いりやま さとし さん「かっこいい大人のひと」【表紙絵本館】

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『新 幼児と保育』は、毎号絵本作家さんの描きおろしの絵が表紙となっています。表紙を飾った絵本作家さんの幼年期のエッセイを紹介していきます。今回は、いりやまさとしさんです。

「かっこいい大人のひと」

小学1年生のころ。兄、弟と一緒に。真ん中が私。

先日、我が家の洗濯機が故障をしてしまい、慌てて業者さんを呼ぶことになりました。

洗濯物はたまる一方、やっときてくれた業者さんはいろいろと調べてくれたのですが、結局電子部品の交換が必要とのことでした。現在の電気製品はかなり高性能な部品が組み込まれているので、その場で「はい直りました」というわけにはいかないのはよくわかっているのですが。

自分が幼かったころは、テレビなどはわりと頻繁に故障して、その都度町の電気屋さんが家に来てくれて、その場で修理ということがよくありました。そんなとき、私は電気屋さんのすぐ前に陣取って、マグロならぬテレビ解体ショーを堪能していました。年季の入ったジュラルミン製のアタッシェケースの中には、大小さまざまな真空管がきれいに並んでいました。その中から我が家のテレビにぴったりの一本を選んで、まるで外科医のような手さばきでドライバーとラジオペンチを使って見事に修理完了、まさに神業。電気屋さんが帰ったあと、今度は私が見よう見まねで家にある目覚まし時計を解体するおまけつき。

子ども時代の自分のまわりには、そんなかっこいい大人がたくさんいました。今でいうブラインドタッチでレジを打つスーパーのおばさん、きれいに松の木を丸く刈り込む植木屋さん、マニュアル運転の見事なギア操作を見せてくれるバスの運転手さん。自宅の建て替え工事をしていたときは、学校から帰ってきて日が暮れるまで大工さんの仕事ぶりを間近で見ていました。かんなさばき、墨入れツボの不思議な形、どれをとってみても感心、感服しかありません。

昨今、子どもたちが憧れの職業を疑似体験できるという施設が大人気です。たとえばケーキ屋さん、銀行員、ピザ屋さん、花屋さん、はたまたテレビ局のディレクターまで、うらやましいかぎりです。でも私が子どものころに見ていた、かっこいい大人たちの仕事を観察するのと憧れの仕事を疑似体験できるのとでは明らかな違いがある気がします。

到底真似のできない圧倒的な技術を見たときの感激と尊敬の気持ち、それを子ども時代に経験するのは、とても大切なことではないでしょうか?今を生きている子どもたちに見られたときに少しでも”かっこいい!“と思ってもらえるように日々精進したいと思っています。世の中の”かっこいい大人“たちへエールを送ります。

いりやまさとし

1958年、東京都生まれ。東京都在住。キャラクターデザイン、グリーティングカードのデザイナーを経てフリーのイラストレーター、絵本作家に。絵本作品に、『ぴよちゃんのかくれんぼ』『ぴよちゃんとひまわり』などの「ぴよちゃん」シリーズ(学研プラス)、「みどりのくまとあかいくま」シリーズ(ジャイブ)、『おやすみなさいのおと』『ころころパンダ』などの「パンダ」シリーズ(講談社 ) ほか多数。

『新 幼児と保育』2020年6/7号より

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