長年読み継がれてきた“むかしばなし”絵本【児玉ひろ美のこだま文庫】

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児玉ひろ美の絵本ガイド
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JPIC読書アドバイザー

児玉ひろ美

ここは、みなさんの記憶の隅にある懐かしい1冊や気になりながらも読まないままの1冊、そんな本に再び出会うためのオンライン図書館です。今回は、よく知っているだろう昔話の絵本から。みなさんはそのストーリーを、覚えていますか?

児玉ひろ美さん

JPIC読書アドバイザー、台東区立中央図書館非常勤司書。日本全国を飛び回って、絵本や読み聞かせのすばらしさと上手な読み聞かせのアドバイスを、保育者はじめ親子に広めている。大学にて「児童文化」を担当するなど、幅広く活躍。著書に『0~5歳子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』(小学館)。

むかしばなし再考

『三びきのこぶた』<イギリスの昔話>

訳/瀬田貞二
絵/山田三郎
福音館書

イギリスの昔話の中でも日本人に最もよく知られているお話のひとつでもある『三びきのこぶた』。みなさんの記憶の中ではどんなストーリーになっていますか? 3匹の子ブタが力を合わせてオオカミを退治する話でしょうか? それとも、2匹の子ブタはオオカミに食べられ、残った子ブタが知恵を絞ってオオカミを退治する(食べる)話でしょうか? 

ある読み聞かせの講習会で受講の方々にお尋ねしたところ、思いのほか、「子ブタが力を合わせてオオカミを退治するお話」としてご記憶の方が多く、驚いたことがあります。

「ふうふうふうの ふっと、 いえを ふきとばして、 こぶたを たべて しまいました。」

イギリスで語り継がれてきた昔話では、貧乏な母親ブタが子どもを育てきれず、自分で暮らしてゆくよう、3匹の子ブタを外に出します。先に出かけた2匹の子ブタの一方は藁、もう一方は小枝で家を建てますが、どちらの家もオオカミに吹き飛ばされ、2匹は食べられてしまいました。

ところが、3番目の子ブタが建てたレンガの家は、オオカミに吹き飛ばされることもなく、子ブタの命を守ります。オオカミはあきらめきれず、あれこれと誘いをかけてきますが、3番目の子ブタは騙されず、むしろ、その裏をかいてオオカミを悔しがらせます。

ついに、オオカミはレンガの家の煙突から中へ入ろうとしますが、鍋に湯を沸かして待ち構えた子ブタに「ことことにて」食べられてしまうのです。

「それからさき こぶたは ずっと しあわせに くらしました。」

日本ではこれを「残酷で恐ろしい」として、1番目と2番目の子ブタは、オオカミから逃げ、3番目の子ブタと一緒にオオカミを退治したり、オオカミが心を入れ替えたり、さまざまに筋を変えたお話が出回った時期もありました。でも、母親に自分で「暮らせ」と外に出された子ブタは、なんとしても生きて、暮らしていかねばなりません。それなのに、2匹はオオカミに食べられてしまった。だからこそ、オオカミは当然食べられるべくして3番目の子ブタに食べられ、そのさき、子ブタは安心して暮らしていけるのです。

『かちかちやま』

再話/おざわとしお
画/赤羽末吉
福音館書店

「そのうちに、せなかに ひが ひろがってきました。
 たぬきは、 あつくて あつくて がまんできなくなり、」

残念なことに、日本の大切な昔話のひとつでありながら『かちかちやま』も「残酷で恐ろしい」といわれ、読まれることが少なくなっているお話です。このお話でもやはり、大切なばあさまを殺した悪いタヌキは、こらしめられるべくしてウサギにこらしめられます。

子どもたちは物語の展開に興味を持ち、「それから、どうなるのだろう?」という表情で聞き入ります。人と動物の暮らしが間近であったころの、素朴なお話として、まずはご自身が読んでみるとよいでしょう。

