「じゃあ先生は、このあとどうするんだろう」と考えるきっかけになります。そもそも、「どうやって考えるのか」を子どもはよく知りません。子どもに大人のつぶやきを聞かせ、「考える」プロセスを「見せる」ことで、「人はこういうとき、このように考えるんだなあ」と知り、学ぶことができるのです。いつもつぶやいているのは大変ですが、うまくできない子どもへのヒントになりますので、保育者の援助方法のひとつとして実行してみるとよいと思います。

構成/エディット(堤 理沙子/中根里香/西沢悠希/古屋雅敏)
イラスト/オモチャ

『新 幼児と保育』2019年12/1月号より

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