のし さやかさん「幼稚園バスでの出会い」【表紙絵本館】

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『新 幼児と保育』2021年6/7月号 表紙

『新 幼児と保育』は、毎号絵本作家さんの描きおろしの絵が表紙となっています。表紙を飾った絵本作家さんの幼年期のエッセイを紹介していきます。今回は、のし さやかさんです。

「幼稚園バスでの出会い」

3歳のころ、ひたすら絵を描く日々。使い込まれたクレヨンが日々の鍛錬(?)を物語っている。

幼いころの私は、とにかく絵を描きまくっていた。描く絵も当時の幼稚園の先生が語るところによると「子どもらしくないきちんと成立した絵」で、うまかった。そんな私の”画力“のおかげで、私はⅠさんと仲よくなった。

Ⅰさんは幼稚園バスの運転手さんだ。五分刈りのいがぐり頭に色つき眼鏡、ちょびひげの九州出身のおじさんだった。油絵を描く人で、全国規模の会にも入っていた。母によると個人的な絵画展のチラシをもらい家族で足を運んだのがきっかけで、交流が深まったらしい。ただ、そのチラシは園児全員がもらったわけではないので、私の”画力“を見て、気に入ってくれていたのかもしれない。

降園時に運転席の真横の席が空いていると「さやかは、こっちへ来い」と九州なまりのぶっきらぼうな感じで声をかけられた。園で作った作品があると「見せてみろ」と言って、出発までの時間、バスの中で講評が始まった。講評といっても「いいじゃないか」ぐらいで特に私の絵画技術を劇的に向上させたわけではないが、ちょっとまわりと違う雰囲気の”絵を描くおじさん“との交流は興味深かった。

弟とⅠさんの自宅へ遊びに行ったこともあった。自宅まで迎えに来てくれたⅠさんの車は年季の入ったもので、後部座席にはガラクタが満載だった。油絵のモチーフにするものだと聞いた。「こういうものを集めて絵を描くんだ」と私は、びっくりした。

Ⅰさんの家で何をして遊んだのかさっぱり覚えていないけれど、車中の壊れた扇風機は、はっきり思い出せる。今、私が”絵の参考にする“という大義名分でガラクタをため込んでも罪悪感を感じないのはⅠさんの影響かもしれない。

私にとってⅠさんは人生で初めて出会った”芸術家“だった。そして、家族以外で私の”芸術的センス“を認めた初めての人だったのだと思う。

のし さやか

1978 年和歌山県生まれ。主な絵本作品は『じいちゃんバナナばあちゃんバナナ』『おいしいふくやさん』シリーズ(以上ひさかたチャイルド)、『おとうさんのせなか』(チャイルド本社)、『ふゆごもりホテル』『まかしとき!』(フレーベル館)、『ブッケ、ピッケ、トッケのおかいもの』『にこくまさん』シリーズ(ひかりのくに)、『にんぽういただきますのじゅつ』(東本願寺出版部)など多数。現在和歌山県在住。

『新 幼児と保育』2021年6/7月号より

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