『昔話は残酷か――グリム昔話をめぐって』

著/野村 泫
東京子ども図書館

昔話の残酷性は、子どもの心に不安や恐怖や
悪に勝つ力を育てる

昔話について、学生にすすめる本の1冊に『昔話は残酷か――グリム昔話をめぐって』があります。ドイツ文学、とりわけグリム研究が専門である著者の、厚さ5ミリ程度の60ページに満たない冊子ですが、文芸学、民俗学、心理学からの論考があります。図書館の児童担当必携の書といわれ、1997年から読み継がれています。

10月と11月のおすすめ絵本

テーマ「おいしい絵本」

『サンドイッチ いただきます』

0歳から2歳向け

作/岡村志満子
ポプラ社

おままごとみたいにサンドイッチを作って遊べる仕掛け絵本です。「パンにバターをスススッ」「レタスをサササッ」「きゅうりをピピピッ」。軽やかなオノマトペも耳に楽しい。

『めん たべよう!』

0歳から2歳向け

作/小西英子
福音館書店

子どもの大好きな麺料理、うどん、スパゲッティ、そば、ラーメンの4種のお店が登場します。「きょうはラーメン たべようか!」。お店に入って好きなメニューを選べる楽しさ!

『やきいもするぞ』

2歳から4歳向け

作/おくはら ゆめ
ゴブリン書房

森は落ち葉だらけで、畑はお芋だらけ。「やきいもするぞエイエイオー」。みんなでおなかいっぱいに食べたあとは、おなら大会の始まりです。一番いいおならをするのはだれでしょう?

『ふたごのたこたこウィンナー』

2歳から4歳向け

作/林 木林
絵/西村敏雄
ひさかたチャイルド

ふたごのたこたこウィンナー。お箸にはさまれるのはいやだと逃げ出します。空からお箸が追ってきて、とこたこ とこたこ、どこにかくれる? 見つけ遊びができる参加型絵本です。

『おひさまパン』

2歳から4歳向け

作・絵/エリサ・クレヴェン
訳/江國香織
金の星社

おひさまが隠れてしまい、町中が元気をなくしています。「ほんとうのおひさまは かくれたままだから」と、パン屋さんがおひさまパンを焼きました。町のみんなは、温かなおいしいパンで満たされ、目を覚まし始めたおひさまにもパンを投げあげました。すると…。

『きょうのごはん』

4歳から6歳向け

作/加藤休ミ
偕成社

自由な猫の視線で夕方の家々の食卓を覗きます。こんがり焼けたさんま。みんなで作ったカレーライス。とうさん得意のオムライス。どの家もおいしそうで、匂いまでしそう。

『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』

4歳から6歳向け

作/さいとう しのぶ
原案/みね よう
リーブル

「あっちゃん」から「んっちゃん」まで、食べ物尽くしの遊び歌絵本。1文字につき見開き1ページは、そのどれにも、ストーリーが絵で語られていて、何回も楽しめます。

『おだんごスープ』

4歳から6歳向け

文/角野栄子
絵/市川里美
偕成社

おばあさんが亡くなり何もする気が出ないおじいさん。ある日、おばあさんの作ってくれた、おだんごスープが飲みたくなり、作ってみます。レシピは記憶の中のおばあさんの歌です。

『おせんべやけたかな』

異年齢

構成・文/こが ようこ
絵/降矢なな
童心社

おなじみのわらべうたが絵本になりました。幅広い年齢で楽しめます。「おせんべやけたかかな」のページで、次に焼けるおせんべはどれか、当てっこして遊べます。

『ふるふるフルーツ』

異年齢

文/ひがし なおこ
絵/はらぺこめがね
Gakken

フルーツパフェを作りましょう。「しましましましま」「すぱぁん さくっ」の音も楽しく遊べます。各ページの果物を紙に描いてパフェの盛りつけごっこや、盛りつけコンテストの開催も。

『なにをたべてきたの?』

異年齢

文/岸田衿子
絵/長野博一
佼成出版社

しろぶたくん、リンゴを食べるとおなかにリンゴ色。レモンを食べるとレモン色。胴も伸びていきます。ビッグブックもある隠れたロングセラー本(1978年初版)。支援学級でも人気です。

『新 幼児と保育』2019年10/11月号より

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